新型コロナウイルスの市中感染が日本でも本格化する中で、急に注目されているのが、「リモートワーク」体制。もともと今年の夏のオリンピックに向けて都心の大企業や一部の公的機関では「リモートワークの推進」が段階的に行われていました。若いベンチャー企業では当たり前のように行われているところも多いのですが、歴史ある中小企業では「具体的にどうすればいいの?」がわからないというケースも多いようです。実はリモートワークを便利に取り入れるには、そこそこの規模の準備が必要です。そして、「ルール」を変えるだけでなく、その背景にある企業文化、人間観も変える必要があります。
「リモートワーク」というと二言目には「セキュリティ」「リスク」という管理部門、「やっているかどうか見えないでどうやって管理すればいいんだ」という役職者。これらにはどう対処したらよいのでしょうか?中小企業を念頭にこの辺をさほどお金をかけずにできる方法をご紹介したいと思います。
勤務を管理する
リモートワークでも、法的には「時間管理」の枠組みを逃れることはできません。つまり、勤務開始と勤務終了のタイムカード記録は必要です。日本ではまだまだ紙のタイムカードが運用されていますし、小さな会社では(それでよく労基通るなと思うのですが)EXCELというところもあります。しかし、この機会に、クラウド型でスマホやPCで打刻するタイプに勤怠管理システムに変更しましょう。メジャーなものですと費用は月額一人300円程度です。いろいろと設定は面倒ですがそれはお手伝いします。チェックも集計もずいぶん楽になります。法律対応も毎年やってくれますので、社内システムを作った、という会社も特殊なことをしていなければ移行した方がメンテ料金払い続けるよりもお得なことがおおいでしょう。
ここで早速一つ問題がでます。「オフィスに顔を揃えないで、本当に勤務しているかどうか確認できないではないか?」あるいは、「スマホゲームしながら適当やっててもわからないではないか?」という指摘に対して、皆さんの会社ではどうしますか?まず、答えは「わかりません。」です。開始時や終了時、あるいは提示にSlack等で状況報告をさせるなどの補完策はあったとしても、いくらでも目をごまかすことはできます。
リモートワークをするということと、「精勤を監督する」ということは両立しません。もし、それが必要だと信じているならばリモートワークはしない方がよいです。しかし、その「うわべだけの精勤」が「成果」に直結しないことがあなたの会社の本当の問題なのではないでしょうか?リモートワークで監視し、管理するべきは、「精勤」ではなく、「成果」です。その週、あるいはその日に経営課題に対してやるべきことが明確に合意されていて、それが完了したかどうか、どのレベルの品質で完成しているか?それを監視し、評価すればよい、という立場に立たないと成り立ちません。逆にいえば、十分な成果が挙げられているならば、途中適当に休憩していてもゲームしていても構わないでしょう?(会社のトイレで長時間ゲームしている社員はあなたが知らないだけで実はいるでしょう)給与は利益につながる成果に対して支払われるものなのだから。そういう立場に立てるかどうかがまず、リモートワーク成功の最初の関門です。
ですので、当然、リモートワーク、いや、事務所での作業であったとしても、その日、その週の「成果物」がマネージャーとの間で明確化されているべきなのです。それができていないのは、マネジメントの問題です。
なお、作業予定の共有については、社内ポータルのカレンダーや、Googleカレンダーで実現可能です。そこに当日の作業予定を具体的に記入し、ブロックタイム(集中のため、回答しない時間)も適切に決めて置けばよいのです。
セキュリティを守る
時々、喫茶店でパソコンを見ながら大きな声で電話で社内の業務指示をしている人を見かけます。何となく社内のルールや起きているトラブルがわかってしまうこともあります。そうでなくても、画面を覗き見ることもできてしまいます。これは、リモートワークではなくても、営業が訪問の合間の時間調整がてらでも起きている現象です。この現象を見ると、「喫茶店で仕事をする」ということがいかに無防備であるかを感じます。中小企業ではサテライトオフィスを持っているようなところはまれでしょう(法人契約が高い)から、いっそ「自宅」をベースにするべきでしょう。その方が会社に費用が掛かりません。
そういうと、「家では集中できない」と言い出す人がいます。実は私もサラリーマン時代も40代に入ってからはその傾向がありましたが、起業してからはほぼ克服しました。むしろ、時間を制限できず延々とやってしまい心身の管理に難しいという方に問題を感じるようになりました。なぜ克服できたか、というと、「今日中に完成させてクライアントに提出しないと、来月の業務委託契約の継続の危機」という緊張感に常にさらされているからです。そのため、「今日の午前は〇〇を必ず完成させて、午後は週後半のブログ(これ)を書いて、夜は明日以降のA社とのトランザクションの準備をして…」ということを一日に何度も明確化して進めるようになったのです。そのような「ミッションの明確化」はこの症状にも効果的です。
