私のところにも、M&Aの相手先探しのご相談を時々いただきます。この一年もいろいろなお話をいただきました。類似するものとしては大規模開発案件の企画と参加メンバー選定というのもいくつかありました。売却希望規模としては、数億円~100億円のお話が多く(中には数百億の案件もありましたがそれは最初から手を出しませんでした)、もし1件でも成約していたら、コミッションでとりあえず弊社も大幅な経営拡大~業務用車両が買えるぐらい~が可能でした。しかし、1年間で1件も成立させることができませんでした。いや、あえてそこまで深追いしなかった、と言わせていただきたい、というのが今日のお話です。
M&Aの成功とはなんなのでしょう?
M&Aの仲介業者、あるいはフィナンシャルアドバイザーを名乗る人は世の中にたくさんいます。それこそ私のようなものにまで声をかけてくれるぐらいですから、あちこちにネットワークを張ったもの勝ちの世界ですし、当事者同士は疑心暗鬼、化かし合いの世界もあります。私自身、買われた側、買った側それぞれの当事者に複数回なり、そして最後には売った当事者にもなりました。その「成約」は仲介者にとっては、確かに「成功」だったと思いますが、当事者にとってはそれ自体は成功でもなんでもありません。当事者にとっての成功は、売上シェア、利益の増大であったり、市場での認知の拡大であったり、といった「経営上の成果」が成功の基準であるはずで、事業の売り買いは、時間を短縮する効果の大きい、その手段の一つだからです。
依頼主からは、「何とか話つなげてほしい」「うまく説得して欲しい」というような矢の催促が来ます、「お金は成約ベースで払うから」の代わりに。しかし、親しい経営者の方に案件を簡単にまとめて提案し、腹を割ってお話しいただくと、「そりゃ、やめときましょ」ということもかなり多いです。
一番多いのは、「他社事業を買ってきて、融合させるだけの「腹を決める」覚悟がない、というケースです。経営者もいろいろな課題がある中で、全部に腹を決めていてはいくつ腹があっても足りないわけで、その中で、M&Aの面倒さ…特に組織融合などの人の問題、隠れていた問題への対処など…への耐性がないタイプの経営陣、会社というのは一定数あります。言って見れば、「M&A慣れ」している会社とそうではない会社の差は大きく、慣れていない会社は、ケガの元です。
また、来る案件シートの中には、「こりゃ、相当手を入れないと実際には販路も商品も劣化してますよね?…『はい』とはいわないでしょうが」というものも多くあります。こういうのは、経営者の側に立てば、「特にそれを立て直して活用できる、という見込みがないならばやめておいた方がよいですよ」と助言することが正しいわけです。
だとすると、「それはやめておきましょ」「それをやるには、社内にこういう資源を用意する必要がありますよ」という助言は、「成功報酬」の体系からは産まれない、月額定額の Advisaryサービスが適したものです。
一方売り手の側に立っても、今のような「とにかく、可能性のあるところに総当たりする」というやり方は本当にその事業の価値を保全し、高めるものではないように思います。
今、その会社ではうまくいかなくても、別のオーナーが一定の資金やそのオーナーが有している販売網、販促ノウハウを提供すればその事業が価値を生む可能性がある、ということがM&Aの基本的な考え方なわけですが、それがどんなことであるのか?を売り手に入り込んで深く知り、可能性を洗い出し、それを実行可能だが、その可能性に気付いていない会社に、「事業の提案の一部としてのAquisition」を提案し、その会社と協力してその新規事業を成功に持ち込む、ということが正しいのではないでしょうか?売ったらさようなら?で本当に良いのでしょうか?そうだとしたら、相当、売り手の社内に入り込んで勉強し、丁寧な提案内容を詰めて、それを提案しうる会社へのパスを探して、提案する、という作業をすることが適当だと思うのです。そのためには、かなり低い成約率×かなり大きいコミッションというギャンブル的形態の収益では、十分な提案作成と遂行作業ができないと思うのです。一攫千金で巨万の富というような投資銀行的な在り方は、すでに陳腐化している、顧客のニーズから乖離しているとも思うのです。
世の中にはそうしたアドバイザリー業務を丁寧にやる力のある人もいるのだと思いますが、この一年の私はそうしたことを実現することはできず、この分野は少しおろそかになってしまいました。
しかし、もともと弊社は、膨大な統合業務、D100プランに強みを有しておりますので、一周年を機にもう一度「成功報酬ではなく」M&Aを手掛けていきたいと思っています。具体的には、事前の提案内容詰め、そして事後のPMI(Post Merge Integration)までを含めて、経営者の分身としてやっていきたいと思っています。
今日もyahooのZOZO買収が公表されました。体質の違いが顕著な両社、ブックオフ、アスクルでの摩擦処理の実情を見るに、M&Aの難しさ、そこに関わる人々の責任を改めて思ったのです。