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減損騒動あれこれ…

主として資源価格が低迷していることが引き金となり巨額の評価損を計上するというニュースがエネルギー、商社系で相次いでいます。また、昨今の新型コロナウイルスによる景気不安からの株安(乱高下)により、今週期末を迎える中で、保有株式の評価損を計上しなければならない、というケースが5月の決算発表までに相次ぐ恐れが出てきています。

21世紀に入り、企業の「資産」はできるだけその時点での「時価」を反映させるべきである、それにより株主である投資家が正しい判断をできるようにするべきである、という考え方が急速に会計ルールに反映される流れが進みました。考え方としてこれは正しいでしょう。しかし、「時価」の評価に共通尺度がないことや、為替や資産価格、株価などのボラティリティ(変動幅)の大きなものに左右される資産が含まれることで企業業績がかつてはなかったような巨大な損失が突然発生するということが特に、相場の不安定化する不況期に起きるようになりました。

資産の正体と変動の可能性を経営陣も投資家も従前からきちんと理解していればこれらは決して右往左往するようなものではないはずなのですが、実際には結果としての「損益」だけを見て行動することが経営者にも投資家にも多くあり、それが現場にも大きな混乱を招きます。

その現場の営業や企画、生産の現場からは、この「減損」「評価損」の話というのは全く見えにくい事象です。彼らは基本、お客様に向けて質の高い商品を出来るだけ安く作って高く売って、満足してもらうことに注力しているわけで、本来関係ない話だからです。しかし、実際には無謀な営業計画、さらにはリストラ施策を彼らとは関係のないこれらの損失が誘発しているケースも多いのです。また、成長企業の中には、そのような問題が自社で起こりうることを認識しないままに、建物や株式(たとえばM&A)に手を伸ばし、事態に直面して「知らなかった」とも言えないでいるという事例にも出会ったことがあります。

今回は、私が直面してきた、この「減損」の実例をいくつかご紹介しましょう。なお、事実関係は一部変更してわかりやすく、そして当事者がわからないような記載にしています。

①ライバル買収の果てに

90年代にとある業界で、M&Aで各地域に存在していた競合を買収して事業拡大したトップ企業が、最後に同様に全国展開し、安値攻勢をかけ激しく競争していた企業を買収しました。買収された会社のオーナー家の資金事情が最後には決めてになり、年商は20億円あまりあるものの、利益はさほどでもない会社を27億円余りで買収しました。

仲介したのは大手証券系FAで、大きく話を盛ったであろうことは想像に難くありません。ただ、この話には敵対するライバルを買収して矛先を収めさせるという側面のほかに、買収した会社の低価格攻勢の源泉である中国での生産体制を手に入れ、買った側もコストダウンする、というまっとうな狙いもあり、その作業自体は順調に進み、買った側は生産コストの低減と、膨大な生産力資源を手に入れるという果実を手に入れました。それでこのM&Aは買い手にとっては27億の元が取れる、OKな結果なはずでした。

ところがそうはならなかったのです。5年で買収額に相応する額の利益を上げろ、と親会社は子会社に要求してきました。そこには、そのFAが盛った話もたんまり盛り込まれていたもので、5年で20億の利益など独力では上げられるはずがなかったのです。子会社の現場はそんな事情など知らないところで、落下傘でやってきた進駐軍の横暴にいらいらするばかりのところに、利益が足りないと文句を言われる。子会社の経営陣は追い詰められて仕方がないので、大幅に合理化しようとして主要な生産拠点であった支社を閉鎖し、拠点統合することで利益をアップしようとするのですが、そこが大手金融出身者の悲しいところで、地方拠点を閉鎖しても必要な人だけは都会に転勤すると思い込んでいて乱暴に実行するのですが、地方に暮らしの拠点を持つ彼らは必要な若い人員は全部退社し、必要でない、今更他の仕事にもいく気のない40歳以上の人だけが異動してきます。そんなことは現場でそのプロジェクトを知る少数のものには目に見えていたわけですが。

かくして、この買収した子会社が大混乱に陥り大手ノンバンクへの納品すら支障を来す状況になり、コストは減らず営業メニューは減り続け、利益どころか2期連続の大赤字に転落しました。親会社は当然半分の13億円あまりの減損です。その責任を取れ、とまた親会社は言ってきて組織は空中分解的な状態となりました。

少し戻って捉えると、この親会社は「生産コストの低減で大きなメリットを得ていた」わけですが、その外注費の低減分のうち、かなりの部分は実はこの子会社に帰属させても不正ではなかったわけです。他社よりも、あるいは従前よりも発注価格が下がっているならば、それは親子間でも正当な受注であり利益の不正な移転(寄付行為)には当たりません。そして、発生した利益を配当で吸い上げればよいし、それが少数株主に流出してしまうならば、その前に100%子会社化する手続きをすればよい(2/3は保有していたので)わけです。それが、親会社の生産部門の成果に帰属できないというような内輪の論理であるならば、管理会計上は配当利益を生産部門に帰属させればよいだけの話です。