もう一つの意見は、仲間内で適当にしゃべったり、一緒に昼ご飯を食べたり、という時間がないととても孤独だ、ということです。これは時間を無駄にしている、というのではなく、休憩やちょっとした交流が人生にとってどんなに意味があることなのか?ということを実感するものであるならば、「仲間」の大切さを思い知る良い機会です。そして、1か月も続くとストレスかもしれませんが、数日ならばよい機会でしょうし、社内SNSやテレビ会議でくだらないことを言い合い少し交流する機会を持つのも良いでしょう。
一方でそのように見せて実は、「口で人にやらせているだけで、自分は何もやらない(やれない)し、文章や表で具体的に指示もできない」がために、立ち往生している困ったちゃんもなかには潜んでいます。こうした人をあぶりだすには良い機会とも言えます。こういう人は、顔を合わせていたとしても、「成果を明確に引き出す」ことができていない管理者か、手取り足取り教えないと何をしてよいかわからない担当であるからです。そういう人は組織にそこそこの割合います。この人たちは、多分…その組織にいらない人なのです。
話がそれましたが、セキュリティについては、社員全員にノートPCが支給されていればそれを使えばよいのですが、中小企業では自宅の個人パソコンを業務に使用する、ということが現実多くなるでしょう。また、これは普段から機密情報や個人情報をどのように管理するかにも関わってきますが、ノートPCがあったとしても、端末の紛失やメールの誤送信は悪意による大量流出を除けば常に上位1,2位を占めます。ここに対策するには、端末にはデータを保存せず、クラウドシステムや社内のデータサーバーに保管して、そこを介してやり取りをする、という仕組みを採用することが適当です。たとえば、Googleドライブがそれです。もちろん、アクセス権が必要最小限に個人別に設定されていてそれを管理者が管理していることが前提であり、そこの整備を「情報管理台帳」を元に実施されていることが準備として必要になります。(そこもお手伝いします)
クラウドでは、セキュリティは大丈夫なのか?ということをよく言う方がいらっしゃいますが、軍事や国家機密を扱うようなケースは私には手に負えませんが、一般の企業に関しては、自社でサーバーを立てて誰かが兼任でコントロールするようなケースに比べれば、Googleに任せた方がはるかに安全、かつ安いということは言えるでしょう。ただし、くれぐれも、「アクセス制限」と「定期的な点検」だけは忘れないでください。社外とのデータのやり取りが生じる際も、(個人情報は発生しないはずですが)重要情報については、メールではなく、ドライブ上にその人専用の交換スペースを設けてやり取りしそれが終わったら削除してアクセス権を解除する(ディレクトリ毎削除する)とした方が誤送信事故は起こりにくいでしょう。
総務人事経理系の業務は会計システムや人事管理システムなど特定のシステム上のデータをメンテナンス、出力するという業務が多く存在します。これもクラウドサービスであれば、リモートワークが容易です。そうでない場合は、VPNで社内に接続する、という手続きを取ることになります。適切に設定すればこれでもリスクはコントロールできるはずなのですが、その「適切」が社内のどこまでというのをきちんと定義して制限することは意外に難しく、中小企業にとっては結局多分高くつきます。(自社でできないで外注するにしても難しいし高い)今後は、できる限り汎用のクラウドサービスでメジャーなものを中心に業務を再構築していくことが勤務の柔軟性を高めますし、さらにその先にある、在宅勤務やアウトソーシング受託専門企業などを活用するなどの柔軟な業務設計が可能になります。社内のネットワーク、サーバーをきちんと管理するということを中小企業が行うコストはできるだけ掛けないという方向性が可用性の面でもセキュリティの面でも、コストの面でも適切なケースが今後は大半になると思います。
会議はどうするのか?
リモートワークを始めようとすると、「朝礼はどうする?」とか「定例(会議)はどうする?」という人が必ず出ます。それ、本当に必要なんですか?一遍辞めてみて、やらないと問題あるかどうか試してみてはどうでしょうか?今日、誰が何をやるべきかを定義して文書で配布して、質疑はSlackなどの社内SNSで文章でやり取りした方が、あいまいさを排除でき、記録も残りマネジメント手法としてよいのではないでしょうか?
