最近、偶然、複数のお付き合い先で紹介や取次などの「代販」の仕組み構築や契約立案のご相談がありました。今回に限らず、日頃よく、「契約書チェックしてください」という相談を受けるのですが、それを聞いた時点でもう私は、「こりゃ売れないな」と思うわけです。
「売れる」というイメージを持っていないままにとりあえずお互い契約だけ結ぶ、という代販契約は、そのほとんど全てが1年後には「契約作業やコストの無駄」だけを残して形骸化しています。古い会社でロッカーの黄ばんだ契約書を何百と整理すると、その契約プロセスの労力がいかほどの無駄を生んだのかと暗澹たる気持ちにさせられます。
「トップ同士合意して、契約だけ結べば、あとは売ってくれるはず」と思っている人が昔から世の中にはたくさんいることをこういう事例は示しているわけで「それじゃだめだよ」と「余計な口出し」をしたくなります。
なぜ、こうしたことになるのか?というと、大きく分けて2つあり、一つ目が「そもそも直販でも売れない」ものを適当に人に売ってもらおうということに無理があること、二つ目が代販をお願いしている相手にメリットがない契約をしている(そして相手もそれをよく考えていない)ので、後になって相手が動かないということです。
今週は、この「あるべき代販の仕組み」について3回に分けて、ご説明していきたいと思います。
代販とは何か?
ここで言う代販とは、代理店、取次店などによる販売のほか、紹介店からの引継ぎによる販売も含むこととします。
販売がなければ企業は経営が成り立たないわけです。それでもなぜかしら、世の中の会社は商品を開発することには熱心ですし、開発したものを改良し、低コスト化する作ることも一生懸命やるのですが、それを販売することはおろそかにしがちです。新卒の配属希望を聞くと、ほとんどが企画、開発、広報…ごくまれに財務(経理ではない)…で、営業を希望します、という人はめったにいません。
営業は、相手が要りもしないものを、相手の迷惑を顧みず斡旋して、9割断られ、時にはすごい剣幕で怒られ、それでも何とか売り上げを確保しなければならない、その売上が存在意義の大部分です。売れない営業に存在価値はありません。もちろん、学びもありますし、本来ならばマーケティング活動においてリーダーシップを発揮できるはずのポジションなのですが、実際には、そんな建前はさほどうまくいかず、多くの個人同様、会社自体も、苦手意識を持っています。それは、「こうやればうまくいく」という「定式」「方法論」を社内に持ち合わせていないからです。
その「方法論」の一端はもう一年前になりますが、こちらの記事に整理しました。少し前までの弊社のアクセス数トップ記事でした。合わせてご覧ください。
営業は、特異な人的リソースがそれになりに必要なことに加えて、売れる売れないの差が人により大きな差があり、しかも確率的です。表面的な効率を追求するとますます売れなくなります。優れた営業マンは非常に希少な経営資源です。しかも、営業は、自社の営業マンのほかに、営業先がないと成り立ちません。ビルの1階から最上階まで全部飛び込みする(これを「ビル倒し」と営業の世界ではいいます)ことや、電話帳を片っ端から電話することで売れたという時代もありました。しかし、それはニーズが細分化しておらず、需要が拡大していた時代の話です。今は、適切なターゲットに信頼関係の元、丁寧な説明をしなければ、これらはただの迷惑行為になってしまっています。
訓練された人、そして営業対象となる層、その二つを順序だてて整備することは、新しい会社にとっては、かなりの難易度です。もちろんそこを突破しなければ、1億は到達できても、10億、100億には到達できないわけですが、その過程でその一部を他社にお金を払うことで、他社の資源を使わせてもらう、それが代販の正体です。もちろん、企業規模が大きくなってからも代販を中心とする会社はあります。それはそれで「代販のノウハウとネットワーク」が確立できているからできることです。
ダメな会社はこうする
最初に、「ダメな会社の典型的パターン」を見ていただきましょう。
・部長が交流会等で出会った会社と意気投合し、「面白いから売ってくれるといっていたよ」と鼻高々に持ち込み、「契約結んどいて」と指示する。
・担当が契約だけを結ぶ。文案をあれこれ細かくいじるが、どう売るか、何を交換するかは軽んじられ、販売・紹介の手数料率はできるだけ低く交渉して成果として部長に報告する。
・契約を締結すると、「ご紹介をお願いします」としつこくメールだけが何度も飛ぶ。
・全然案件が入ってこないと、「あの会社はダメだ」という結論になり、「もっとほかの会社を探そう」ということになり、最初に戻る。
どこがダメなのか?お分かりになりますか?そして、あなたの会社はこうなっていませんか?
