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会社に社員個人への中傷電話が何百回と…

これも20年ほど前までの話。その会社ももうなくなってしまったので時効でしょう。本社商品部に異動してしばらくは、新入り最年少ということもあり、かかって来る電話に尽く出て、他商品分野含めて主要メーカーの営業の方に自分を覚えてもらうことに一生懸命の期間がありました。商品部には商品部の電話番号があり、となりのブロックの総務、経理、財務とは壁もなく行き来できる状態でしたので、そちらで人数がいないときには、そちらの電話も応対していました。おかげでこの時期には家で電話を取るときでも、習慣というかプレッシャーで「ありがとうございます。〇〇電器の△△でございます♪」と電話に本当にでてしまうことが何度もありました。

そんなある時に、隣のブロックへの妙な電話を取ってしまいました。その電話は名も名乗らず、「そちらにMさんっていらっしゃいます?」「私は別の部署のものですが、財務のMでしたら只今席を…」「あの方がどんな方かご存知です。ホントひどいですのよ…」と詐欺だの乱倫だのと非難を続けるのです。

こちらも毎日7時出勤夜の1時退勤状態が続いて非常に忙しいしイライラしてくるのですが、何分小売業の身、それも下っ端の身、下手なことはできません。左肩と左耳の間に受話器を挟んで聞きながら、改装時の棚割り表を手書きで作成しているのですが、延々電話の向こうで何か言っています。(もう、内容は聞いていないし、相槌も打っていない)

相手が疲れてきたのを見計らい、20代の私は、「お話は分かりました。社内のしかるべき立場の人に伝えます。私は商品部の△△と申します。一旦これでお電話を終わらせていただきます。」と言ってほぼ一方的に切り、当人にそっとお話しにいきました。

 この方、財務部長として資金繰りが苦しいその会社で地銀、そしてその頃にはノンバンクと厳しい融資交渉の矢面に立っていたのですが、「ザ・財務部長」という感じで声も小さくおとなしく、帳簿が歩いているようなまじめな方。背も高くいつもきちんと整えた髪、折り目のピシッとしたスーツを着こなし、通路ですれ違うと下っ端の私にまで進路を譲ってしまうような優しいというより気弱な方でした。

 ただ、資金見通しについての商品部との情報交換や交渉などではかなりキチンとした説明をされていたので、商品部では資金のことは腹が立ちつつも、仕事の面ではきちんとした仕事をする人と思われていました。さすがに上場企業の財務部長というところでした。

 M部長に電話の件を告げ、私がそのように対応したことを言うと、彼は私を連れて取締役総務部長のところにいき、私からもう一度状況を報告させました。総務部長(創業者の同族の方だったのですが)は、「わかった。これ、彼(財務部長)の家のことで難癖みたいなのつけて、彼の仕事や家庭の邪魔をしようとしてんのよ」(こんな言い方だったと思います。)と事情を説明してくれました。若かりし私は「ぴきっ」と来てしまい、「そんなんM部長守るために、みんなに知らせて、みんなではねのけないんですか?相手は『キチガイ』でしょ!」(公開ブログですが、私は確かにこう言ったので、その通り書きます。)と言い、総務部長は、「そうだな」といいつつ、「うまくやらないとM君にも迷惑かけるから預からせて」と言われてしまい、すごすごと部長の前を辞しました。

 M部長は一緒に戻る時に私の背に手を当てて、「ありがとうね。僕は大丈夫だから」といつもの小さな声で私に言いました。そのあとで分かったのですが、だいぶ前からその妨害電話は本社にかかってきていて、皆知っていたらしい。そして、あとからM部長に聞いたのですが、かけてくるのは、M部長のご兄弟の離婚した相手で、そもそも別れた原因も、このような病的妄想による相手や周囲への人格攻撃だったそうです。M部長の私生活まで詳細に知っていたわけではないですが、きわめて慇懃実直な人であり、社内でM部長を知る人は皆、M部長に同情し気遣いしていたのを店から異動したての新入りの私は知らなかったのです。

