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大晦日テレビ即日配達~紅白始まってから届けました

私が20代のころ勤めていた家電店では年末に長く行われていた名物企画がありました。12月30日、31日に特定の機種だけなのですが、テレビを即日配達して設置する、というものです。私が入ったころには、これが最高にうまくいっていて冷蔵庫、洗濯機、パソコンにも拡大されていました。12月30日の朝に新聞折り込みで70万部以上B4チラシを入れると、朝10時の開店の頃には駐車場がいっぱいになります。こんな企画に乗る人いるんか?と思われるかもしれませんが、少なくとも当時は大変な売れ行きでした。テレビだけでなく、他のものも売れていたので、紅白歌合戦のため、というわけでもなくて「新年を新しい生活家電でスタートしたい」という気持ちを年末のチラシは程よく後押ししているようでした。12月は1週目からボーナス商戦が続き、家電店にとっては、勝負の月なのですが、月末になるとそれも勢いが弱まってきます。そこでこの企画が数字を読めるものであったため、バイヤー陣にとっては下期の成績が決まる最後のイベントという感じで必死でした。

 

◇即日配達を可能にしたもの

とはいえ、普通は翌日以降の「空き枠の範囲でご希望を伺って」配達しているものを、受注した当日に配達、しかも大型家電の場合、箱を玄関先において終わり、というわけではなく、設置して廃家電を引き上げるところまでが一連の流れです。普段の土日の数倍の処理をどうやってこなすのか?というと…当日配達を支えていた仕組みはいくつかあります。

一つは、特定のモデルだけメーカーの協力を得て、各店舗(物流センターではなく)にいくつかの基幹大型店中心に大量の在庫を配置する、ということです。10月ぐらいからメーカーとの間で売り切りを条件に数を揃えます。ここで重要なのは、数を揃えるのは、「廉価モデル」ではなく、その時のちょっと背伸びが必要なぐらいの中くらいから中の上のモデル、ということです。年末に「新年に向けてこの機会に」というモデルは、「壊れたから買い替える」というのと異なり、ご家庭の「頑張って豊かな暮らしを少しでも実現したい」という願望の現れです。当時はテレビは、フラットテレビ(ブラウン管ね)が流行し始め、ソニーの製品「ベガ」シリーズのハイグレードの29型(当時は29が十分大きくて、25が一般家庭の中心でした。)が品薄で担当者は苦労していました。そういう私も、オリンパスの109万画素という当時ずば抜けた、そしてずっと品薄の性能のデジカメの数を揃えるのに必死でした。

ちなみに29型ブラウン管テレビというのは、大人の男性が必死で一人で持ち上げられる限界の重さでして、これを超えると二人一組でないと設置が無理ですので、即日配達対象からは外れていました。(ただ、売れたら結局対応していましたけど)

 

もう一つは、店舗から配送する仕組みなのですが、通常の配送子会社だけでは到底足りないわけでして、どうするか?というと社員が自家用車で届けて設置しに行くんです。テレビ、パソコンはまだよいのですが、冷蔵庫、洗濯機はセダンの自家用車(私は軽自動車「ミラ」に乗っていました。)にはサイズ的に乗り切りませんので、なぜかワゴン車で通勤する人が担当。通常はゲームや理美容の担当者も、総務経理や販促の人員もその二日間は大物売り場に駆り出され、あるいは臨時物流係に駆り出され休憩もできずに全員フル稼働です。テレビ、冷蔵庫については商品供給に協力してくれたメーカーの営業の方も主力店に応援に来てくれていました。メーカーの販社の営業の方って残業代もつかず年末まで駆り出されていましたので本当に大変でした。ただ、それが、商品を大量仕入れする条件でもあったのです。

 

三番目は、店舗間の在庫の平準化でして、1日目の終わったあと、そして2日目のお昼に各店の在庫を調べて偏りを平準化して全数売り切りを目指すのですが、通常の物流センター経由では1日かかってしまうので、これを本社バイヤー陣を各店均等に散らせて配置し、売り場の応援をしながら、各リーダーの指示の電話が来るとはっぴを脱いで車に荷物を積み込み、伝票とともに在庫を移動させて回るのです。私なんぞ軽自動車なので、後部座席だけでなく、助手席にも2段重ねで荷物を積んで、FM聞きながら埼玉県内を走り回っていたのですが、狭山市役所近くで交通整理にあたっていた警察に止めらて「何をしているのか?」と聞かれたことがあります。事情を説明すると、「年末までご苦労様ですっ」と言われたのをよく覚えています。また、小型店はあまり大きな在庫を置いても数が少ないので、足りなくなると売れたものを近隣の大型店に社員が自家用車で取りに行き、その足で配達設置していました。

 

