お客様のところに伺っていたら、ある部長が、「4月の経費の精算をまだ提出していない」と8月になってからも管理担当から苦情を言われていました。リアルに頭を掻いて謝っていましたが、その人が出張も多いし、仕事が終わったら小さい子供のいる家に迅速に帰ることを心掛けていることも知っています。しかし、若いしベンチャーで給料も大して良くない中、よく飛行機やら新幹線やらそれだけ立て替えていて大丈夫だな、と感心しました。
今回も私のおすすめの簡単な業務改善なのですが、こうした清算申請は、交通費だけでもクラウド型の経費精算アプリを導入するべきです。
※最近、この手のツール活用ネタが多いのは、アクセス数やいいねの数が多いためで意図的です。
■どのくらい便利になるのか?
この手のツールはたくさんあります。だいたい利用者一人あたり300円~500円ぐらいに設定されているところが多いので、30人の会社では1万円。ただし、これは工夫次第で、経費精算を申請する人に限ればよいので、たとえば「営業担当」+「総務担当」+「各部管理者」(それ以外の人は立替清算はせず、管理者が立替する)というルールにすれば、必要アカウント数は減らせます。こうした社内のルールの再編成と合わせてやれば、一般社員がやたらと立て替え額が増えて困っているのに言い出せない、というような状況も減らせます。
私は経費証憑を大手を中心に100社以上めくらせていただいたのですが、実は大手企業ではこうしたツールを全面導入しているケースというのは非常に少なく、ほとんどがEXCEL紙申請書に一個一個記載し、それにハンコを押し部長が承認してから管理部門に回す、という流れでした。一部の企業では専用のシステムを作っているというケースもありましたが、一旦作るとなかなか廃棄できないし、改良しようと思うとまたコストがかかって身動きできないでいるようです。この方法も先日のクラウド契約同様、まだそれほど普及していない方法である、ということは言えます。ただし、先日のクラウド契約は「契約は社外の相手のあることで自分の都合だけでは決められない」という事情がありましたが、この経費精算は自社で社長さんが号令すれば決められます。社員は誰も労力は増えないはずです。ただし、経費が減る、という要素は申請書の紙代ぐらいなので少なく、時間短縮効果にとどまります。
どのくらい所要時間が減らせるか、というと、まず、申請する側としては、営業など外に出ることが多い人の申請書作成時間はほぼ0にできます。(たぶん月に2時間ぐらいでしょうか)というのも、交通費や領収書のない申請については、営業で移動中の電車の中で作成できるからです。領収書がいるもののみ写真を添付する作業が発生しますが、これも(私はそうしているのですが)時間調整時の喫茶店で名刺整理(これも以前ご紹介しました)と合わせてやってしまえばよいのです。勤務時間中ですから、「要らんニュースサイトやゲームしているぐらいなら、そういう時間に処理して!そのほうが早く帰れるでしょ!」、と言いきっちゃってよいでしょう。
承認する上長側は一覧を見て、証憑を見て確認する、という作業は今までと同じです。それが紙ではなくPCかスマホになります。今でも多くのケースで金額が大きいもの以外は大してチェックしていないのが実情でしょうが、これも電車の中でやろうと思えばできます。(私はそうしていました。)ここも実質時間短縮が可能です。でも、せいぜい月に30分ぐらいでしょうか。
多くの会社で経費精算の申請項目の90%ぐらいは交通費(電車、バス、地方ではルールベースの自家用車)で、「領収書」の数は実はさほど多くないはずです。実はここで近地の交通費の不正請求の防止と記入の速度アップを行う仕組みがどのクラウドサービスにもあります。具体的には、まず定期券区間を全員に登録させておきます。そのうえで、発駅と着駅を申請時に登録すると、乗換案内と同様に経路と金額が表示されこの金額は定期区間を除外して自動計算されます。そして、この金額を手作業で修正することはできないか、修正すると承認者にその旨が表示されていますので、その箇所だけチェックすればよい、という仕組みになっています。ほかにも同じ日に同じ区間を2度使うと「重複データではないか」というアラートが表示されたり(本当に使うこともあるので、入力はできます)します。摘要欄は「訪問先」という欄に会社でルールをきめ、「会社名と面会者」「会社名と用件」を書けとすることで牽制できます。(これは今の紙運用と同じです。)
