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オフィスレイアウト 国際比較文化論

少し気楽なテーマから一つ。オフィスレイアウトとオフィス家具について

皆さん、外国の会社のオフィスって行かれたことありますか?多くの国では、「個室」はマネージャーのステータスです。コンサルタント会社や投資銀行などでも個室が与えられ、ダイヤルインで個人に直通、と思ったらほとんどのケースはボイスメールになっている、というのが、「プレステージのステータス」でした。日本でも一部の外資系や「高級」コンサルタント会社はこれを採用していますね。

「個室でリラックスしながらずっと集中していい案をひねり出す」というのはとてもうらやましい環境です。

 

もちろん、こんなのは一握りのエリートだけで外国の大部屋はどうかというと・・・基本は壁に向かって机を並べている国が多いようです。列を並べる場合でも、背中を向けあうレイアウトが普通です。向かい会う場合は間に仕切りがあります。やってみるとそのほうが集中できます。で、30歳のころ、ソフト開発課の課長で10人ぐらいで一部屋使えるようになったとき、メンバーの半分が中国人技術者だったこともあり、これを日本でやってみたんです。メンバーには好評でしたが、部長、役員には「アホっ(大阪の会社です。)」と言われましたが、社長が交代してソフト開発課自体が撤廃されるという事件が起きるまでしばらくそのままにさせてもらいました。その撤廃されたあとの役員には、向かい会うときの仕切り板すら否定され外すよう言われました。なんだか間の悪い感じで向かいの席の部下の女性と小さな声で「昔の人は言っても無駄」と言ったのはもう15年前です。

 

日本の、課長がエンド正面に座り、その前に2列で向かい合う形で机を並べる、という方式はある人がテレビで高度成長期に狭いオフィスに多くの机を並べるために発達した、と言っていましたがこれは違うと思います。戦前の商社の写真もこうなっていました。これは、儒教的家父長制度を家の食卓から会社に持ち込んだものであり、「序列」を示すものであり生産性やスペースの効率性の基準ではないと私は思っています。そう、この机の並びは、ドラマ「おしん」の世界を反映したものです。この伝統的家父長制度からすると女性は末席、あるいは隣室になってしまうわけですが、私が知る限り90年代に入っても一部の伝統的会社はそうだったんです。女性は「事務員さん」で列の端。その割には、課長は何も自分ではできず面倒を見ているのは端から駆け付ける「事務員さん」。そんな世界がつい30年前ぐらいまでは日本を代表するような会社でも普通にあったんです。それに猛然と反旗を翻した、日本を代表する家電メーカーの男女均等雇用法一期生の女性とあるMBAスクールで同じクラスになり、彼女がこのレイアウト自体が「非科学的」と言っていたのを思い出します。

 

時代は流れて2018年。若い社員がバリバリ力を発揮する連続増益を続ける上場企業で、40歳の若い役員が私の上司でした。でもこの若きエース、仕事はできる方なんですがこのエンドが上司、役職順席次の「伝統芸」にすごくこだわるんです。そして椅子の背もたれの高さや肘かけのあるなしでその序列を明確化したがるんです。彼が20代のころはそうした序列を目に見える形にすることが競争心を煽り、「俺もあの椅子に座りたい」と思わせる、という教育を先輩から受け彼はそれを勝ち残ってきたので、その仕組みを今になっても再生産しようとしているのです。

ところが、20年もたつと今の若い人、あるいは私ら中間管理職のほとんどは、「ひじ掛け?邪魔なだけ。別に要らない」「椅子の背もたれはメッシュのタイプのものが涼しいので使いたいけど、暑くて大きいのは嫌」という人ばかりになっています。エンドの席も特に機能はなく、机は同じサイズの方が汎用性が高い。組織変更がたびたび行われ昇進者がでて、あるいは組織が統合撤廃されるとそのたびに机が移動され、PCや引き出しの中身をもって時にはロッカーも運んで民族大移動。さらに会社がいろいろなビルに分かれていると建物をまたいで台車やいすの上に荷物を載せて、横断歩道では停車しながら「何だありゃ」という視線を向ける運転手にガンを飛ばしながら移動です。私なんか、その移動の際、部門のロッカーのカギをなくしてしまい、そのあとすごく困ったことがあります。そのレイアウト変更のたびに夕方から夜まで全員の時間が費やされる。これってものすごくムダ、というか21世紀に滑稽だと思いませんか?それだけではなく、LANの敷設変更やビジネスホンの設定変更を伴うと実費で何万円もの出費がかさむ、(しかも無線LANはセキュリティがガーと情報システム部が言って使えない)という実害がでるのです。

 