しかし、事件は起きました。

本社の近くに主力大型店の一つがあり、手が空くと現場を見つつ数字稼ぎに時々応援に言っていたのですが、そこに現れたのです、その「キ※※イ」が(今度は伏字)。日が短い季節の土曜の夕方でまだ店内にはそこそこお客様がいてあちこちで接客がされている状況でした。その人は50歳ぐらいのやせた無表情な女性でした。本社では皆にブロックされ効果を上げないとわかり、今度は店舗に攻撃に来たようなのです。お店に勤める皆さんはそんな本社内の事情は知りませんし、裏方の仕事のM部長という人すら知りません。そこへ一人一人捕まえては吹き込み始めたところに、出くわしてしまったのです。様子を見ていると、妙に馴れ馴れしく店員の顔を覗き込むようにしながら一方的にしゃべり、時々ヒステリックな金切り声を出しています。その様子に社員はおびえるばかりであり、私自身精神科から退院してまだ2年ぐらいの時期でそれがある分類の症状を伴っている、薬等で治療が必要な状況だということもわかりました。

限られた人数で接客する売り場で売上に関係なく人員が拘束されては困りますので、売り場の課長に「本社のお前がなんとか排除しろ」と言わんばかりに目配せされました。小売業で本社商品部とはそういう役回りです。私は自分が電話で応対したことのある人とは言わずに、彼女に「店長がお話を伺うと申しておりますので、事務所までお越しいただけますか?」というやカバンを取り事務室に連れていき、「店長は今参りますので少々お待ちください」と言いました。事務室には運よく誰もおらず、阿吽の呼吸で売り場の課長が各部に連絡して上がらないよう言ってくれているはずでした。

 私は事務所を出て、もう一回下へ行き、課長に本社の総務部長にお電話するようにお願いしたところ、すでに連絡してくださっていて、歩いて5分ほどの本社からその直後に総務部長が来て、私に言うのです。

 「警察に電話して」

総務部長の最終的判断がなぜそこに至ったのかは分かりませんが、「売り場に迷惑をかけることは断じて排除する」という強い意思があったように今になって思います。私も、ためらいなく電話したのですが、その時、大した考えもなくとっさに電話で言ったのが、「営業妨害」ではなく、「精神病の疑いで本人や社員に危害を加えるのが怖い」というものでした。たしか、「凶器は?」と聞かれて、「カバンを持っているがわからないで怖い」とその場で作っていったように記憶しています。

 そのあと、起きたことは意外なことで、その女性は警察の人の登場に喜び、M部長の件を必死で訴えようとしていて警察の方はどう扱ってよいかわからない、という感じでした。ただ、明らかに異常な感じではあり、「保護」の対象にはなったようでパトカーでお引き取りいただくことには成功しました。

 売り場に降りていくと、夜になって売り場は人もまばらになっていましたが、早番の女性社員も事務所内の更衣室に入れず売り場で待機している状況でした。皆、「終わった終わった?」「大丈夫なの?」と私に聞くのですが、総務部長が
そこに現れて「皆さん、ご協力ありがとうございました。」と言って皆を黙らせてその日は終わりました。

そのあと、しばらくはMさん攻撃の電話はかかってこなくなっていたのですが、2か月後ぐらいに、今度は「中傷ビラ」がまかれるという事態が発生しました。猛烈に腹が立ち、総務部長に「営業妨害で訴えるべき」とか言ったのですが、M部長自身がそれを望んでいないということでした。M部長は淡淡と日々の厳しい資金繰りを乗り越える仕事に取り組まれていました。

気が短い私は、「今度会ったら力づくで排除してやる」みたいな感情を沸々と煮えたぎらせていたのですが、毎日毎日やはり何度も電話がかかってきて、その電話は3秒でこちらも切る、そしてそれを集計するという作業を続けていました。弁護士の助言でそれを集計し実害を賠償請求する、という動きをしようとしていたのです。ただ、実際には、経営状況が急速に危機的になりそれどころではない状況になり、どこかにその話は飛んでしまいましたし、私もそのさなかにその会社を辞めてしまいました。