1 誰にお願いするか?が一番大事
たまたま経営者仲間で知り合った人が関心があると言ったから、代販契約を結ぶ、というこの最初のステップのやり方、このパターンは間違いなく、ほぼ全て失敗します。代販に限らず、世の中の営業の失敗の多くはこの、「本当に必要なターゲットではなく、たまたま出会った人をターゲットにする」ということから発生しています。そして、その「行き当たりばったり」や「やれることをやる」営業姿勢では目前の一件は獲得できたとしても、事業は目指すゴール=企業の成長に到達しません。その「ゴールに向かっていない代販」の世の中になんと多いことか…
それでは、この代販体制構築における「本当に必要なターゲット」とは何なのでしょう?
この話はこのブログに何度も繰り返し出てきますが、それは、その商品が対象とする「マーケットセグメント」、この場合は代販の話なので、多くの場合は、「そのセグメントにパスをたくさん有する人」のはずです。
その「マーケットセグメント」が複数あったり、広かったりするならば、(本来はそれも、絞り込み個別撃破することが適当なはずなのですが)、そのそれぞれの狭い範囲毎に日本で1番、2番のパスを持っている会社というのがあるはずであり、そこを見つけ出して説得することが必要なのです。そこで、代販に頼るつもりなのに、下位の会社をパートナーに選択してしまうと、そのセグメントではメジャーな商品にはなれません。
自分たちの商品が低価格の消耗材である場合には、現場の担当者でも話は進みますが、高価格帯で、しかもベンチャーが提供するような価値が一般的ではない商品の場合は、買い手の話相手が担当者では埒があきません。会社の業務の仕組みや教育の仕組みを変えるようなことを提案する稟議はそこからは起案されないでしょう。そうすると、そのセグメント(業種、規模、地域)の会社の役職者に会える、ということが重要になります。そうした会社を何十、何百も知っている、となると実は組むべき相手は国内にそう多くはないのです。
最初にするべきことは、こうした勝てるパートナー候補がどこなのかをリストアップすることなのです。営業の仕組み構築では相手にあることだから、と流されず(現実的対応はそれでも必要になることはあるのですが)、勝ち筋を描き、「あるべき姿」を具体的にすることが度々必要になります。
2 組む相手にとってのメリットはあるか?
せっかく見つけたパートナー候補にふさわしいパスを有する企業が自社に協力してくれるか?も決して確率の高いことではありません。だからといって、冒頭のように安易に流れても、それは「うまくいくはずと考えた仕組み」ではないので、うまくいかないばかりか、何が誤算だったかも十分な情報が得られません。そもそも、「契約を結べば相手は動いてくれるはず」という考え自体が甘いのです。相手の事業戦略上、当社の商品が重要なものに位置づけられて、十分な時間とお金が投下される状況が作られない限り、片手間で売れるわけがない、という当たり前の事実を、つい営業部長は当事者になると見て見ぬふりをしてしまうのです。
相手の事業戦略上重要である、ということは大きく分けて、2つあります。一つは、新たな顧客を拡大することや既存の顧客での顧客内シェアを拡大し、顧客とのリレーションを深めるという、市場戦略に関する部分です。そして、もう一つは自社にとって短期~中期の利益貢献になる、ということです。このうち、後者の「利益貢献」については、第2回目でお話しすることにして、ここでは前者のお話をしたいと思います。
では、その相手の事業戦略上、自社の商品が重要であるか?というと、もちろん商談時点では重要ではないわけで、それを重要と位置付けてもらう必要があります。
それには相手の商品のターゲットセグメントが自社と重なる部分が多いだけでなく、相手の商品のユーザーに与える効果にプラスの効果があったり、欠点を補う効果があること。あるいは相手の商品のラインアップの空隙を補完するようなことを商品の一部を改変してでも補うこと(場合によってはOEMのような形態をとり)を説き、納得してもらう必要があります。
