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今必要な財務の重点シフト

最近は、このブログも「コロナ不況の乗り切り方」を探るような記事が多くなっていますが、この危機的状況ではそこに皆さんの関心があるのは必然でして、やっぱりアクセスが多いんです。どうかお付き合いください。今週は、最近実際に目にした「必要な考え方が変わってきている」という事例を財務と人事の2つの面でご紹介したいと思います。まず今日は財務面のお話から。

セーフティーネットであるはずの信用保証協会のセーフティネット4号融資の審査で0回答だった、という事例をいくつか聞きました。弊社が直近で支援した案件は全部数千万単位で取れていたので楽観していたのですが、やはりそう甘くはないようです。

これらの政策は「徳政令」ではありませんので、「返済見込みがない」と判断されるとこのように0回答が来ます。実際、私の経験でも信用保証協会の財務審査は結構細部まできちんと見ていて、被疑にたいする説明力や普段からの財務諸表と今後の方針の整理が必要になります。弊社が成功しているのは、だいぶ前からこの部分から支援をスタートしているからです。決して財務に不正がなくても、普段からの体質改善をしておかないと急には対応できないことなのです。

ここから1,2年は業績の伸び悩んでいるベンチャー企業、特に赤字の会社にとっては正念場です。取り組む市場にもよりますが多くのToB市場では市場が低迷します。その上、資本面でも借入面でも厳しさが増します。(ただし、今回のテーマからは外れますが経費を減らすには良い局面です。)まずその環境がなぜなのか?を銀行(借入)とVC(資本)の視点から少し整理してみましょう。

銀行(信用保証協会)の論理

銀行の論理はとてもシンプルです。「返済できない恐れがあるものには貸せない。」です。これを非難される方もいますが、銀行の貸すお金は、私たちの「預金」です。返済されなければ、その預金が失われてしまうのですから、返済されない恐れがあるものには貸さないのは当たり前のことです。では、「返済できる」とはどのようなことを指すのでしょうか?細かいところは専門家の書物にお任せして大雑把な理解のために簡略化するとこういうことです。

  • 純資産(解散価値)がプラスであり、既存貸付を含めて純資産内で返済が一定割合可能な状態である。
  • キャッシュフローがプラスであり、既存貸付含めて返済原資がそこから確保可能である。
  • 現在の収益状況が一定期間は継続することが事業構造上、あるいは過去の実績から期待できる。
  • 土地、建物、一部の機器や在庫など、良好な換金性が期待できる資産を担保にして返済が期待できる状態であること

実現可能性が十分高い中期計画があれば、この視点を「現在」から「今後数年」への伸ばすことが可能になることがあるが、銀行は基本的には、「直近のトレンド値を直線的に伸ばして」将来を予測します。事業家が語る「夢物語」の大半は、結果として「嘘」であるということは過去のほとんどの事例から証明されているからです。

銀行に「事業をきちんと評価してくれ」という主張をする人がいますが、私が知る限り、「信頼に足る事業計画」であれば、銀行はくみ取ってくれています。そういう人の計画は大抵眉唾ですが、私のように面と向かって経営者に「眉唾だ」という人がなかなかいないので、だいたいにおいて勘違いしているのです。

過去1990年前後のバブル期に銀行は、この規律を踏み外して不動産投資への融資を大幅に増やし、結果として90年代後半からの数年に大変な損失を蒙り公的資金の注入(事実上の国有化)を経験しました。そして、それは日本全体で信用収縮を呼び日本の企業、雇用の在り方を大きく変えるきっかけとなりました。その反省から銀行は、営業マンや支店長の個人的判断での融資判断を許さず、審査基準を審査部門で統一する仕組みとなっていて、これが遵守されているかを金融庁が検査しています。ですので、このような状況は当面変わりません。これを前提に経営は対策を考えていく必要があります。

