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交際費ルール

最近は重い精神論が多かったので、連休最終日ということもあり、軽いネタを一つ。

最近、3社で「交際費」に関する討論があり関わることとなりました。1社はとても厳しく、2社はかなり緩い状況でした。そして、3社ともルールが明確ではないのでルール化しよう、ということでした。いままでいろいろな会社に関わってきましたが、皮肉ではなく、これほどその会社の歴史と文化が反映される費用科目はほかにないでしょう。各社ばらばらであり、経営者の考え方も代替わりするとまた変わったりするので、社員も顔色を見ながら自腹を切っていたりします。交際が一般社員に至るまで月に何度も使うことが当然視されている会社と代表者以外はほとんど使わない会社との差はいったいどこから生まれているのでしょうか?

■交際費ルールの基本は、金額ではなく、効果のはず

敢えて、交際費ルールの正解を述べるとするならば、「費用対効果が1以上のものはやればよいし、1以下のものはやらない」と言う事に尽きます。「1以上かどうかわからないではないか」、という反論に対しては、「絶対1以上にする。そのためにこれは必要である」と主張し、それが過去の実績から信頼できる人は使えばよいし、それを周囲に納得させることができない人には使わせなければよい。ということです。

儲かっているならば、役員・社員と株主に現金で配布すればよいし、広告宣伝費や設備投資に使えばよいのであって飲食費で費用をたてて利益を減らして見せる、というのは正しくないと言えるでしょう。

「会社のお金で飲食をするのは、道徳的に悪」という意見を言う人に時々、会いますが、会社は法律や社会ルールの範囲内で、お金を増やして出資者に還元する装置ですので、「効率的に増やす方法」が交際費を使うことであるならば使えばよいはずです。同様に、「一人いくら以内」と制限を定めることも全く意味がないと思っています。「お金を使って相手を説得して、そのお金以上の利益を上げる」ことが目的であるならば、金額ではなく、費用対効果で制限するべきです。一人5千円でみみちい居酒屋で話すのが良いのか、それとも1人2万円で個室の静かなレストランにするべきなのか?は後者を選ぶほうが費用対効果が優れている場合があるはず、ということです。

■飲食は売上に効果があるのか?

では、「飲ませ食わせすると説得しやすい」は本当なのでしょうか?理想でいえば、製品の差別化が十分で製品のメリットをきちんと説明したら選んでもらえる、という状況が一番良いわけですし、営業の経験がない方は営業とはそういうものと頭の中で思われている方が多いようです。しかし、営業の現実として、そのような優れた商品ばかりをカバンに入れて出歩けるわけではない、むしろ他社の方がよいとわかっていてもそれをなんとかごまかして自社製品を売らなくてはならないケースの方が圧倒的に多いのです。これはマーケティングの失敗なわけですが、ほとんどの会社はそこまで一貫したマーケティング策を実施できていません。しかも悲しいかな、その状況を経営者や他部門は理解してくれておらず、「あいつら、言い訳ばかりで全然売ってこない」という非難をされさえします。その時、営業担当者に短期的にできることはもう二つぐらいしかありません。一つは値引き、もう一つは会食等により相手に心理的に取り入りなんとか製品での劣位を心理的距離で逆転することです。すべての営業が弁の断つ優秀者というわけでもないのですがそれでも「営業をやる」と言ってくれる人が社内外に少なくて頼らざるを得ないという現実を前提にすれば、営業の立場からしたら、それは、「仕方のないこと」ですし、会社もそれを追認せざるを得なくなっているのです。そして、そうしたことに時間とお金を使っている限り、本当に必要なマーケティングには目が向かず、その日暮らしが続きますしそれが本人たちもわかっているのですが、どうしていいかの具体的解答を知らないためにその日暮らしを続けることになるのです。

 この「交際費の使用による効果」には、現代企業の特に大企業の決済権限の盲点が隠されています。実際には、その飲食の相手には決済権があることは少ないのですが、日本の従来の大企業では決済権のある人が現場のニーズをきちんと把握しているわけではなく、稟議はほとんどすべて、一説によると95%以上が素通りです。「管理者」は実は何も管理していないという現実がそこにはあります。

 上がってきた稟議に対して、やるやらないには多少関心が向いていても「どこを利用するか?」にはほとんど上級管理者のコミットがなく、稟議起案者の選定がそのまま通るケースが多い。そして、稟議に付属する資料のデータの作り方をどうすれば、つまり比較表の項目の取り方により優劣の見え方を変えることができる、評価軸の選定までさかのぼってチェックされることはまずないという「社内技術」に皆たけているので、何とか説得できるという「自信」があるからこそ、現場担当者との会食が有効というケースが現にあるわけです。これは癒着といえば癒着ですが、担当者からしてみたら、「信頼できる相手と実施した方が安全、心理的に楽」という自分の安全を求める要素もありますので、「一生懸命サポートし続けます」、「あなたのことを信頼しています。何とか役に立ちたいです。」と言ってくれて、飲食の機会でその人となりとがわかっている人と一緒に仕事をしたい、と思ってしまうということが大企業を中心に起きているのです。