それも終わると31日17時ぐらいからは「紅白が始まるまで」(当時は21時開始)に設置を終える、というのでレジ要員を残して、全員が配送設置に駆り出され、私もパソコンは大して売れないので、テレビの応援に行くのです。しかし、設置にいくと「いいテレビを買われる」ような余裕のあるおうちは必然的にオーディオ類との接続がある場合が多くて、初めて配線を見てもなかなかわからないことが多くておうちのお父様に結局手伝ってもらいながらようやく1時間に1件ぐらいをこなすぐらいでした。(上級者は1件10分で済ませられます。)

 

お店は夜8時に締まるのですが、「即日配達」と銘打った以上、その後も延々配送は続き、結局紅白が始まったころに届けて、家族みんながテレビを見ているところに、手伝ってもらいながら設置して子供たちの拍手喝さい(私がではなく、テレビが)を受けるようなこともありました。遅くなって顰蹙を買いそうなものですが、売り場の担当者がうまいこと話していてくれるのか、年末にカリカリする人もいないのか、意外にも「遅くまでごくろー様ー」という感じで快く受け入れてくれていました。(たまには怒鳴られたケースも他の方はあったようですが)中には、ミカンを袋に入れてたくさん下さるおうちもありました。

 

そんな騒動も22時過ぎぐらいになると概ね収束し、女性社員は帰宅し、事務室で店長を囲んでそばを食べつつ、1万円札を数えレジを締め、「本日の売上、〇〇万円で締まりましたー(拍手)」という感じで一年を終えるのです。

が、若造の私は、店舗で販売を担当していた時は翌朝元旦の6時に店舗に出勤し、まだシャッターの締まった入口の前で整理券を配ります。お年玉目当てのゲームソフトの日替わりチラシを見た子供たちが集まってくるからです。本部に異動してからは、これは免除されましたが、店舗の人が三が日に交代で休めるようにお店の応援に駆り出されていまして、三が日が開けるとメーカーの営業の方が皆さん続々とご挨拶にお越しになるので、そこも休めず、ようやく新年2週目に少し休む、という感じでした。

 

◇本当にこれでいいんでしたっけ?

小売業には、そういう「流れが来ているとき」というのがあります。これは自社で作り出したムーブメントでしたが、他にも消費税上げ前月やWindows98発売日などいくつかのチャンスがありました。しかし、その時だけ人が増やせるわけでもなく、そこをイベント化して売り上げを獲得するには、結局売り場の社員、アルバイトがこうした無理を重ねるしかありません。それが会社もお客さんも当たり前になって刺激が少なくなってくると、今度は意味もなく、一日だけ休業していくつかの什器配置と売り場配置を変更するだけの改装閉店セールが毎週のようにどこかで行われるようになり、私も34連勤というのがありました。

 

アルバイト上がりの私には当時から十分すぎるほどの給料をいただいていましたし、最初はこうしたことを「仲間と一緒に乗り越える」ことにとても充実感を覚えて取り組んでいました。しかし、それも3年目に入ると、「俺、一生こんなことして過ごすのかな?」という気持ちが芽生えてきます。一日立ち仕事の販売の仕事(本部バイヤーといいつつ、かなり売り場に立つことが多い)を50,60歳まで続けられないのではないか?と妻にも言われましたし、月に4,5日の休みの日は夕方まで寝ているようなことで、妻もいるのにこれでいいのかな?と思い、業績の極端な悪化のさなかオーナーとぶつかったりしてその会社を辞めてしまいました。

年末年始ではないのですが、別の機会に店間の在庫移動を自分の車でしているときに、交差点で信号待ちの時にダンプに後ろから追突されまして、私の軽自動車の長さがさらに半分ぐらいになり、緑色の液がエンジン付近から垂れて水蒸気が噴き出し、私自身も膝を強打してケガするという、死を間近に感じる事件が起きたのも大きなきっかけでした。

 

こんな若者の遂行意識を悪用するかのように「なんでもありでイベントをクリアする」やり方では社員を使い倒すだけで持続性がないのです。昔のこと、と思われるかもしれませんが、今でもこうした「社員の無理を前提とした」仕組みでイベントを乗り切る会社はたくさんあります。それが一時的なものだと最初は言うのですが、そんなことをしても顧客が定着して増えるわけではないので結局ずっとそうした無理を強い続けることになる、それは紛れもなく、「経営の失敗」なのだと私は思います。

 

最近では、正月1日、2日はお休みにするチェーン店も増えてきました。当時の自分たちの無理を思えば、それでいいと思います。私自身も今また若い人たちが全国を土日もいとわず飛び回るベンチャーをお手伝いしているのですが、若い労働力を使い倒して会社を維持するようなやり方は何とかしないで済む方法を探していきたい、といつも思っているし、幹部の方にもそう言うのはこんな経験が背景にあるからです。

 

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