ブログ

中国トイレ事情 なぜ中国のトイレはトンでもないのか?

今週はあまり面白くない話題を続けてしまったので、今日は毎週人気の中国ネタから「トイレ」の話あれこれを同伴赴任していた妻の協力も得てお届けします。

 

■トイレ革命

洗剤の名前ではありません。現在、習近平主席の肝いりの政策として中国に本格展開されているもので、「すべての街に安全で清潔なトイレを」というスローガンのもと、2015年頃から30兆円程度の予算が投下されています。都市部のショッピングセンターなどでは有料やチップ制のことが多いのですが、比較的立派な作りのトイレが整備されています。ただし、日本では主流の乾式清掃は中国ではいくら指導しても根付かず昔からの習慣で濡れモップでびしゃびしゃに清掃員がしてしまうし、タイル素材は見た目は日本以上に立派なのですがすぐ割れたりするので、結局早く痛むし悪臭の問題は改善しません。

このトイレ革命、実は根の深い問題もあります。私も2008年に西安の城壁近くの繁華街で糞尿を担いで運ぶ労働者を見た時に、「まだ、西安のような省都レベルでも沿岸部以外ではこんな状況なんだな」というのを実感したのですが、中国地方部では人糞がいまだに肥料として使われています。「肥料を買って農業を営む気がない」という地方の農家と「下水道や浄化槽が整備されておらず、汲み取りにも費用を払う気がない」という地方の住民の意識と所得水準が上がってこない限りここからなかなか脱却できません。そして、その結果としてウイルス性肝炎への感染率が農村部では非常に高く若い人が苦しんでいる状況があります。中国に赴任したとき、秘書さんが家とスーパーに同行してくれ、「野菜は洗剤で洗ってください」「必ず加熱してください。」と注意してくれたのも、あるいは伝統的中華料理が火を通さない野菜を使用しないのも、こういう理由もあるわけです。(日本だって戦後しばらくはそうだったのです。)私のいた会社もせっかく採用した人が健康診断の結果、稼働できないということがたびたびありました。もちろん、観光の振興や一大スローガンである「偉大な中国を取り戻す(これを最初に言い出したのは、トランプさんではなく、習近平です。)」のためというのは表向きはありますが、国民を守るためにしなければならないことをしている、ということが基本にあるわけです。

このトイレ革命には国内メーカーだけでなく、日本メーカーも頑張っているようです。

 

■トイレットペーパーは一人1巻定期配布

中国にいくと日本のペーパーホルダーのような生地でロールがすっぽり入るトイレットペーパー入れが売られていますが、会社ではこれを使っている人を見たことがありません。中国のトイレには通常は紙がありません。高級ショッピングセンターやホテルではあるところも多いですが、その場合、ロールのわきにお店の名前がマジックで書いてあったりします。何もしなかったら、あるいは日本のようにご丁寧に予備までおいてあったら全部持って帰られてしまいます。これは地方だけでなく、都市部でも、あるいはコミュニティがすでに確立している会社のオフィスや寮でも同様です。そのため、寮や会社では一人一ロール配布し、なくなったら取りに来るような制度にしていました。それを適当な長さにちぎって手にしてトイレに行くわけですが、うら若き乙女たちがこんな感じでちょっとなんだかなあ、という感じではあります。

寮で喧嘩が生じる時、大抵は盗難の疑いが原因です。お金や携帯電話という「持たざる者がもつものを妬み出来心でしてしまう」というケースも月に1件ぐらい起きていて、都度懲戒解雇にするのですが、その次に多いのが、トイレットペーパー。寮母さんが順次配布するのに、なんで盗るんだ?というのが最初はわからなかったのですが、どうやら自分の分をなくすか落とすかして、それを寮母や管理職が怖くて言い出せないで人のを取るようなのです。言い出せないのは、大抵地方で採用して間もない、16歳の子。方言やホームシックの問題を回避するため、同じ時期に同じ地域で採用した人を最初は同じ部屋になるようにするのですが、一度こういうトラブルがあるとトイレットペーパーでは懲戒解雇にはなりませんが、仲たがいして部屋替えが面倒です。こういう時は寮母さんの出番でして、深センの母として優しく言い聞かせていました。

 

■トイレの使い方の講習

地方から採用した社員が入寮する際、最初に指導するのがトイレの使い方。これは少なくとも2010年まで私のいた会社では本当の話でした。深センのような大都市でも水洗化はされていないのですが、それでも日本の和式を前後逆にした(そう、日本とは逆向きなのです)便器はあります。これの使い方がわからず、汚すという事例が教えないと発生してしまうのです。マニュアルはなくて、例の人事部長が口頭で説明し身振りで実演!していました。

更に洋式は謎のようで、その講習でも「座る」という説明をするのですが、これは言われても抵抗があるようです。ショッピングセンターや空港などの洋式トイレでも、便座の上に靴跡がついていることが今でもあります。

 

■なぜトイレで割り込む!

