前回と今回は、本当に業績が厳しく、支払に支障を来すような状況になった場合の基本的対処手順をご紹介しています。経営者にとって、一番厳しいのは、支払資金、返済資金が手元になく、めどが立たないままに期日は一日一日と迫って来ることです。恥ずかしながら私も財務担当役員として、12月末の支払が3億円あるのに、予定月末残高が20万円、つまり誤差の範囲という窮地に陥ったことがあり、生きた心地のしない1か月余りを送ったことがあります。ちなみにこのときにはどうしたかというと、親密先に当月納品業務の支払を当月いただくお願いをして凌ぎました。しかし、そんなことがいつもできるわけでもなく、また金融機関との再生交渉も緒に就いたばかりで、つなぎ融資も降りるかどうか不透明、というときにはどうすればよいのでしょうか?というのが今回のお話です。
まず、出金を止めるというのは真っ先にすぐにやらなければならないことです。これについては前回記載しました。こちら
それとは別に、できることとしては、次のようなことがあります。
このうち、売掛債権の担保化は日本以外では当たり前に用いられている方法でして、日本でも最近はノンバンク系の「ファクタリングサービス」会社が各種サービスを提供していますし、経済産業省なども中小企業の金融の円滑化の観点から推進している政策項目です。。ただし、ノンバンクは非常に料率が高く最終手段という感じであることがおおいこと、ここに、「債権譲渡」という法的取り扱いが絡むと支払側の受託側への心証が悪くなることを懸念して利用を躊躇する(営業側が反発する)という問題が発生しています。このファクタリングサービスの利用を検討していることを他の金融機関に報告すると、その案件の入金先をその金融機関にすることで、ファクタリングサービスよりもだいぶ有利な金利で短期貸付に応じていただいたこともあります。いわゆる「ひも付き融資」というものです。
2もその類ですが、これを信用してもらうためには、発注主が信頼に足ることと、書面がきちんと整備されている(もちろん実態があり遂行が見込める)ことが必須です。発注書や契約書もない状態で仕事をしていて、厳しくなってから慌てても遅いのです。こういうことがあるから、せめて発注書ぐらいきちんと整備しましょう、とお付き合い先にもよく言うのですがなかなか現場では進みません。これは経営者の責任で普段から進めておいて欲しいものです。なお、過去に発注があった業務の2回目ですとか、過去に入金実績のある取引先であれば、この流動化の成功率(=金融機関の審査部の承認率)は高まります。大きい取引先とリピート発注があることはこうした面でも有利ですので、そういう観点から取引先を見て置くことも大事なことです。
3は、その在庫がどれだけの実質資産価値(=お金に変えられるか)があるか、という論点があり商品系では実は販売が見込めない在庫が相当数あり、これの評価額を引き下げる(損失計上する)のか、という論点とセットになるという副作用があります。多くの場合、実は不動在庫が相当含まれていることを貸す側は見抜いています。まあ、この「不動在庫」を処理することも次なる課題ではあるのですが…。1,2も含めた、こうした動産担保融資(ABL)手法は、日本の歴史ある金融機関では一般に苦手としており、一部の新興金融機関に取り扱いが限られていますし、これを金融機関にかけあえるアドバイザーも限られているのが実情です。その辺を専門家の力を借りながら、何とか解決策を合意するまでの命脈を保つ、というのがこの作業です。
5の土地建物の担保融資については、すでにここに至るまでに担保設定されている場合も多くありますが、それでも追加で借りられる場合があります。それは、土地建物の評価を「実勢価格」で再評価してくれる貸金事業者の場合です。いわゆる不動産担保融資専門会社がこれにあたります。対応も極めてスピーディーであり、最後の砦になっているケースも多くあるのですが、その分やはり金利は高いですので、できればこの手前で対策をしたいところです。
何をかえなければならなかったのか?
