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数字と達成不達成とプロセスで語る~チェンジマネジメント⑦~

今月は、チェンジマネジメントの現場の実際について月初からお話ししてきました。前回は、「部長」にミッションを与える際の準備と与え方についてご説明しました。こちら

部長が、「俺がいっちょやってやる」という気持ちになってくれれば、状況は大きく変わります。もちろん、その時点での「部長」が本来の理想的な「部長」であることは到底望めないでしょう。しかし、それは、ほとんど全ての会社に存在している問題です。そういう取締役だって実は理想には程遠く、そのギャップに悩み苦しんでいるはずです。人は弱くてかわいいものです。けれども、「部長とは」こうあるべき、という像をその会社なりに定義し、明示することは大事なことです。それは、「そのようにあるべき」という行動規範、評価基準となるべきものであり、たりないものを明確化しそれを補う行動を促します。

各役職の「あるべき姿」とは

先ほど、「その会社なりに定義」と言いましたが、おそらくはどの会社でも、この「あるべき像」はそうは違わないと思います。そして、部長がそのように要求される以上、まずその前に「取締役」もあるべき姿があるべきでしょう。たとえばこんな感じです。

「取締役」のあるべき姿

  • 全社の事業計画を決定し、決算値全体に責を負い、企業の安定的成長をはかり、対外公約計画値を達成することができる。
  • 経営理念に基づき、中期の達成ビジョンを定め、そこにいたるための各部のミッションを定義することを通じ会社を変化発展させることができる。
  • 人材の採用を最終的に決定し、配置を適宜行うことと、事業開発投資の箇所と規模を適切に決定することで全社の成長力を確保することができる
  • 社外に向けて自社のビジョンと実施戦略について説得力を持って説明することにより、資金と業務パートナーを確保することができる。
  • 法令と社会的責任の遵守を徹底し、会社と社員の社会的地位の向上を図ることができる

「部長」のあるべき姿

  • 部門のミッションと戦略に基づき事業計画を具体化し、必要な改善事項、変更事項を部門内に具体的に指示しコンプライアンスを遵守しつつ計画を達成することができる。
  • 新規の顧客や事業、商品の開発を常に継続して行い、利益率と成長率を確保することができる。
  • 必要な人材を定義し、専門的教育体制と評価の仕組みを整備するとともに、管理者教育を行うことで人員の早期戦力化と定着を実現することができる。
  • 各業務内における品質不良や対応不備について真因に立ち返って対策をすることで再発を組織として防止し組織の改善につなげることができる。
  • 部門の強みを明確化し、それを拡大再生産する仕組みを作るとともに、それが社外から見て認知されるようなマーケティング策を立案遂行することができる。
  • 部門のミッションに必要な社外のリソースとの提携や調達を責任者として調査から遂行まで実施することができる

これは経営陣がお話ししてくださったこの会社の業務課題と、部長が今何に時間を取られているか(個別具体の顧客対応など)のお話を聞いて、案として作成することが多いです。会社の階層構造により調整することもありますし、もう少し、機能定義に寄せることもあります。こうしてたたき台を作成すると、経営者の方も、「これはいらない」「この言葉が必要」などの部分改良は結構意見を言ってくださいます。もう一つ別の事例の「部長の定義」をご紹介します。こちらは、「機能論」的に記載しています。

  • 部長は代表取締役の示す方針と中期、当期の達成目標に対して管掌を命じられた事業部での
  • 利益、および定性的目標の達成責任を負う。
  • 部長は代表取締役の承認の元、社員の採用、設備・役務の調達、外部の企業・団体との契約
  • を行う権限を有しこれを通じて目標を達成する。
  • 部長が達成すべき数値については、別途中期経営計画、および全社予算にて定める。
  • 会社の事業のまとまりを部とし、部に1名部長を任命する。

最後の部長の定義は、「部とミッションがあるから部長があるのであり、なくなれば部長ではなくなる」(つまり、担当部長などは作らない)という意思を含んでいます。

もちろん、「一般社員のあるべき姿」というのもこの流れで作成しています。ただ、これは、部長のあるべき姿を十分理解したあとに部長に考えて修正する場を設けたい、それがまた部長の部長であるために必要なこととも思っています。

弊社がこうした「フォーマット集」を与えることは慣れているだけに簡単です。何度か経営者の方とインタビューすれば、その会社が内包している課題を「理想像」へ向ける言葉を作ることはできます。しかし、このプロセスは、「社長がやるべきこと」「部長がやるべきこと」を悔恨と羞恥を隠しつつもそれぞれの人が体感することが大事なのです。その手間暇を惜しまないでお付き合いするのが弊社がやっていることです。だから、ここに実例を書いて模倣されても大丈夫です。

個人の目標の設定

前回の「部のミッション」の際にも同じことを言いましたが、今度は、部長が個人に、「おまえはこれをやってくれ」という場面がやってきます。この実際については次回ご紹介する予定です。しかし、その際に必要になるのが、