そこにあった問題は、子会社側でこのような正論を言っても、それを親会社側に議論させるだけのパワーなり信頼関係なりがない状態のまま、買った側、買われた側の断絶が固定化していたことだったのです。

②建物の評価の引き下げ

これも上の事例と並行して起きていた同じ会社での出来事です。この会社、大都市のいい場所にそこそこ大きな自社ビルを保有していました。ボーリングブームが去った後(70年代前半)にボーリング場だったビルを購入し改装して使用していたものだったのですが、当時の経営者の判断はその後のバブル期に大きな設備投資を行う際の担保として生かされました。ところが、2000年代になり、事務所としての不動産にも評価額の引き下げルールが適用されるようになりました。そこで問題になったのが、「セグメンテーション」。その事業所には、営業部門と一部の出力作業部門があり、①で閉鎖された他拠点には、主力のサービスの生産拠点がありました。普通に考えると、付加価値を生んでいるのはどう見ても他拠点で、この拠点は「営業所」+「管理部門」+「近郊へのデリバリー拠点」だったのです。

評価額を引き下げても、手元キャッシュが減少するわけではありませんので引き下げてしまえばよいのですが、①の問題(非上場子会社株式の評価はキャッシュフローだけでなく、一株当たり純資産も関わって来る)が背景にあるがために回避対策をしなければならなくなりました。それでも利益が増えればなんとかしようがあるのですが不良債権問題のさなか、景気は最悪期で赤字を計上する状況でした。

これも、そんなに困るならば、親会社がビルを適当な価格で買い取ってくれれば解決します。不良債権問題のさなかであっても、簿価に対しては時価はだいぶプラスでしたのでこれは第一案でした。また、稼働率の下がったビルの空いているスペースに親会社なり他社に入ってもらって賃料を払ってくれれば解決する問題だということは早々に分かっていました。特にテナント案というのは私は推進したかったのですが、なかなか親会社も子会社も経営者の迅速な判断が進みませんでした。

ちなみにこの問題は、他拠点を廃止し、本体を黒字化する中で何とか正常に切りにけられましたが、2,3年の間期末に悩まされた問題でした。

③商品在庫の評価額引き下げ

これは別の会社での10年以上前のお話。ただし、これもM&Aで買った会社の話です。その買った会社に「玩具」類の在庫が2億5千万円ほどありました。どのくらいの分量かというと、大きな倉庫1個丸丸天井まで埋まるぐらいです。ちなみにこれの搬出をその後やったのですが、10トントラックで9本分ありました。

買った時に結論ありきでDDをいい加減にしたため、その会社のBSには簿価のまま掲載されていたのですが、その簿価の計算も正しくない(単価管理や出入り、在庫数が適切に管理されていなかった)ことが、まもなく明らかになりました。それよりも深刻だったのは、その在庫はほぼ全数が「売れ残り」であったということです。簡単に状況を説明すると、この会社は、10点~20点ぐらいでセットになるシリーズものを外装箱からは中には何が入っているかがわからない状態で販売するということをしていました。この時期流行したものです。この状態であれば、店頭で均等に在庫が減少するはずです。

ところが、シリーズ全体が大量に売れ残った時にこの中に何が入っているかわからない状態を費用を払って全部分解して、中のものを種類ごとに分類して、「人気のあるものだけ」を「通常価格で」買収前に販売していました。少しでもお金に変えようという努力はしていたのでしょう。戦艦でいえば大和、武蔵だけ、武将でいえば、伊達政宗や源義経だけが売れ、買収した時点で残っていたのは「そんなの知りませんよ」というものばかりです。それが倉庫を満杯にしていて、保管料だけで月200万円が流出していきます。その努力をするならば、売れるものの価格を10倍は無理でも通常の3倍ぐらいにして、売れた数の3倍ぐらいを廃棄するようにしてくれれば在庫は減ったはずなのですが、そこまでの経営手腕がなかったようでした。

このような実態は、実物を倉庫にこもって調べ、そのあと実際にそれを管掌する事業所にずっと通って信頼関係ができる中でようやくわかってきたもので、DD段階はもちろん、買収後の棚卸段階でもわかっていませんでした。経理の限界がここにはあったのです。