※信用保証協会も基本的な立場は同様です。信用保証協会は銀行のリスクを肩代わりすることにより、銀行のリスク回避姿勢を緩和することを目的としているだけで、政策的に損失補填する仕組みではありません。ちなみに誤解している方もいたので補足しておくと、借入が返せなくなった時に、保証されるのは、「銀行」であって、「借りた事業主」ではありません。事業主は、通常は経営者の個人保証が求められますので個人が破産しない限りは、リスケなどの措置を取った上で延々と銀行ではなく、信用保証協会に返済を行っていくことになります。

 ※なお、上で言う純資産とは、「固定資産」「在庫」「売掛金」「未収金」「仮払金」などの「資産」が帳簿に記載の価格で換金可能であるか(多くの場合そうではない)を検討し、正味時価で換算しなおして評価されます。転売が不可能なソフトウエア類はこの点不利です。

資本家の論理

一方資本家の論理は、CVCのように自社の事業との相乗効果を狙う場合は別として、次のようなものです。(こちらもわかりやすいようにシンプルな書き方をしています。)

「5年程度のスパンで投資した10社に1社は価値が20倍になってほしい。3社は等価程度で売却撤退し、6社は頑張っても一部または最悪全部を棄損する覚悟はする。」…これで平均利回りは18%であり、ファンドとしての最低ラインとなる。(ここからファンド出資者への利回り7%以上での還元と従業員への給与支払いをするわけですので)。

とすると、このような判断をするわけです。

  • 投資した額が20倍になる、投資先が自律的に実現可能な方法は今のところ上場しかない。
  • 上場するには、売上が20億円程度、利益率が10%近くあり、成長軌道に乗っている必要がある。(この数字はまあ、いろいろ上下はありますが)
  • この時の会社の時価総額は、大雑把に言って15~30億円が見込める。…20倍になるとすると、そこに1億円出資する(多くの場合多段階で)話をすることができる。
  • この選択をするには、全国シェア目標が5%として、市場規模として400億円程度の規模があるところを最初から選んで戦う、その「市場の選択」が重要である。(シェア10%を全国で獲得することは大変難しいこと)

とすると、1億円の出資をファンドにお願いする場合、そもそも400億円の市場規模があるところで5%のシェアを取るような戦略を最初から取っていますか?ということが最初の問いになるわけです。そして、多くの「起業家」は実はこれをやっていません。多くの場合「自分のやりたいこと」を「理解してくれるであろう人に向けて」やっているわけです。これは別に悪いことではありません。それで自分と仲間が生活に困らずにいられて、少数のお客様に感謝され、結果として幸福感のある仕事ができていればそれで何の問題もありません。

けれども、いざ資金が乏しくなってきたときになってから、これまでそのつもりではない方針で運営してきた会社から「ファンドから資本調達したい」と言われても、出し手候補からしたら、「そもそもそういう話の仕立てに全体としてなっていないよね」と思うのです。そして、その時になって戦略を変えようと思っても、もうそこに使える余資は乏しいし、販路や人材は新戦略には不足しています。

特にこれから1年程度は、市場も冷え込みます(そもそも顧客にアプローチしづらいです)し、投資家も慎重になりますので、ファンドの投資基準も厳しくなることが予想されます。ほかにも、優秀な人材の流動性は下がります(優秀な人は機を見るに敏)。

わかりやすいようにベンチャーファンドを想定した書き方をしましたが、事業再生系のファンドでも考えることは似ています。ただ、出口が上場ではなく、売却であることが多いのですが、「稼げるからこそ企業の価値があり、価値があるから買う人がいる」のは同じです。事業再生手法には様々な方法があるわけですが、そのいずれも、当たり前のことをいうようですが「少なくとも本業の一部に強い部分、利益がきちんと稼げる部分が存在する」ことが必要条件です。それがあれば、それ以外の部分を捨てて、強みを伸ばすための人やモノ、お金の補強をするというのが基本的な方法です。

