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中国の小切手に四苦八苦

最近、中国ネタが少ないので、小ネタを一つ。中国ではいまだに支払に小切手が多く使われます。中国語で「支票」(ツーピャオ)と言います。日本の小切手同様換金もできますし、裏書して支払に使うこともできます。今回はこれのお話。

中国では深センの中心部のような大都会でも。現金を持ち歩く、保管することが現実にリスクがあります。街中で歩いて5分の銀行まででも女性の経理社員が往訪するときには男性社員とセットで行かせ、出入り時や途中何度か、日本の現金輸送の警備会社の社員さんの様に周囲を確認しながら歩く必要があります。私が同行するときもありましたが、銀行から出る時には特に注意が必要で明らかに怪しい人物が出口付近にいて出入りを見ていることがあるのです。そういう状況を「自衛」することが中国では求められます。

歩道橋の上のような左右に逃げ場がない場所やバスのドアが開いた瞬間の降り口近く、あるいは車の助手席から降りたら前にガードレールがあり身動きがとりにくい場所。こうした場所は、ひったくりの「危険」エリアだとセンサーを働かせる必要がある場所です。日本では、乗り物の中でカバンのファスナーが開いていても平気でいるような人がたくさんいますが、そういう人は外国暮らしには向きません。

そんな状況があるからこそ、渡した後も相手の印鑑がないと換金できない「支票」が比較的大きな金額の支払方法としていまだに有効に機能しているのです。では、「銀行振込」ではなぜダメなのでしょう?

赴任当初は、皆から「銀行は信頼されていない」という説明を聞いて一応納得していたのですがこれは理由の一部分でしかないようです。たしかに昔は送金手続きを取っても相手に何日もかかって送金されたりあるいは不備があったりということがあったそうです。ただ、それは紙で伝票が輸送されていた時代の話。今時は、日本以上にほぼその場で着金します。本当の理由は、「銀行=政府」であり、銀行にお金の出入りを監視されたくない、つまり税逃れが理由の大半です。

それに気づいてもう一度見てみると、支票を希望するのは、塗装業者などの個人事業主や中小企業のオーナー系であり、同じ外資は振込で何ら問題ありません。ちなみに上場企業グループや若いベンチャー経営者でもこの辺はあまり変わりがありませんで、支票で「操作の余地」を残そうとしているようです。

中国も国際会計基準にほぼ準拠した立派な会計制度が存在しています。内部統制ルールや資産の時価評価ルールはルール自体は日本よりも早い時期にかなり徹底した内容が上場企業には義務付けされました。しかし、この事例からもわかる通り、中国企業の多くの財務諸表が実態を反映したものか?ということは、日本でも私はさほど信頼はしていないのですが、中国では全く信用していません。実際、相当大きな企業でも中国系企業の経営者は、「財務諸表」は「実態を株主に正確に報告するもの」という意識を持っていませんで、むしろ「都合よく報告して自社を有利にするためのツール」という考えを隠そうとしていませんでした。二重帳簿、簿外処理など当たり前のことなのです。

だからこそ、以前のこちらの記事でも書いたように、「経理部の上司は総経理ではなく、税務局」というような体制を国家がとらなければならなくなっているのです。コモンセンスなき資本主義の悲劇です。

さて、最初に戻って、この「支票」ですが、これにもいくつか法律上の定めがあり、そのうち一つが金額を「漢数字で書く」というものがあります。そして、この「金額を書いてハンコを押す」のは本来、経理部ではなく、総経理の仕事です。ちなみに銀行から小口現金を下ろす時にもこの支票を使って現金化するので、20枚一つづりで30元ぐらいで銀行から綴りを購入するのですが、結構消費します。中国では、他の誰にも任せず大きな資金の移動は総経理が行うのが通常です。それほど総経理の責任は重い。もっとも日系の総経理は日本の調子で経理担当者に任せている事例も多いようですが、そういう日本人経営者は考えが甘いと思います。そこは不正の入り込む余地を生む原因になります。

ところがこれが難しい。何が難しいかというと


壹、贰、叁、肆、伍、陆、柒、捌、玖、拾、零

1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,0

このような漢字を使うということです。たとえば、12345.67元は
壹萬贰千参百肆拾伍元陆拾柒角と手書きで書きます。(これを印字してくれる漢字のチェックライターも実はありますが、意地になってそれには頼れませんでした。)これを「大写」と言います。ちなみに12345.67の方は、「小写」であり、これも記載欄がありますが、法律上の正は「大写」のほうです。これをキチンと記載できることは中国の経理資格の主要な試験項目の一つになっています。日本でも公証人を使い公正証書を作成する場合にこのような漢数字を使う場合がありますが、中国ではそれが毎日です。もちろん、この目的は、「改竄防止」です。この方法を用いていれば、スルガ銀行も不正はできなかったでしょう。(いや、別の不正をしていたんでしょうが)

「他人が信頼できない」「嘘をつく」可能性があることを前提にした仕組みが中国では他にもいろいろあります。普段の人との接し方は中国人も日本人とあまり変わりません。彼らも同様に気遣いし忖度し、礼儀を重んじるが陰では悪口をいいます。顔も似ています。表向きの会計のルールも同じです。しかし、管理系の実務をしているとその社会の「前提の違い」をここかしこに感じるのです。それを踏まえて同じルールに違う対応をとらなければならないこと、そしてそれを日本側は何もしらずに口出ししてくることに、外国で仕事をする難しさがあります。


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