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スピードが上がらない訳

 先週、こちらの記事で「生産性」についてお話ししましたが、その中で、「改善スピードを上げる」というテーマがありました。今日はその部分について、この記事の続きです。

 多くの会社の商品やサービスには、多少の差はあるにせよ、かなり近接した「競合」がいて、価格や品質、それに露出を競っています。現場を指揮しているとわかりますが、その競争は静的なものではなく、ある一定の方向(時代の潮流)に向かって、どちらが前に出られるかのスピードを競争しているものであり、その意味では風向きに応じて素早く帆の向きを変え進路を決めるヨットレースに近く、ゴールが固定している100メートル走のような競争とは異なります。
 自分たちがやらなきゃやらなきゃと思っていたことを他社が先んじて実現していて、「情報が漏れている」と騒ぐ人(それはなぜか大抵おじさん)がいますが、それは実際には、時代の変化に対して同じ課題意識を持っていて、そしてそれを実現する力が競合の方が一歩上だった、ということです。そして、残念ながら、早く完成させる方が、だいたいにおいてセンスが良いです。

 「やるべきことは分かっているのに、それをなかなか形にできない」というのは、管理者にとってよくある悩みですが、それを具体的にどう解決するかについては、あまり考えられずに、ただただ、今いるメンバーを「人事評価指標で激励(脅す)」「個別ミーティングで依頼」程度しかしていないケースが多いようです。
 しかし、それでは何も解決しないことはそのリーダーは10年、20年の経験で知っているはずです。そして、「何も解決しなくても自分には何も問題は起きない」(降格的なことは会社はできないし、自分以外にできる人もいない)と高をくくっている、会社を舐めています。それを打破するのは経営者の役割です。

 私はそういう膠着状態を打破するのが得意ですし、好きです。打破する方法にはいくつかのパターンとそのパターン別の対策があります。今日はそれをご説明します。

①実は、専門知識が不足している場合

 これは意外に多いです。そして、それを担当者も上司もなかなか認めません。なぜならば、今その業務を運用することはとりあえずできているから、「知っている」と思っているからです。しかし、実際には、「渡された運用を維持できる」だけでも結構な力量が必要で徐々に劣化していることが大抵です。そして、それを改善できる、あるいは新しく作り出せるというためには、とりあえず運用できる、というレベルを大きく超えるその分野の専門知識が必要であり、今の日本のジェネラリスト文化、精勤第一主義ではその知識は通常は評価の対象になっていません。
 そのため、知識が不足しているために、改善できないし、知っていれば一本道のことに対して、適当・試行錯誤で手間とコストがかかるというケースが多く存在するのです。

 このパターンは、いったん他社の類似事例に実績のある外注にて改善を行い、その改善に必要な知識レベルや体系を外注先に教わってそれを社内の要求事項(あるいは新しい採用基準)として据える、という対策が迅速な改善には必要です。そして、多くのケースでは結局それができる人の新規採用がその次の解決策です。ただ待っていてもできるようにはなりません。

②時間が足りない

 これは①と同じくらい多いです。そして、これは通常、管理者の責任です。一日は7時間程度しかないのに、そのうち、6時間を「処理業務」に費やしていたら、改善作業が迅速に進むはずなどありません。そして、「どのくらいの時間を投下しているのか?」と聞くと、正直な管理者は「わかりません」と言い、要領だけで管理者になった管理者は、適当に多めの時間をいいますので、そのようなケースでは「測ったんか?」と追撃する必要があります。

 この状況は、1週間計測すれば簡単にわかることです。そして、担当者に改善できる知識があるのに、時間が不足していてできないならば、その「処理業務」をこの際外注することをまず行うべきです。
 それはできれば変動費の形態の方がよいし、固定費でも、今の一日の勤務時間を固定して支払うべきものではありません。在宅勤務のフリーランス(以外に専門性の高い方がいます)を活用して時間を柔軟に組み合わせることが適当で、安易に現場に派遣を一人月入れるという形態は避ける方がよいです。それは、コストを下げる、という事のほかに、「口述伝承を止めさせる」という意味合いも強くあります。

 「外注できるようなことなんてない」と言い切る管理者もいます。自分たちがやっていることがさも特別であるように主張するのは、「普遍化」「定型化」能力の低いダメな管理者の典型です。その場合には、「必要な時間分、付加価値が低い(利益が低い)業務を廃止しろ」と指示してください。そして、その場でその業務を決めさせてください。持ち帰ると、結局「残業で何とかする」という行動をとります。

 何かをやれと指示することは、それに必要な時間分、「これを止めろ」と指示することと同じです。それができない管理者はダメな管理者です。

③実はやりたくない

 やりたくないことを別の理由をつけてやらないというケースは実に多くあります。今の自分の安定した居場所を壊されたくない、という安住心がその背景であることが多いのですが、表向きは、「そうした方が生産性が下がる」というような言い方をしてくることが多いようです。
 最近の管理者はこういう言い分にまじめに取り合う事が正しいと思っていて、無視して自分の意思を通すことが「パワハラ」だと思っています。しかし、無視して通してしまうのが正解です。いったんは生産性は落ちてもやがて回復していきますし、生産性が落ちても、持続可能性や品質が安定すればその部分は取り戻せます。

 その場合、非協力的で失敗に追い込もうとするケースがごく少数あるので、それだけは警戒する必要があります。その場合には担当者自体を即座に変更します。そうはいっても生活が懸かっていますので、多くの場合は、多少もやもやしながらも協力してくれ何事もなく事態は推移します。不平不満を恐れていてはいけませんし、説明はしても説得するほどの時間をかける必要もありません。
 何も変えないならば、管理者は不要であり、変える方向と変え方を指示することが仕事です。

④スピードが重要という認識が担当者、あるいは管理者にない

 最後はこれです。大抵のケースは程度の差こそあれ、経営者と現場にこの要求スピードにかなりの差があり、それが経営者の不満の原因、担当者が動かない理由になっています。

 必要なのは、完成度でも品質でもなく、改善速度である、ということを明確にして、それを評価尺度であると経営者自身が宣言しないといつまでも、丁寧にゆっくりと仕事をしています。いつまでに実現するのかを経営者自身が明確にする必要があります。
 そして、スピードを上げると品質が下がるような処理業務は自動化や外注化すべきことですし、スピーディに作った工程が最初はあちこち改善が必要なのは当然のことで、何ら問題にすることではありません。

 人や資源に余裕のない中小企業ならば、多少顧客にその悪影響が流出するリスクも実際には最後は侵さざるを得ないでしょう。そのことも経営者は明らかにするべきです。「リスクを取ること」は経営者の仕事ですし、現場の懸念する多くの「リスク」は、経営的に見ると、取るに足らない移行時のトラブルでしかありません。

以上、経営改善のスピードが上がらない訳を整理してみました。

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