中国人に並ぶ、という文化がないというのは日本でも有名、というか日本のあちこちで眉をひそめられているわけですが、電車・バス以上にトイレは大変です。うちの奥さんなんか待っているとあとからあとから入られていつまでもできないで泣き出しそうになっていました。男もそうで、ゴールキーパーのように(キーパーは背を向けないか)後ろをけん制しつつ、待たないとさっと抜かれます。日本でも一時期一緒に働いたことのあるソフト開発課の中国人課長に赴任中「どうして並ばないんだろう」と聞いたことがあります。彼の答えは、人が多すぎるからとかいうのかな、と思いきや、「自分の方が他人よりも上であり、自分が先にするのが当然と思っている人が多い」という答えでした。全員がそうというわけでなく、常識のある人も相当割合います。ただ、そういう、親が偉いとか、家が豊かとか、あるいは有名大学に行っている、会社で役職が上とか、日本では街中では何の価値も持たないことを、「身分の差」と思って自分が先に行くのが当然と思っている層がいる、というのは数がさほど多くないとはいえ事実でした。そして、一定割合そういう人がいると、その人を優先させるといつまでも自分の順番は回ってこないので、我先にならざるを得ない、というのが一面の真実ではあるようです。

500人もいると男性用も並ぶのですが、私が会社の大勢が稼働するフロアのトイレに行くとみんな順番を譲りました。それはこの会社のルールではない、役職は仕事の違いでありそれ以外では平等だ、とたびたび言い聞かせないといけないのです。それほど「身分格差」が染みついているのも中国の現実です。もっとも最近の若い人はそういう傾向はずいぶん薄れてきていますが。

 

■TOTOのロゴは何色

これは10年前の話なので、今は変わっているかもしれません。私とは私が日本にいるときから5年以上もコンビだったソフト開発部門の責任者が立派なマンションを買って内装が出来上がったというので、お土産を買って訪問しました。ピカピカの高級新築マンションなのですが、中国の場合、建物筐体だけ引き渡し、内装はまた自分でやるケースが多いので、あちこちで内装工事中でコンクリ粉っぽい状態でした。彼は、私をトイレに連れていき、TOTO製でロゴが青いんだ、と自慢します。TOTOは中国でも当時から広州近郊で生産を行っており、(広州近郊の仏山という町の付近は建物のタイル類や衛生陶器、瓦など陶器の一大生産地です。)中国でもTOTOは高級ブランドなのですが、中国製はロゴがエンジっぽい色らしいのです。(私のマンションも一般のショッピングセンターや公共施設も中国製が使われているのでしらなかったのですが)これが青色というのは日本からの輸入品ということでステータスだというのですが…ウオッシュレットというわけでもないし別にどこ製でも壊れなければいいのではないか?と思うのですが、そういうところに見えを張るのが彼らの流儀らしい。

 

■便座壊れる。

ある日、マンションのトイレに座ったら…プラスチック製の便座が変な音を立てて割れ、破片がお尻に刺さりました。(本当です)中国製だったのですが、そんなに古いようには見えませんでしたが質があまりよくなくて経年劣化とともに体重に耐え切れず割れてしまったのです。お尻の方はそれほどひどい状況ではなく、そのまま普通に会社に行き、会社の営繕などを担当してくれていた係の男性に相談しました。修理に何日もかかるしまたいつ来るかわからない言葉の通じない修理人を妻に待たせて苦労かけちゃうなあ、と思っていたのですが、彼は「明白(わかった)、昼食後一緒に行こう(会社からマンションまで3分ぐらいなので)」と言って見に来てくれ、そのあと、マンションの1階の大型スーパーの家庭用品売り場の係員にいうと、ちゃんと在庫がありました。たしか65元(当時のレートで1000円ぐらい)。お金は私が出して、彼が私のマンションに行って、さっといつもの七つ道具で取り付けてくれて解決です。

トイレに限らず、ものが良く壊れる分、交換パーツはあちこちで普通に売られています。ちなみにトイレに流す水のタンクの調整のために中に浮きボールがついていますが、これも3回ぐらい自分で交換したことがあります。もともとなんでも自分でやる方でしたが、中国で暮らすと「自分で解決する生活力」がつき、日本人がひ弱に感じるようになります。

 

■ニイハオトイレは本当にある

深センには大梅沙という一大ビーチリゾートがあります。日本で言うと近い雰囲気なのは、伊東でしょうか。砂浜の周りに湾に添って弧を描く幹線道路があり、その反対側には大きなホテルや民宿が立ち並び、パラグライダーをする人がたくさんいるようなところです。なお、海水浴、という習慣は中国ではなく(清潔ではない、と中国人はいう)、砂浜でゆっくりし、泳ぐのはプールというのが中国流です。その海浜公園のトイレは2008年の時点でドアが下半分が(下半分しかないのではなく、下半分が空いている)トイレでした。地方に行けば、ホテルでもドアの高さが何だか中途半端に中間付近だけあるようなトイレがありました。これは防犯のため、という説が有力ですが、ほかに人がいなければ同じことのような気はします。私は適応力が高い方なので、なんでも平気でしたが、妻にはトイレのことはとっても苦労を掛けたと思います。

 

習近平さんのトイレ革命、本当は彼が言いたいのはトイレではなく、「公共意識」革命なんだと思うのです。

なにせ人も日本の10倍多く、沿岸部は豊かなものの地方との格差はまだまだ知識も習慣も大きくて、50歳以上は教えても学ばない世代。そんな中でこれだけ並べてみると中国の「公共」「安全」の意識を高めるためには、こうした「国威発揚」の笠をかぶって広める必要があるんだろうというようにも思うのです。

 

先日、ちょっとトイレ革命について調べる機会がありまして、その際にいろいろ思い出したことをご紹介してみました。

関連記事

  1. ファーウェイ問題は他国ごとか
  2. 中国とんでも(今回はそれほどでもない) 中国の祝日と残業
  3. おっと危ない!それインチキじゃん。
  4. 生産の国際分業時代に技術を学ぶ
  5. 絶対に笑ってはいけない〇〇(中国編)
  6. 「経営の光景」200記事になりました
  7. ナショナリズムの炎に焼かれる
  8. 中国とんでも事件簿 趙某の事件
PAGE TOP