さらに各社ともカードリーダーをもちいて、今使っている交通系ICカードのデータを直近20件まで吸い上げすることができます。ただし、これはあまり便利ではありませんので、私は電車の中で自分で入力することをお勧めしています。便利でないわけはいくつかあります。まず、レコードは業務だけでなく、個人で買い物や行楽に行ったものもすいあがるので、結構な数を削除しなければなりません。また、JRと地下鉄、東京メトロと都営地下鉄(東京には地下鉄が2社ある)のように乗り継ぐ場合、手作業で乗換案内機能を利用して入力した場合は1レコードにできるのですが、カードリーダーから吸い上げた場合は2レコード以上になります。このレコードそれぞれに訪問先情報をあとから手作業で記入しなければならないので、スマホで都度自分で入力するよりも便利とは言えないのです。また20件よりも前は結局自分でやらなければならないので、東京のようにいろいろな会社の交通機関がある地域の営業の場合、3日に1回ぐらいは吸い上げ作業が必要になります。ちなみに20件までしか吸い上げできないのは交通系カードの仕様であり、経費清算システム側の制約ではありません。
最後に経費処理する経理部はこれまた大きなメリットがあります。データが吸いあがってきた時点ですでに、部門別個人別のデータになっていて、しかも仕訳が完了していますので、これをそのまま経理システムに投入すればよいのです。また、社員個人への振り込みについてもすでにデータ化された状態ですので大幅に作業が軽減可能です。ここは数時間単位で削減が可能です。総じていえば、交通費精算の多い営業の人数×2~3時間は節減できるので、一人500円程度の利用費用は十分元が取れる、と考えます。
主要なサービスは無償試用期間が設けられていますので、この間に上記のメリットが本当に実現しそうか試してみることをお勧めします。
■領収書がある費用~電子帳簿保存法への対応
交通費の場合は上のように、かなり劇的に効果があります。特に「定期区間の重複請求」は実はかなり多い不正ですので、これを仕組みで排除できるというのは大きなメリットです。ただし、領収書をどうするか?という問題はまだ残っています。たとえば、100円ショップの文具、商談の喫茶店、タクシーなどです。基本的にはこれらもこうした経費精算で領収書の写真を取り込み清算できるのですが、その場合、証憑は経理に提出させ保存しなくてよいのか?というと現行法ではそうなっておらず、提出が必要です。ここに大きな面倒ごとあるのですが、以下のご説明を読んで難しい、と思われたら、「交通費など領収書がないものだけ」でも営業マンがたくさんいる会社では効果があるのでまずそれだけを進めることをお勧めします。
領収書等証憑を紙で保存しないでもよい条件等を定めた法律は、「電子帳簿保存法」という法律です。以前は「フラットベッドスキャナーでないとだめ」とわざわざ書いてある法律だったのですが、2016年に改正されこうした「クラウドシステムでスマホでとった写真」でも一定の条件(主要なサービスは、システム上その条件を満たすよう構築されていて、「電子帳簿保存法対応」と銘打っています。)を満たせば証憑として認めることになりました。経理部の業務に関するその他もろもろの条件については別途税理士さんにご確認いただきたいので、今回は「領収書」対応に絞ってご説明します。
簡単にいうと、現状では①電子帳簿保存の社内のルールを定めた規定が必要です。これは以下のような提出と検査、修正の義務などを定めたものです。②領収書は、カメラで撮影後システムで申請したときに「申請番号」がシステム上発番されますので、それを証憑に記入して個人が署名して経理部に集める必要があります。そのうえで経理部では一定数を抽出して電子化が適正に行われているか(間違いがないか?)を検査しなければなりません。また、規程自体が正しく周知され運用されているかの検査も必要です。(内部統制) ③さらに、電子化は領収書発行から自分で実施する場合は、3日、別の人が規程で担当を定めて行う場合でも1か月と1週間までしか認められず、それ以降は保存が必要です。冒頭の部長さんのような人は対象外。
検査を行うのは、経理部でも入力者でもない第3者である必要があります。なお、従業員数20人以下(商業、サービス業では5人以下)の会社では、この検査業務を税理士に委託することができます。が、集めなくてはならないことに変わりはありません。
というわけで領収書業務をこれに全面移管するのは、結構面倒です。不正やミスを防ぐという観点から統制ルールを定めているものなので、致し方ない部分はありますし、慣れれば「こうすればいいんだ」という程度のもので、私は中小企業ならば2か月程度で定着させることができるのですが、税理士さんも面倒がって検査を引き受けないケースもあるようです。せっかくの売上増の機会なのに…。なお、これらの規程を整備して税務署に事前に届け出する必要もあります。
■補助金活用
最後にこの手のツールを導入する際には、「IT導入補助金」にて1年間の利用料、保守等料金の50%までの助成を受けることができます。3次公募の受付期間は9月に始まった際にもお知らせしましたが、11月19日までとなっていますため、結構迫ってきています。この補助金は自分で申請するのではなく、「売り手」が申請するものです。これがあるから拙速に決める必要もない(もともと中小企業では月額1万円前後の話ですので)ので、キチンと考えて決めていただいてよいと思うのですが、決めているのになかなか進んでいない会社さんはもう急がないといけないタイミングになっております。ご注意ください。