  • やるべきことを数字や達成基準で明確化し、〇×を付けられるようにする
  • 毎月1回程度上の基準でどこまでできているかを簡単に報告を受けてサポートする。

ということなのです。が、ここで二つ問題があります。

一つ目は社員の心理的反発という問題です。この「数字」「表」で管理するということが、これまで、「耳障りの良い言葉」だとか、「共感」とか「価値創造」とかいう言葉で「仕事をやった気になった」賢い層、あるいは、「他者への協力」「全体への奉仕」を錦の御旗に能力不足が露呈しないようびくびくしている層にとっては、「個人の危機」であり、そこから、「成果主義への反発」を生むのです。

別に、他者への協力も、価値創造もやってくれて構いませんが、それが結果として顧客にどういう影響を及ぼし、自社にどのような利益や、せめて営業先リストの増加を起こしたのか?を具体的に追いかけて報告できなければ、それは「会社には何も起きていない」(で、給料だけが発生した)ということです。その中で、1年目の社員に、「パンフレットの完成」や「営業先での配布推進」という個別のミッションを設定することは、それは構わないと思いますが、「部のミッションに直接寄与する会社の変化」を起こさなければならない、ということは言明する必要があります。

二つ目は、そのミッションをうまく設定できない、ということです。ここは、「ミッションを達成するプロセスをどう考え、どう伝えるか?」ということについて事前の準備とトレーニングが必要になる、ということです。実は、目標管理制度で一番難しいのは、この「うまい目標設定」であり、管理者の「目標設定トレーニング」は人事というよりも、組織マネジメント上非常に重要です。ここには、いろいろなコツがあるのですが、今回はまず簡単な例で一部をご紹介しましょう。

たとえば、社長が部長に営業利益「率」を5%上げる、というミッションを与えた時に、「全員一律5%アップしてこい」と部下10人に伝えるような部長、というような問題です。実際、少なからずいるんです、これ。あらかじめ言っておくとトレーニングしてもできるようにならない人もいます。それは、「考えることが嫌な人(含むニコチン、アルコール中毒)」です。

私はこのような場合に、設定例を自分で作って見せてあげます。上を例にすると

  1. 自部門の残業代を〇〇百万円減らす。
  2. 自部門の出張費を△百万円減らす。
  3. 自部門の仕入費用を〇〇百万円減らす。
  4. 自部門の既存商品の売上単価をXX%上げる。
  5. 自部門で新規の粗利率50%以上の商品の販売額をZZ百万円以上にする。

そして、「5%アップは、この組み合わせで実現できることですよね?どういう風に組み合わせるのが一番勝算がありそうですか?」というわけです。なんとなく、どこがいけそうで、どこが難しそうか?ぐらいは現場の人は勘が働き、それは8割がた正しいことが多いです。さらに、「残業代を減らすにはどうすればよいですか?」というと、そこには、「単純入力作業の自動化」「会議の削減」「会議準備に簡素化」「複数人営業往訪の廃止による時間節減」などの対策が考えられ、それぞれを実施するためには、また準備が必要なわけです。

とお話しすると、部長さんは、「はあ、そうですねえ」というわけですが、ではこれがどうすればできるようになるか?というと、その問題の構造が社長と部長の中で共有できていないし、そもそも部長の中に明確になっていないからです。

そこで、こんな図(ロジックツリーと呼ばれますが、そんなに厳密に作成しなくても実用に足る)を各テーマごとに弊社で大まかに作成し、さらに、この一番右側の課題に対して、課題を分解して書いてもらう、と言うことをやります。

このうち、どれが効果的かは会社の状況により異なり、私よりも部長の方が直観的によくわかっているのが通常です。ただし、それは、これに現れるようなデータを部長が日頃から見ている「風通しの良い」会社であることが必要です。

歴史的に、「営業部長が当期売り上げ数字以外を考えたり、口出しすることをワンマン社長が嫌った」というような会社だとまずそこを変えていく必要があります。また、もう一つは、こうした議論を様々な立場の人が意見を言うというようなことができないと、かなり視野の狭い対策が出来上がります。そういう症状に陥っている大企業は日本ではとても多いと感じます。

ともかく、こうした「会社の構造」を図にしてみることにより、目標に対して、何をどこから手を付けてよいか、そして、個々のメンバーに分担してもらうミッションがどのような位置づけであるのか?が明らかになります。また、部長、課のミッション、個人のミッションがだいたいの場合に全体と部分の関係になっている、ということも見えやすくなるわけです。そして、これが作れる、ということはその過程で、「どこが対策ポイントか」が実は見えているし、分解できないということはそれが見えていない、ということでもあります。

ミッション自体がこのように構造的に分解できる場合はこれを有力そうなものからトライアルする、ということがプロセス、と言うことになります。残念ながら、これでも実際にはやらせてみるとうまくいきません。それは、「自分で問題を設定して調査して解を導く」という力が日本人には、学校の成績の良しあしに関わらずかけている人が多い、という問題が背景にあります。放っておくとどこから手を付けてよいかわからないと一年間途方に暮れて立ち尽くしているような人が少なからず現れます。

実はそこにも教えてあげるべき、流儀、方法論があります。これは、「研究」論文作成から会得した方法論なのですが、これで一大内容なので、また機会を改めて紹介させていただきます。

あとは、全社にどう伝え、どうマネジメントするか?ということが経営者に見えてくれば、実行できずはず。それを次回述べたいと思います。

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