ただ、徐々にこれも通用しにくくなってきています。その話は後程再度述べます。

この心理的距離を縮める行為は、決して「日本企業はだからダメなんだ」、的な議論ではありません。例えば、外交の場では庶民から見たら不適切だと思われても仕方がないほどの高級ワイン、料理、そして夫婦でのパーティ参加やダンスパーティ…などが連日連夜、参加国が交代で主催して行われ、そこでの個人的信頼関係、つまり、「こいつは国益を考えつつも、相手にメリットも考えてよい妥協点を真剣に探そうとしてくれている、手を握るべき相手だ」というような感情をベースに国家を左右するような重要な交渉が行われています。同じ釜の飯、という言葉がありますが、心理的距離を縮めるのに古来から事の大小はともあれ多用されている方法ではあるのです。だから、私は、経営者同士がお金を使って何等かの交流を行うことには結構賛成です。

【心理的距離、同じ釜の飯の「仲間」】

つまり、「あなたと私はこれからずっとあなたの発展のために協力していく仲間です。どうかあなたの困っていることや方針などをもっと深く理解したいので、会食させてください。」あるいは、「自分たちの夢の実現にはあなたの協力が必要です。」という「共感を得ること」が会食等接待にお金を使う第一の意味です。逆に言えば、多分それ以上の意味はないのです。

「豪華な食事をごちそうするから、この商品を買ってください」や「買ってくれたお礼です。」は相手の時間と自分のお金の無駄です。どちらかというと「長期の多面的な取引・情報交流の円滑化」が目的です。わかりやすくいうと、「一度食事に行った仲だと、そうでない人よりも相談・お願いの電話がしやすい」というような効果です。

そして、この立場に立つならば、相手も自分も、そのビジネスに関して中長期的に方針の立案や人員の配置などの資源配分に関わることができる人であることが投資効率上望ましいと言えるでしょう。

ここまで読んでいただいた方は私が交際費支出に寛容と思われるかもしれませんが、このように考えていくと、交際費支出が効果的であると正当化されるシーンも、その対象者も、実はかなり限られているように思います。私は、営業の現場の「やるせなさ」はいやというほどわかっているつもりで彼らが交際費に頼らざるを得ない心情も理解していますが、「継続的に大規模に接待しなければ持続できない取引関係」というのは持続可能ではないと経営側が判断するべきだと思います。また、営業担当が単独で相手方担当とする飲食にはほとんど意味がないと思っており、双方の経営陣が同席して今後の長期的関係について共有できる場に仕立て上げることが必要だと考えています。

もう一つ、私が警戒しているのは、「相手が増長し、交際費を要求する」というケースが現にあることです。実際には、あるんですよね。「だんだんエスカレートする大取引先」というのが…。ある名門百貨店は、私がいた会社に、会食だけでなく、「自転車」「直接自社に関係ない取引先への贈り物」など自社の経費で買えないものを私がいた会社に買わせていました。

ということで、接待費ルールを提案してくれ、というご要望には回りくどいようですが、つぎのようなお話をしています。

1 その会社での「接待費の意味」を明確化する。

2 目的と話すシナリオを明確化し双方の経営者が同席し、それについて意見交換できるような場を設けることを条件とする。

その上で、管理者は上がってきた申請をこれに該当しないものは却下してよいとお伝えしています。それで売り上げが下がる、と営業に脅されても動じるな、とも助言します。

【時代は変わった】

 何故、動じなくてよいのか?は根拠があります。「個人的な利得を与えたことによる取引の獲得」でサラリーマンが判断を変えて動いたのは、「バブル世代」まで、つまり今の50歳以上まであり、それ以降はそのような判断のゆがみは明らかに効きにくくなっています。これは、女性や外国人社員の進出により判断が正常化した、内部統制ルールの実効性の確保、成果主義の浸透などの要素があります。この流れは、この先数年で50代以上が役職定年を迎えつつあることで定着すると思います。

古いタイプの上司に教育された営業マンは他の手法を知らないので、その手法を捨てるのが怖いのです。しかし、多くのケースで(一部の業界を除いて)短期的な売り上げは変わりません。変えるべきことは営業手法ではなく、商品の企画から始まるマーケティングそのものである、という正論がセクションの壁を越えて通用することが従来の日本企業ではなかなか難しかったのですが、「経営をトレーニングされた」層がリーダーになるとそれも改善してくるはずであり、今後は交際費は性格を変えていくだろう、と考えています。

そういう私は企業勤務や役員時代、ほとんど交際費を使いませんでした。ほとんど自費で行っていたのです。私が自費で食事に誘っていた人は、「仕事とは関係なくずっとお付き合いしていろいろ教わりたい人」だったからです。こういうのは、今度は全く豪華である必要はなくて、二人で「いい店あるんだよ」「次そこ連れて行ってくださいよ」と言えるので安上がりですし、報告書もいらないし、成果に追われることもないので、気楽でした。そして、その人たちと今でも交流していて、今の仕事の基盤になっています。

今は、現場の方とは積極的に朝の喫茶店、昼のランチミーティングを活用しています。その方が、「ちゃんと話せる」ので積極的に提案しています。それでも、「個人的に信頼関係を結ぶ」ことはできます。時間も短くて済み、安いですし。
昼なら子供のいる社員も参加しやすいですし。

それではダメなのか?と営業担当に言ってみてはどうでしょうか?

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