また、評価額を引き下げる低価法が強制適用になって間もない時期で、そのリスクがあることも経営陣は買収前にキチンと認識していなかったようでした。原価で平均すると200円程度のものだったのですが、「いくらで売れるか?」と聞かれたので、まじめに「10円」と答えたところ、かなり怒られました、「取締役として無責任だ」と。でも、そんなマニアックなもの、100円で店に並べて10個のうち、2個売れればよい方だと思えば、販売店に売れる値段はそうなります。結局会社が選択した方策は、評価の引き下げではなく、売れる値段で急ぎ販売してこの事業を収束させるということでした。これは私は正しい判断だったと思います。評価額だけ引き下げても倉庫代はかかり続けます。商品はさらに陳腐化し続けます。しかし、「大型トラック1杯 7万円」という見積を発行したことは後にも先にもこの時だけです。

そのあと、住んでいた家の近くの系列ではない100円ショップで、処分した在庫が売られているのを見つけて何とも言えない気持ちになりました。もちろん、ほとんど売れていませんでした。(京都の坪庭のミニチュアでした。買いませんよね?100円では…)

④デリバティブ評価損

これは私にとっては人生最大の事件の一つだったので、いろいろなところで書いたりお話ししたりしているのですが、実はこれは③の会社と同じ会社です。この会社、この玩具を中国で生産して輸入していたので(玩具よりも企業からの生産請負の方が金額は圧倒的に大きかった)、円安になると仕入金額の円換算が増え、利益が減るという構造を有していました。そのため、判断時点の円相場よりも、「円高に進んだら、ドルを買う権利」を5~6年先まで買ったわけです。だいたいそれは、108円~115円付近に散らばっていて、なかには、一定水準以下になると買う量が2倍になる、というようなレバレッジ契約も含まれていました。

さきほど、「そのため」という書き方をしまいたが、これは実は正しくありません。その辺の経緯はこちらの記事に2年前に記載しています。

上場連結企業の場合、こうした金融商品は全て「時価評価」しなければならないわけですが、そこをまずキチンと認識していなかったようです。そこにリーマンショックが起き、円は76円まで一気に高騰し、その後もしばらく80円台で推移しました。すると何が起きるか、というとその場で銀行にお願いすれば、1ドル80円で購入できるのに、この会社は115円で購入するわけです。とすると、期日が来たオプションは行使され、その差の35円は為替差損として実現してきます。単純にいうと、この見込まれる為替差損の将来にわたる全部の合計が「評価額」になるわけで、それがウン億円。

このドルを使い切るだけの受注があり輸入があればよいのですが、実際にはそんなにないので、結局余ったドルを円に戻して国内の経理に使う。そうすると、結局115円を払って80円を買う、という状況になってしまうわけです。

そして、使った分のドルも、115円で仕入れたものが180円で売れてくれれば、それでも会社は維持できます。しかし、実際には市場には競争が存在しており、競合は、80円を前提に価格を下げてきますので、当社もそれにあわせて下げざるをえません。

数百に及ぶこのオプション取引を解読し、完全に正確ではなくても、EXCEL上に上のような単純化した試算の仕組みを作成し、為替が動くと、それに合わせて期末の評価損額を計算し直して、業績見通しに組み込んで親会社や金融機関に報告するのが私の仕事になりました。期末(実際には四半期毎に評価替えしていたのですが)になるとほんと気が滅入りました。1円為替が変わるだけで損失額が1000万円変わるので、もはや神頼みでした。

まだまだ「減損対処」は事例があるんですが、最近のものは「フィクションです」と言ってもこうして記載すると支障があるものもありますので、今回はこのくらいにしておきます。念のため、もう一度申し上げます。

「このドラマに登場する人物、団体、その他の設定は全て演出上の設定であり、実際に存在するいかなる企業とも関係がありません。」

この評価損、という問題は、いずれもキャッシュフローとは直接は関係のないものであり、これにより直接企業が倒産するリスクが高まるものではないはずです。しかし、「損益計算書が経営陣の第一の評価」であり、「投資家のために資産の価値はリアルタイムに実際を反映するべき」という2000年以降急速に広まった経営感とが合わさる中では深刻な問題を引き起こしています。本当は、「キャッシュフロー」と「価値の変動する資産の組み込み度合い」で経営者は評価されるべきなのだと思います。

一旦、評価額の引き下げが必要な状況になってしまえば、それを止めることはできません。それは不正経理です。しかし、これらの事例はいずれも、「価値変動の恐れのあるものを不用意に経営に組み込んだ」というずっと以前の経営判断や、「真の価値を見て見ぬふりをして(あるいは本当に見えていない)評価を適当に買収など行いそこに手当をしないでいる。」という経営の判断ミス、不作為により起きていることです。現場の責任ではないのに、なぜか財務・経理や営業が悪いかのような言われ方をするのを、期末になるといつも腹を立てて絡んでいました。

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