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空軍力をいつ使う~チェンジマネジメント⑨~

多くの中小経営者の方とお話しする機会をいただいて、私もそのたびに学ぶことが多いのですが、その中で「そんなこと、いままで全く考えが及んでいなかった」と言って大抵は感謝されるトピックスがあります。それは、中小企業であったとしても、独占代理権の取得、合弁による販路開拓、M&Aによる部分強化などの手法はその体力に見合った規模で可能である、という話です。

大抵の中小企業では、なんでも自前主義であり、外注するのも現場が渋っているというのが実情です。それがまた、スピードや品質、機能の改善がゆっくりとしか進まず大手と差がつく原因でもあります。社内の資源が限られているからこそ、社外のリソースを活用できる方法とその活用スキルが必要だと弊社は考えます。

中小企業でも飛び道具は使えます

こうしたことは大企業が専門家を駆使して何億円もかけてやること、と思っている経営者の方が多いのですが、規模に見合った範囲で~たとえば資本金1000万円の合弁会社を作り、少数出資の「490万円」でできる~、数億円規模の売上の会社であればできることは結構いろいろあります。リスクを限定的にすることも契約上制度上可能です。むしろその点では社内でやるよりもやりやすいぐらいです。

私がこの話をするのは、大抵、このシリーズの①~⑧までの当たり前のことを地道にまじめに積み重ねるということのマスタープランが経営者の方に見えてきて、納得感は持ってもらえているものの、その道のりの遠さにやや辟易としている感が見えたときです。経営者だって人の子、経営の「清涼飲料水」が必要な時もあります。話を聞いて経営者の方は、大抵明るい表情を取り戻して「面白い」、と言ってくれます。この点だけ調査費用いただいて調査レポートを別注で受託することもあります。けれども、経営者がそれにばっかり頼るような姿勢を見せるようになってしまっては本末転倒です。

地道に一歩一歩勢力を拡大するのが陸軍力であるならば、こうした手法は空軍力ともいえるでしょう。一気に飛んで行って、爆撃してエリアを制圧…そんな簡単に事が運べば楽なのですが、実際にはこうした手法も、地道な手法と同じく成功率は決して高くはなく、小さいたくさんの失敗の中からたまに大きな成功が生まれるのは同じです。それに、仮に空軍で、一時的に勢力圏を手に入れても、そこをきちんとコントロールして収益源にできるようにするには結局着実な陸軍力が必要です。という話をすると、「結局そりゃそうだよな」という納得、というかオチで終わります。

物騒な例えをするようですが、「戦略」という言葉からもわかるように、組織論や戦略論で軍事論から発展した経営論はたくさんあり、「ある目的の達成のために手法を如何に組み合わせるか」という点では共通点は多くあり、この例えもわかりやすい例だと思っています。

VCからの資金や上場で得た資金をM&Aに次々と投じながら全然結実しないで、手元資金が減少していく、という失敗事例は昔から枚挙にいとまがありません。こうした事例の内情を知ると思うのは、「買ったり合弁を作ったりした後にどうやって遂行すれば成功するかの具体的イメージや経験がないままに適当に実行に踏み切っている」ということです。

もう一つ注意しなければならないことがあります。経営者が、こうした「飛び道具」を使い得ると認識して、それを考慮しつつ日頃から情報収集するのは当然やるべきだと思うのですが、中小企業では、たくさんの取り組みをすることは資金的にも人材的にも無理があります。戦略上本当は優先度がとても高い取り組みで、どうしても社内では補えないパーツを補うのに、日本で一番最適な相手を見つけ出してそこと合弁、M&Aなどの方法で取り組んでいく、ということがこの手法の狙いです。しかし、これを実行するには、調査にも、交渉にも、かなりの手間と時間がかかるのです。「まあ、この辺でいいや」で妥協して始めたものはだいたい、その「妥協」した箇所から結局ほころびます。本当に必要な資源を手に入れ、それを自分の血肉にできるまではやる気持ちを抑えて、じっと協力先を探し狙い続け、地下深くで交渉し続ける、という我慢強さは、血気盛んな若手経営者には苦手なことが多いようですし、かなりの力量と要領を要します。

この辺の手法については、当ブログで長期にわたり人気上位を占めていますこの記事でも少し紹介しています。世界観として知っていただければと思います。



毎日しつこく、ミッションの遂行を追いかける一方で、社員がなかなか目が向かないこうしたことへの手当てを別にしておく、というのも変化のスピードを上げるには必要なことです。ただし、スピードを速めるということは、社内でゆっくりとノウハウを蓄積するよりも、摩擦も増えるということでもあります。

文化の融合

M&Aの世界では、PMI(Post Merge Integration)という言葉が数年前から盛んにいわれるようになりました。これは、「買ったはいいが何も進まない」で「人がポロポロやめていく」失敗M&Aが増えるにつれ、何をどう進めないとうまくいかないんだっけ?という反省から生まれた知識体系です。ここでもまた、統合の成果目標が与えられ、そのために最初の100日に何をするかを合併前から決めて置き、成果を最大限とするための判断を行う統合委員会を運営して…というルール整備が行われます。合弁でも、提携でもここら辺の重要性は同じです。

ところで、皆さん「買った側」「買われた側」の当事者になったことがありますか?私は両方複数回あります。(ついでにいうと「売った側」もあります)どうして、うまくいかないか?にはいろいろな原因がありますが、基本的には、新しい戦略目標と組織のリソースを勘案してそれに適した新しい手法や判断基準、社内ルールを整備しなくてはならないのに、かなりの経営幹部であったとしても、そのようなものに対するパターンの知識を具備しておらず、今まで自分が育ってきた組織のやり方が正しいと思い込んでいて、買った方がそれを強要する、ということにあります。それに対して、買われた方は、「協力してやらない」という態度を取り、「業界他社に転職活動をする」という動きをし始めるのです。業界他社もこういう機会を狙っていますしね。これを「買った側の傲岸さ」だと当事者になった最初の頃には私自身も思っていたのですが、実際にはそうではなく、「自分たちの今までやってきたやり方以外に知らないし、方法を考えて新しく作り出した経験もない」というのが実情に近かったことをその後の経営畑の経験の中で知るにいたりました。

手法は、戦略によって変わり、戦略は目標によって変わるのです。新しい組織と戦略には、新しい手法とルールをクリエイトするクリエイティビティが必要であり、それを具備したリーダーが双方のどちらかに必要です。

経営者がそれを理解し、新組織に対して、「戦略に最適なルールも0から作れ」と言い、新組織に送り込まれるリーダーもそこの柔軟性をもって、目標追求型の仕事の仕方を出来る人を選ばないと高い確率で組織は半年程度で形骸化します。しかし、このことは、高齢の経営者や部長級にはかなり難しいことのようです。人とは難しいものです。

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