そして、それをただ口でいうだけでなく、相手の会社の顧客の認知につなげることができるような販促策、支援策まで含めて提案する必要があります。その策の費用分担をどうするかは別に協議する(実はこれは結局どちらかに発生し、それも含めて利益配分率を決めることであるので、大きな問題ではない)にしても、相手の立場に立って、相手の商品の戦略上有効であり、しかもそれが当社の協力により十分短期に実現可能であることを示さなければ、相手は提携を具体的に考えてはくれないのです。
このように、「相手にとって売りたい商品」であることが代販の成否を決める一番の要因です。ですから、契約書以前にその「空気」を作ることが一番大事なことです。相手の事業戦略までこちらが考える必要があるのか?といぶかしげに思われる人もいますが、適当な、義務も動機もない代販契約を作ることは法務、総務、営業担当の時間の無駄です。そして、その動機とは、これも誤解している人が多いのですが、「紹介された商品が素晴らしいから」ではありません。「自社の事業を続ける、発展させるのに役に立つから」が一番で、そのうえで、「利益になるから」です。そこにあなたの会社は関係はないのであり、あなたの商品は、「うまく利用される」立場なのです。
3 売れる仕組みを作ってから始める?
今日、最後のトピックは、この点です。代販協力会社と契約を結び、パンフレットを支給し、説明会を開催すれば売れる、(そこまでが自社の責任)という態度をとる人がいますが、これではまったく売れません。
必要なことは、「こうすれば売れます」という方法論を移植することです。
よく、代販は直販よりも難しい、と言われますが、これは「売れる方法論を仕組み化できていれば」、代販と直販の差は、「指揮命令権」だけであり、あとは同じであるはずです。つまり、方法論さえ移植可能な形で存在すれば、パスを持っている先に営業チームをつくることができれば、それで代販構築は完成するはずなのです。
その仕組みがない、口述伝承と勘に頼ったやり方(日本では若い会社でも、ここに留まる会社が大半なわけですが)では、代販先が、独自に自社で成功パターンを見つけなくてはならないわけで、「難し」くなってしまうのです。
このことからわかるように、直販社員に行うのと同じ研修が代販協力先スタッフにも必要です。また、場合によっては、社内で用いているものと同じSFAを代販先にも開放し、代販先での仕組み化を早期に軌道に乗せ、同時にオンライン上でのOJTを行うことが適当です。
用途の簡単な低価格な商品であれば、販路さえあれば一定数の販売が見込める、ということも期待できますが、現代においてはそのような商品はもはや珍しいものになり、売り方に工夫が必要なものが大半になりました。その「工夫」を相手に期待する、ということはよほどの利益率や販売見込みでない限り難しいものであり、そこも提供しなければならないのです。これは、20年前とは大きく相違している時代の変化であるのに、多くの会社の部長は、「古い常識」で「販路さえあれば何とかなる」、と思っているので、冒頭のようなお気楽な過ちがそこかしこに存在するのです。
そして、自社で売れない原因が販路であるならば、販路(パス)を持つ会社の力をかりることはできますが、それが実はパスではなく、「販売ノウハウがないこと」だとしたら、代販は失敗します。依頼先がよほどの優れた営業スキルを持つ会社でない限り、他社の商品を自分で販売ノウハウを0から構築することは成功確率も低く、途中で投げ出す可能性が高いことです。
そして、この「方法論」は代販の交渉上も決定的に重要です。「私たちは、この方法論でアプローチしたら、新規営業顧客でも〇%の確率で受注できています。貴社の様にすでに多数の顧客とリレーションがあれば、十分な売上見込みがたてられるはずです。」と根拠をもって主張できるからです。
次回はその辺からご説明しましょう。