そんな上司に「フリーアドレス」を提案しました。フリーアドレスとは、自分の席を決めずにどこに座ってもよい、という方法です。ですので、引き出しもなくなります。固定した電話番号もなくなります。電話は高価なシステムを導入して解決する方法もありますが、今時みんな携帯電話を持っているので、その必要もありません。というわけで、経費節減を突き詰める上司に、「どうせ多くの人は営業に出ていないんだから、これを採用すればスペースを縮小でき按分負担経費を減らせます。」「引き出しもなくせ、机の上に資料の放置もできないので毎日必要なものを別のロッカーから出し入れするので、セキュリティリスクも低減できます。」と会議のあとメールで説明して、まずはその部門のうち、外交営業部門だけに採用されました。(そうです。元同僚の皆さん、私が犯人です。)

でも、せっかく導入してもフリーアドレスを導入してもなぜか皆いつも同じ席に座っていました。それは各グループ(係)毎の収益目標を負っていていて、他のグループと協力するという要素が非常にすくない組織のためでした。また、その組織のうち、外出が少ないグループや隣のグループはデスクトップPCで移動ができないこと、それから普段別の人と情報交換を促進するような施策を別に設けなかったためで、ちょっと中途半端な結果となりました。ただ、引き出しの中に大量の不要物が滞留し、机の上や施錠されない引き出しがセキュリティのリスク要因になる、ということは解消されました。椅子による序列示威もとりあえずは消滅しました。意味のない思い込みは一度シャッフルしてみると、「あれ、俺そんなこと言っていたっけ?」という状況にして解消することができるものです。

 

その後、お付き合いを始めたあるベンチャー企業もフリーアドレスでした。ここは若い社員に学生インターンが入り交じり、いつだれが来るかもわからないので、オフィス内が「サークル部室」状態です。雰囲気もそんな状態。私が行くと社長がその一角で次回の企画の準備のための専門書を読んでいて、打ち合わせは別のテーブルで実施していて、なんかこころがハレバレする、と言いますが、本当のオープンレイアウト、フリーレイアウトが実現していました。椅子の区別も特にありません。WiFiが飛んでいてみなノートPCでそれに接続し、共同作業はGsuiteを利用しながら実施するという今時のスタイルとオープンな雰囲気に昭和育ちのおじさんはついていくのが大変です。

「フリーアドレス」といっても雑誌に紹介されるような個別作業スペースとミーティング協働スペースが区別されているようなオフィスではなく、大きなテーブルの周りに人が座るだけなので、実はお金がないだけ、とも言います。ただ、彼らにはこのスタイルがむしろ「自分らしさ」を感じられ、旧来の「家長制」はなんだか違和感があるのだと思うのです。

 

最近はセキュリティも厳しいので、オフィスの中を見学させていただく機会はなかなか得られないのですが、それでも「オフィス自慢」の会社に伺い見せてもらうとうらやましい、とともにその会社の経営陣がどんな組織論を持っているのか?あるいはクリエイティビティはどのように発揮され、チーム作業とはどのような形で進められるのか?の考え方が色濃くあらわされていることを見ることが多くなりました。最近、組織論として従来のピラミッド型組織とは全く異なる「ホクラシー型の組織運営」ということが話題になっています。これは「階層がない」と紹介されることが多いのですが、実はそうではありません。会社には数多くのミッションがありますが、一つのミッションは複数の人がアサインされていることが通常です。従来型の組織はその複数のミッションを同じグループがアサインされており、それが「部署」となっていたわけですが、ホクラシー型の組織運営では、ミッションごとに社内の最適な人員をアサインするため、「部署」という概念がなく、ミッションごとに違うチームが集まって仕事をします。こうなるともうフリーレイアウトでなければならない、ということになります。

 

結局一人で仕事をするならば。自宅でもよいはずで(自宅だと怠ける、という現実は別として)、オフィスに集まる、というのは、「個人で仕事を集中してする時間」と「会話をしてそこからアイデアをリファイン、修正する時間」が細かく入り乱れるからこそ意味があるわけです。その「会話をする」相手が「多様性がある」ことがよりアイデアを洗練させ、ユーザーの立場を反映させたものにすることができる、というのが最近の主流の「ダイバーシティ論」なわけで、フリーアドレスは私が仕組んだような「コスト」「リスク」低減目的ではなく、「個」と「集合」、「クリエート」と「トランザクション」の設計でなければならなかったのです。それはレイアウトの話ではなく、「家長制」的組織文化を変える話だったんだなあ、と改めて思った次第です。

どうせ、半日潰してレイアウト変更するのなら、「家長制」を一度やめてみませんか?今年は明治維新150年ですよ。

 

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