いろいろな事情はありますが、小さな会社において、このような状況になる理由は、詐欺や横領に会うと言った事故を除くと、だいたいが次の2つのように思います。マーケティング不在とか人材の問題とか、もちろんいろいろな問題がその背景にはあるわけですが、そんな大それた、頭のいい人が言うような課題ではない、実に当たり前のことで躓いていることの方が多いのです。
特に2は「ベンチャー」と名のつくところでよく見かけます。「このまま大きくなると簡単に潰れますよ」と言ってあげるのですが、対処しようとせずにすぐに危機に陥ります。それを変えなければ、変えられないならばその業務をやめなければ結局また同じことを繰り返すだけです。その今までのやり方なのか、それに固執する幹部なのかを捨てなければ再生はできません。お金は入ってくる前に出てはいけない、というのは経営の大原則です。そんな当たり前のことを徹底できない、そこに言い訳をする、それを変える最後のチャンスなのです。
もちろん、社員や取引先から恨まれます。自分はこれまで心から社員を大事にしてきたつもりなのに、いざこの段になると捨て台詞を吐く40代おじさん、家庭の事情を言い泣き出す20代女子…説明に言った取引先からは確信犯、詐欺師呼ばわりされ、悔恨と自分の力の不足を思い知ることになります。私自身がそうでした。
ただ、前回述べたような単月黒字化のための身を切る努力をし、かつ、こうした自分でできる努力をした先には、「きちんと整理をつければ、この会社はある程度は復活するかもしれない」と思ってもらえる余地が生まれてきます。まず、ここまで必死で1か月足らずでやってみる、というのが、「まっとうな経営者の責任の在り方」なのではないかと思うのです。
再生案件を取り扱う、と言っている弁護士、会計士でもこの辺で粘り腰で手元資金を作って軟着陸・再出発を図ろうという経営者の気持ちを手伝ってくれる人はなかなかいません。大変面倒であり、それによって得られるかつ金額も限られているし、内情を深く知らないと手出しが怖いからです。その依頼するお金すらないという案件もたくさんあります。この「再生」は魑魅魍魎も跋扈しており、本当に怖い領域ですが、弊社としては何とかしてあげられるケースは首を突っ込むつもりでいます。
再生処理の具体的方法
この辺は、専門書類もいろいろありますので、簡単に終わらせたいと思います。
改善後の黒字幅が現在の負債に対して、十分長い期間(7~10年程度)を置けば返済可能であるならば、返済計画の見直し、いわゆる「リスケ」を銀行にお願いすることになります。
それでは到底おぼつかないような規模の場合には、黒字の顧客、事業、社員と必要な資産だけを残し、他の資産、資本、負債は捨てる(と言っても、本当に捨てる以外に一部を資本に振替えるなどの方法を併用します)、ということを行います。いわゆる「第二会社方式」と呼ばれる方法です。いろいろなケースがありますが、それまでの株主~多くの場合経営者ですが~も銀行やその他の債権者様以上に痛みを負うことになります。
経営者もここで「社員のためには仕方がない」と涙を流す人と、個人資産の保全に暗躍する人とに結構分かれます。実は、後者の割合は年齢の老若に関わらず少なからずいます。私もそういう経営者を追いかけ回し見捨てたことがあります。
もっとも、こうした手法群は財務的な内容が概ねきちんと整理されていて、かつ在庫や売掛金、顧客筋などが概ねしっかりしている場合にとれる方法です。実際には少なからぬ割合で、財務内容の整理ができず資産や負債に内容不明なものが多くあったり、在庫や売掛金の性質を明らかにできなかったり、という「説明責任を果たせない」ために、事業の健全性を担保することができず、健全とわかった個別業務だけを、人と共に「営業譲渡」する、という手続きを行う最終処理の仕方も多く用いられます。この場合、顧客の合意の下、契約を一個一個覚書と共に移管することとなりますし、社員の転籍も同意が必要となり、さらに阿鼻叫喚の光景がそこには広がることになります。契約のメンテナンスや財務のアカウンタビリティ確保の大事さをこの時ほど痛感したことはありません。