それでもやりたいならば、上のような資料は事前に配布したうえで、Zoom等のテレビ会議システムを利用するとよいでしょう。最初は慣れませんが、相手の話を最後まできちんと聞いてから発言する、というような当たり前のことがなぜかテレビ会議だと自然にできるのが不思議です。ちなみにZOOMは、1対1の会議は無料で実施可能です。複数人(100人まで)ならば本日現在では月間2000円です。テレビ会議というと、複合機メーカーなどが立派な高価なシステムを提案していますが、そういうのは巨大企業に任せておけばよく、顔が見えて画面が共有できるこのような簡易なもので十分同じ機能を果たせます。
また、仕事の進め方で確認点や途中経過などはSlack等の社内SNSでテーマごとなのか部門ごとなのかのセクションを作成し、そこに記入していけばよいのですし、よほど急ぎで説明が困難なものは電話でやり取りすればよい。その電話も、通話料の負担で揉めるぐらいならば、こうしたメッセージサービスの通話機能を使えばよいのです。
社内SNSを使用すれば、「自分が集中して作業をしたい時間帯は回答しない」という対応が取れます。(これは本来メールでもできることです。)現代人は、電話やメール、あるいは直接依頼などで飛び込んできた要求事項を時系列で即対応しなければならない、という思い込みにとらわれすぎています。実は、このうちかなりの部分は、自分が対応しなくても相手が勝手に解決していたり、時間が経過しているうちに状況がはっきりしたり情報が集まって対応時間が短くて済む、というものです。病気や旅行で休暇明けにメールを開くと数十の未読に唖然とするが、全体を確認してから処理し始めると意外にも処理に時間はかからない、という経験をしたことはありませんか?対面ではなく、リモートだからこそ、こうした「自分の成果優先」を適切に進めることができるはずです。それはきちんと成果を出せさえすれば、「正しいネグレクト」です。社員は上司の雑用係ではなく、成果の分担要員です。
真の「コラボ」とは
確認や知識の交換はテレビ会議やSNSでやればよいし、成果は毎日時間を決めて報告させれば会議の必要はないと思います。また、ドキュメント作成業務は、Googleのアプリを使えば(最近はマイクロソフトも共同編集機能を提供していますがドライブ等の制約がある。)、同じ書類を複数人で同時に修正追記して完成させるようなことも可能です。実はほとんどのオフィス作業は、リモートワーク化しても全く問題なく、通勤時間はほぼ無駄である(その時間で仕事する方がよい)、というのが私の一年半のリモートワークの実感です。
しかし、やっぱり行かないとダメなものもあります。順番に上げていきますと、受注前の新規営業はリモートはほぼ無理です。それは、経営者や相手の管理者が発注するかどうかを決めるポイントは、ドキュメントではなく、人格と能力への信用を確立できるか、であるからです。
また、経営者とじっくり対話する時間、というのはリモートではやらないというルールを私は設けています。アウトプットが明確な作業であればリモートでよいのですが、経営者の自己の内面との葛藤やその日の体調、あるいは強がる時の手のこわばり、足の踏ん張り、といった情報全てをみて、何をどのように語るべきかを決めているため、テレビ会議がそこの情報をうまく伝えてくれないことが(真剣勝負の場であるだけに)怖いのです。
「現場に変更や作業をお願いする」というのも、説明文書と手順書はキチンと容易するのですが、それでも自分が説明するときには、対面で実施します。本当に自分がこれが会社にとって必要だと思っているということを伝えて、必ず遂行してもらいたい、という時に、会っておいた方がのちのち遂行不備があった時に、話し合いがしやすいと感じるからです。こうした点では私はやっぱり昭和の男なのかもしれません。
コロナウイルス禍がどこまで今後拡大するのか見通せないところではありますが、中国では学校の授業も、事務作業も数億人規模で大規模なリモート実施が行われています。(工場だけは、そうもいきませんので、帰省者の出社時期を見定めるフェーズが続いています。)中国では、経営者や管理者も若い方が多く、ネット社会が日本よりもはるかに進展しているため、おおむね肯定的な受け取り方が多いようです。
時間単位の最低賃金や固定的な月給制など、昔ながらの「時間」を基準とする労働法制による制約はいろいろなところにあるのですが(これは中国も同じです)、実際のオフィスのマネジメントの基準は、すでに「時間から時間までの作業」ではなく、「成果物」「稼ぎ」になっているはずなのです。それを基準にルールを再整理して、ネットのちからを借りやすい業務の仕組みに社内を変えていけば、リモートワークは決して難しいことではなく、コロナウイルス禍も災い転じて福となすことができるはずです。
ただし、その肝心の「成果はきちんと出せ、成果はオフィスにいなくてもだせるはず」というところが管理者も社員もわかっていないと、「だらだら過ごして楽をする期間」になってしまう恐れがあるのも事実です。