これからしばらくの間、業績の思わしくない中小企業がやるべきこと

となると、冒頭の例で挙げたセーフティネット4号融資の審査で0回答だったような会社がやるべきことは次のようなことになるのだと考えます。

  • その他の方法で少額でも融資確保。手元資金がないと何も落ち着いて考えられない。そして、その融資を、足元の赤字の穴埋めに使ってはいけない。
  • 黒字化をまず必ず実現できる経費節減で早急に実施する。どうせ通勤自粛なのだからオフィスも解約してリモートワークにすればよい。そうすれば交通費も減る。出張もそれが行くことで費用以上に売り上げが増えることが確定していないならば、ZOOMでやるべき。
  • プロジェクト単体でキャッシュフローがプラスにならない(営業費用を含めても)ことは当分(黒字化し財務改善するまで)やらない。「将来につながる」「今後拡大する」は幻想である。
  • キャッシュフローがプラスになることを行うために必要最小限な人員がどれだけで、それが月に何日必要なのかを明確にする。
  • 上以外の人員(人日)については雇用調整補助金を利用して、10月上旬までの実質人件費負担を大幅に減らすことで収益を回復させる。
  • 持続化補助金(最大200万円)は速やかに申請する。
  • 月次の会計処理を早期化正確化し判断を誤らないようにする。
  • 銀行、出資協力者との今後の事業展開やファイナンスプランの意思疎通をスムーズにしリレーションの改善を図る。そのためのデータ整備とアカウンタビリティ整備を行う。
  • 助成金等の活用ができるようコンプラ周り(税務労務)はキチンと確立する。

これらを実行することにより「進行年度での単月での安定的な黒字化を実現する」のがまず第一歩です。

そこまでたどり着けたら、次にやるべきことは「現状のビジネスモデルでキャッシュフローのプラス幅を拡大する。」ことです。今のビジネスモデルに欠陥があって成長限界がある、なんてことは誰でも言えますし、おそらく経営者もわかっています。(いうと大概腹を立てられますが)しかし、それを変えるには、お金と時間と社内人材と販路と…いろいろなものが不足していて、これらを具体的に補う目途もないままに「ピボット」と言うのは無責任なことだと思います。

それならばやるべきことは

  • 単価改訂、キャッシュポイントの増加、確実にプラスになることが経験上見えている広告施策などによる増収策をまず実施
  • その次に、「〇〇をやればキャッシュフローのプラスを拡大できる」という箇所を見つけ、それを数理モデル化し、その施策を小規模に数回行って効果を実証するデータを取りつつ小幅な改善を実現する。

そのうえで、その拡大資金を次の決算後に進行年度決算内容の改善(赤字幅の大幅縮小と単月黒字基調)をもって、信用保証協会融資に再度挑戦するのです。そこまで実現できれば、あとは財務内容、具体的には、自己資本比率を改善していくことで、与信を回復していくことができるのです。

間違っても、この危機的状況で、「システムを大幅に作り変える」とか「あまり経験のない新市場に挑戦する」とか言うばくちに生死を賭けてはいけません。

以上の方策は、書かれてみると「当たり前のこと」です。しかし、経営者の理念や信条や躊躇が、その「当たり前」を実行するのを妨げるのです。経営者はそのように、「強情」であるべきとも思います。しかし、今から1年はかつてないほどの嵐が続きます。まず、身を守る行動が必要な時期な時期です。それに失敗したときに対策はさらなる痛みを伴うものとなります。もっとおだやかなストーリーを描いていた経営者も多いと思いますが、以上で述べたような「身を守る行動」が企業にも必要になっています。

こうした経営者にとっては「未知の変化」を、私たちはいくつも経験してきています。チェンジマネジメントこそ私たちの真髄です。必死でこの未曽有の事態に立ち向かう経営者の道しるべになって、時には経営者の作業と痛みを肩代わりしてあげるのが私たちの役割だと考えています。

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