そして、続けざまに起きる不可解な事件

ちょうど、その売り場での騒動があった翌週ぐらいだったと思うのですが、今度は別のお店で大きな、そして不可解なクレームが発生しました。お納めした富士通製のPCが不良だからお金を返金しろ、振り込めというものなのですが、症状を聞いても「返せ」の一辺倒だと店の担当から相談がありました。その担当者とは私がお店にいる時から「PCソフト担当者会議」で一緒に話したことがあった女性で、お店では解決できないと見て私に電話してきたようでした。POSデータを見る限り、車で持ち帰られたようで配達履歴はありません。住所の登録が会員カード(その人はクレジットカード付会員カードを有していた)からあるのですが(90年代にすでにそのような履歴管理をキチンとしていたこと自体素晴らしい)、その会員履歴を見ても過去に買い物履歴が全くないまま、そのカードを作成して数年が経過しているのです。また、「こちらから電話をかけるな」という伝言も店の担当者から引き継いでいました。

また、おかしな人かあ、面倒なことになったなあ、と思いつつ、当時としては珍しく個人で携帯電話(P201というデジタルムーバ第一世代機種)を保有していた私は一計を案じ、本社からは2時間近く離れた和紙で有名なある街の町はずれで、夜の8時過ぎにかかって来るはずのそのクレーム主からの電話を待ちました。

その時、私はその住所の目の前にいました。その日は休みで午後からその家の前で出入りをずっと見張って誰がどうしているのかを確認していたのです。結局、3時ぐらいから8時ぐらいまでその平屋の粗末な集合住宅には誰も出入りしませんでした。暗くなっても電気もつきません。「登録住所とは別のところにいるけど、会員情報で転居が確認できていないのかも」と思って諦めかけていたところに、その電話はかかってきました。
 私は、電話に出るや相手よりも先に一気に、「本社商品部の〇〇と申します。お引き取りの件で、現物確認しお引き取りしてもよいでしょうか?」と言いながら車を降りて、その住宅の前に行くと、中から声がしていました。

「俺の言うことが信用できないとでもいうのか?」

「現物を引き取らない限り、信用如何にかかわらず、ご返金はできないことはおわかりでしょう」

「そのすすすすじのものとも知り合いだがいいいいんだな」

「もう、お宅の前にいます」

お金に困っているのか?詐欺なのか?あるいは質の悪い暴力団系なのか?などお店の方といろいろ推測して悩んでいたのですが、結果はそのいずれでもない、40代無職男性のストレス解消目的の弱いものいじめでした。その店員というのが、あまり強そうではない女性店員で困惑している様子に図に乗ったら、本部からがっちりしたのがいきなり踏み込んできた(ドアにカギがかかっていなかった)のです。

いろいろ言い訳していて、私も腹が立ちましたが、貧しい暮らしぶりを見て彼の世の中への怨嗟の気持ちも少しはわかった気がしました。私自身、いい歳して無職のところをその電気店の倉庫整理のアルバイトとして拾ってもらった経緯があるからです。そのあと、すぐにはがきで汚い字で私の名刺の住所である本社にお詫び状が届きました。そこには、「もうしません」ではなく、「もうお店にはいきません」と書いてありました。自分で自分を社会の表通りから疎外していく様子に心が痛みましたが、お店の担当者には、「今後、出入りしないと郵便が来たからご安心を」とだけ電話で伝えました。

こんな対応の仕方が正しいといいたいわけではありません。大手企業の「危機管理マニュアル」からしたら問題のある対処だったでしょう。

この手の「愉快犯」や「無差別テロ」的な攻撃はその後の仕事人生でも、コンシューマー向けサービスでは何度も発生しています。消費者の99%以上は正常であり、万一こちらが過ちを犯しても心から誤ればなんとかなるものです。この99%を前提にサービスは設計しないと、今の何度も確認を求められるようなネットショッピングのようにサービスの体験は気まずいものになってしまいます。

 しかし、ごく一部にそうではない人がいて、その人を排除するのに膨大なコストと人的リスクが生じるのです。皆、非常に手間のかかる慎重な手法が正しいと言いますが、小さな会社はそんなことはやっていられません。私の無鉄砲な性格がたまたまこの時には功を奏して現場での迷惑は1週間程度で収束できたし、最初の例では力での排除が上手く行かず2年以上にわたって本社2階の事務所に暗い影を落としていました。この例ではもっと力(暴力という意味ではなく法律)で迅速に立ち向かって排除するべきだったし、最終的にはその人のためではなく自分が勤めていた会社を守るために、その女性を保護入院させるような方向に持って行くべきだったと私は今でも考えています。

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