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資金の出しやすい会社、出しにくい会社

先月6月は、「資金調達」に関連する仕事がなぜかいくつも重なり、必要としている経営者、そして関心を持つ金融機関やVCの方とお会いする機会が沢山ありました。そのいくつかのお付き合い先の中で、1社だけがとびぬけて人気があり、他は私の力量を示すようで言いにくいですがさっぱりです。その1社がどのくらい人気かというと…昨年夏から法人化の準備を進めて事業計画や事業の説明資料を整備し、4月に会社設立、5月にメディアへの説明を実施したところ、こちらからつてを頼って関係先へ行こうと思っていたのですが、それよりも先にVC,金融機関の方から続々ご連絡をいただいてお会いする機会をいただくのに大忙しという状況となっています。

どの会社も、これから事業をグロースさせるステージであり、まだ海のものとも山のものともつかない状況で、実績に基づく事業計画を評価するというにはまだ早い、むしろ投資家にも協力いただいて事業をけん引していく力が必要な状況なのですが、その段階でもうすでに大差がついています。

では、それぞれの会社の内情をよく見ている自分が自分の資金1000万円をもし投資するとしたらどうするか?それを言っては自分の仕事の否定でもあるのですが、正直にいうと、私も資本市場と同じです。その人気のある一社には資本参加したいと思うが、他の会社にはしないと思います。

言い訳させてもらうと、私が「そんな市場ありませんよ」「そんなの誰も関心ありませんよ」と、そもそもの市場性がないことを指摘しても、「それでもやる」という経営者もおられますし、「構造をもった戦略が必要」といったところで、そんなことを自分で遂行できるわけでも私に任せるわけでもなく、なんとなく今までと同じやり方をしてしまう経営者もおられるのです。経営者は一般に我が強い人が多いですので、言っても聞く耳持たない、ということは多くあります。それでも継続してお付き合いしてくださっているのは私としてもありがたいし、経営者のやりたいこと、やりたいやり方の範囲で最善を考えることを地道にやっている仕事も実際には弊社はたくさんあるのです。ただ、経営者が、その「自分流」に固執している限り、資本市場から振り向いてはもらえません。そういう人に限っていうのがですね…「時代は変わってきている」。自分の都合の良いように社会を見てしまい、社会に不満を持っている人は経営者には向きません。現実の市場に対応するのが経営者の責務です。

しかし、なぜ、こんなに差があるのか?というのを当事者から少し離れて考えてみると、会社の中身の話は別として重要なことを提言しなければならないことを改めて実感します。株式市場は「誰が美人コンテストで一位になるかを予想するゲーム」と言われますが、資本市場でもそれは同じだということです。「支持される工夫をして、支持されているように見えている人が支持を集める」のです。

わかりにくいでしょうか?新しい便利なソリューションを提案している新興企業はたくさんあります。どれも話を聞くと斬新さと熱心さに感心します。しかし、どれも似たような不十分なビジネスモデルや体制で実際儲かるのかな?お客さん付くのかな?と半信半疑です。その中で、すでに有名投資家が支援している、関連業界の大手企業が業務提携している、大口顧客がついている、メディアで話題になっている、政府の環境政策の中で取り上げられた…といった話がある会社にあると、その会社が資本市場で一人勝ちに近い状況が実現してしまうのです。逆にいうと、この循環を作り出すことこそが、ベンチャー企業の成長の最初の大きなステップです。もちろん、中身があることが前提です。過大広告ではすぐに化けの皮ははがれます。そういう会社もたくさんあります。しかし、「いいプロダクツがあればよい」と純真無垢に思っている若手経営者が多いのも事実です。

ここまではまあ、わかっていただけると思うのですが、今回の話はさらに、その前のシード段階の話です。その段階では、そのネタすらこれから作る状況のわけですが、そこでもすでに大差がついてしまっています。その差がついたポイントは具体的には、こんな点でした。

一つ目は「市場」です。

「今、ありもしない市場を創造する」という主張は、そうした奇跡が世の中を変えてきた事実はありますが、それでも人のお金を借りて事業をするというためにはやめた方がよいです。キチンとニーズがある市場があり、それが一定以上の規模であることが相手にもわかることが必要です。先ほどの「うまくいっている会社」では、これは、「世界では成長産業である養殖を含む水産業」であり、かつ、「最初から世界展開を狙って仕組みを構築する」というところにあります。

二つ目は便益がわかりやすいことです。

「誰がどのように便利になるのか?費用が下がるのか?」ができれば定量的に、そうでなくてもだれもが「そうだよね」と思ってもらえるレベルで明確である必要があります。よく、頭の良い人が長々と意義を説明するのを聞くことがあるのですが、買い手も資金の出し手も決裁者はそんなに頭は良くないし、それ以上に忙しいのですから、一言で価値が言い表せ、3分で話が納得できる必要があります。紙にするなら、A4 1枚のレベルで決裁者が見てすぐわかる内容、それが必要です。

さきほどのうまくいっている会社の例では、これは、今までよりも新しいデータが細かい精度で手に入る。さらには将来の予測データも手に入る。ということです。

三つ目は新規性です。

私は、この要素は正直、この会社と出会うまで軽視していました。しかし、投資する側は、いくつかのテーマをもって、そこでのトップランナーを探している要素が確かにあるようです。もちろん、中身は必要ですが、その「時代のテーマ」に沿うことは目に留まりやすさ、VCを通じた提携のしやすさなどの展開の容易さに実はかなり関係があると今では考えています。先ほどの例では、これは、「AI」と「IoT」であり、「宇宙ビジネス」であり、「SDG’s」でした。そのため、多くの投資家が何に関心を持っているかに応じて、サービスの説明の切り口を変えて見せることができています。

私はもともとこの会社の販路構築や製品戦略、事業計画案を立案することをお手伝いしていました。それも説明の中では「信ずるに足る理由」としてお話するのに役には立っています。しかし、現段階ではそれはメインの課題ではなく、上のよりシンプルな点が重要であるようですし、実はこんな当たり前のことすらできていない新興企業が多いということを改めて気づいたのでした。

多くのベンチャー経営者は自分の事業に全身全霊を投入し、それの社会的価値を信じているわけですが、外から見ると全然そんなことはない、独りよがりのこだわり、というケースをこれまでも時々見てきました。お金を集める(=今後伸びると関心をもってもらう)ためには、自分が自分をどう思っているか、ではなく、自分が投資家にもてるためにはどのように見せればよいか(もちろん、中身が一致している前提で)に真剣に取り組まなければならないのです。

なお、これは相手がベンチャーキャピタルや企業の投資部門の場合であり、銀行の場合は、表向きはこれでも実は行動原理が全く異なります。その辺については、次回続きを書きたいと思います。

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