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中国とんでも… 中国の会計 税務 あれこれ1

人気シリーズ 今回は中国の実務に関連して会計関連の話題を集めてみました。たくさんあるので、今日はその1回目です。

 

■はじめに~制度はきちんとしている~

中国でも日本とほぼ同時期に内部統制の整備要求がされ、時価評価の仕組みが上場企業には要求されています。中国企業は、ニューヨークでの上場を目指すという意欲が当時はとても強かった(今は香港が十分大きいので、一部の大企業以外はその必要もないのでしょうが)ので、むしろ守旧派の抵抗が根強い日本よりも進んでアメリカ、あるいは国際会計基準への準拠が進んでいたのです。ところが、これは表立っての制度の話。実際はどうかというと・・・

 

■会計の資格

中国では会計業務、具体的には、仕訳などの経理業務と納税に従事するのに、国家資格が必要です。この話は後々また出てきます。この会計「師」(中国語ではこちらを使う)にはランクがいくつかあり、専門学校卒レベルで授業を受け試験を受ければとれる「会計従事証」(中国語で上崗証)を持つ人が最低一人は必要です。また、私が総経理を務めていた企業は規模が大きかったので、さらに「会計助理」または「会計師」を採用することが義務付けられていました。その上には、さらに「高級会計士」というのがあります。ただし、これらに必要になる知識は標準的な仕訳と税務の適正な申告に関する部分であり、日本でいうところの「ファイナンス」や「管理会計」の知識は全く問われることはありません。このため、40歳過ぎて、頭の固い仕訳職人が経理部長、ということが多くの企業で起きるのです。私の会社もそんな会社の一つでした。

ちなみに、どの会社の経理部にもスタンド型の電動ドリルと麻紐があります。一か月の経理処理が終わるときれいに全部を同じ大きさに折りたたみ、厚紙の表紙をつけて、ドリルで穴をあけ、麻紐で緩まないような一定の綴じ方をする、というのが上の資格の中で講義され必要とされているらしく、二穴パンチで穴開けてパイプファイルに出金順に綴じる、という日本の流儀は通用しないのです。

 

■誰のための経理部なのか?

ここは赴任するまで知らなくてとても違和感があった部分です。中国での伝統的組織論では、経理部門は、他の管理部門から外れていて総経理直属ということが一般的です。さらにいうと、総経理にも直属しておらず、彼らは直接税務局(これも国家税務局と地方税務局の2つが並列しているのですが)から指示を受け、直接データを秘密裏に提出しています。そのため、多くの会社で他の管理部門の社員と協力協調して事業を進めるという姿勢を持たず、エリート意識が強く、他業務との兼任や参加を嫌がる、あるいは事業部門を統括する副総経理級に対して協力せずに社内がもめる、というようなことが起きます。私よりも前の総経理はそれを追認していたようで、赴任当初から、この硬直した姿勢に悩まされました。

経理部長がそれをこなすだけの政治的調整力があればよいのですが、また多くの会社でこれが「帳簿職人」がそのまま年を取ったレベルで、実際には党人脈を持つ副総経理や総務人事部長が社外調整を行わないと何事も進まない、ということが起きるのに、両者の仲が悪いのです。最初は自分の会社だけなのかと思い、日本人商工会の懇親会の席で相談したところ、多くの日本企業が抱えている悩みで、こうしたこともそこで先輩方に教わったのです。

それでも、「お前がやらないなら私がやる」と言って、私がセグメント別管理会計の仕組みを作り、各部と運用し始めたり、あるいは銀行との挨拶や税務署との挨拶を彼が断わるので秘書さんと一緒にやるようになると、「こりゃ、ダメだ」と観念したのか、逆に取り込みに走り、「実はこんなデータが税務局に提出されるんだ」とこっそり見せてくれたりするようになりました。ただ、会計業務従事証を持つ社員は経理部以外にも実は社内にたくさんいまして、私の秘書さんも副総経理も持っていたので、その話はもう知っていたのです。

 

■ルールはあるが、実際は違う、というのはここでも同じ

先ほども書きましたように、中国の会計ルールはある意味日本以上に進んでいます。しかし、実際には税務局の課長級が自分のやりたいようにルールを運用しています。それは他の業務と全く同じです。例えば、減価償却費について、中国でも会計と税務を分離して会計上は償却期間を短縮し、税務上の費用との差額を税効果として計上するということが可能です。しかし、これを実施しようと思うと、社内の会計師は「だめー」(という変な日本語だけ先に覚えらえてしまいまして)といいます。規則のここに書いてあるだろう、といって税務局に確認させるのですが、税務局もだめだといいます。本当か?と思って、毎月会計が終わると税務申告を地方税務局に紙で提出に行くのですが、その時に付いていって挨拶がてら聞くと、「それは認めない、正しくない処理だ」と断言します。ここまで何回かご覧になった方はお分かりいただけるでしょうが、そこで「この規則のここはどう解釈すればよいのですか?」なんて言ったら会社は本格的な危機を迎えます。心の中で詰っていても、そこは「不明だった点に明確なご助言をいただきありがとうございます。以後そのようにいたします。」といわなければなりません。

また、中国では、長い間、税務的に処理が認められない費用は会計的にも費用ではない(つまり仕訳しない)、ということが通用してきました。税務上の費用と会計上の費用が相違するということが、会計従事者にも税務局にもなかなか通用しません。これの説得に数か月を要しました。会社から出金しているのに、帳簿上の残高と金庫の在高が相違するのですから、良いわけないのですが、それすら、「不一致でいい」と言うのです。

一事が万事 この調子です。

 

■ラスボス 税務局

税務局は二つあります。国家税務局と地方税務局です。それぞれ対応する税品目も相違するのですが、すべての会社が2つ、それぞれの「税務登記証」を有していて、結構立派な額に入れて経理室に飾りたがります。(表示する義務があるのですが)それで、両方に毎月決済と納税額を届け出ます。途中から電子申請もできるようになったのですが、うちの会計君は毎月手動で行っていました。それは別に構わないのです。そこの税務局の課長さん達とコミュニケーションとってトラブル避けるのも中国では仕事のうちですから。

ところが、力のない経理部長は、いらんもめ事をそこで拾ってくるのです。ある幹部の息子を採用しろ、とか…前回も出てきたこの手の騒動ですが、この場合も結局、息子が不良少年だったりして、各部に相談すると、「あの経理部長には協力したくない」と露骨に言われてしまいました。そう言ってもらえる私もようやく溶け込んだ感がありますが、それを断るとあら捜しを税務局にいろいろされるのです。この時、引っかかったのは、原材料として登記していたプロッター用紙の端っこの廃棄率を過剰に見積もっている、という指摘でした。そんなことよく見つけたなあ、と感心していると気づいたのは、その情報の出元はその経理部自身なのです。結局彼は自分で火をつけて自分で消して、税務局にも総経理である私にもいい顔をしようとしているわけです。ちなみにこの廃棄率問題は、10ロール分をすべて保存し、計測状況をビデオカメラにとり、切れ端も持参して担当部門の課長と説明に行きました。この課長も四川省の有名大学卒の党員でしてそういう場合はなんとか収まりがつきます。

 

また、別の時には、その会社のようなBPO型の企業は、増値税対象なのか、消費税対象なのか、をめぐって国税は増値税だといい、地税は消費税だというわけです。困ってしまい4大会計事務所系列の日本人職員に聞いたりしても、あるいは、類似産業が集積しだしていた大連の事例を調べても、結局は人治社会の中で有効な通達が見つかりません。こういう場合…接待工作するしかありません。ただ、会社の費用にすると日本側に知れて問題になるので、個人で数十万円を出費したことがあります。

そんな苦労をしながらもなんとかしのいできたわけですが、最後に、これは次回(来週)にも続きを書こうと思うのですが、入居していた工業区が宝石産業を集積するという方針を打ち出し、当社は建物も保有し営業許可も土地使用権も有していたので、あの手この手で追い出しにかかられました。こういう時、先鋒を担うのが、税務局と消防なのです。いろいろな違反を建物に関連する部分で言いがかりをつけて、建物から追い出そうとしてきます。その一方で、建物を買うよ、という富豪がタイミングよく現れる、という仕掛けになっているのです。

それが人治社会中国の実態でもあります。

 

■領収書売っています。買い取ります。

大きな家電店やショッピングセンターの前には若いあんちゃんがいて、買い物したあとの客に近付き、「ふぁーぴゃお、ふぁーぴゃお」といいます。これは「発票」のことで、税務局が発行した「領収書」のことです。企業が税務上の経費とするためには、この税務局の発行した「発票」を費用の証憑と合わせて添付することが必要です。ところが、小さな商店や個人間の売買やサービス(たとえば以前記載した壁塗りを個人の便利屋に頼んだ場合)では発票は発行されません。個人の場合は本当に税務上の要件とされていないケースもあります。そのため、そういうやり方でしか依頼できないような小さな修繕などではどうしても発票が発行されないケースがでてしまう、というのが上に記載の税務上の費用と認められない費用が存在する理由でもあるのです。

さて、このお兄さんですが、もしスーパーで発票を私がもらっていると、その発票を安く買い取ってくれます。そして、企業には怪しい手書きのポスティングがあり、「発票を売る」と書いてあるのです。もちろん違法ですが、こうして発票が流通することで、さきほどのように費用にできなかった費用を費用化することができるのです。そして、そもそも、これを固く禁じたために先ほどの税務と会計の不一致という問題が生じたのです。実はこの発票を使えば、いろいろな悪さをすることができます。そして、発票は偽物がかなり出回っています。そのため、税務局のウェブサイトに発票に記載されている番号を入力すると真偽と発行都市が判定できるようになっていて、「そんな前向きでないこと、怪しい取引や怪しい新しい取引先のはんこのものだけでいいよ」と私が言っても、「税務局の指示だから」と管理会計の改善をそっちのけで一日チェックしている財務部長がいるのです。そう、彼の本当の上司は、総経理の私ではなく、税務局。実際、時々偽物があり、それについては再発行を担当者に要求させるのですが、大抵実りません。そして、税務上は費用として申告できず、財務部長は、その取引先を税務局に連絡しているのです。

 

財務回りはほかにもいろいろな戦いがありました。会計人材の解雇と採用、あるいは会計事務所もまた可笑しくて、結局会計事務所の年次監査報告書を私が大幅に直していたりしたのですが、今回は長くなりましたので、一旦ここまでにいたします。

 

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