この記事を書いているのは、金曜日の夕方、ちょうどラジオでその番組がかかっているところなのですが、5年ほど前に一度私の関わっていたあるお店がJ-WAVEのGOLDRUSH(アンジャッシュ渡部さんがナビゲーターの)に取り上げられたことがあります。女の子のためのメイドカフェという企画なんですが(なんでそんなことをしていたのかは聞かないでください)。
それから、お昼の情報番組や女性誌で別の企画「100円バスツアー」がちょこっと取り上げられたことがあります。その時には、申し込み開始1時間で1万件以上の申し込みが来て、100人の当選者を選ぶのが大変なことになりました。
どうやってそれが実現したか、というと私、文章を書くのが苦にならない方なので、契約書作成と決算の年次報告書だけでなく、プレスリリースまで作成する担当でして、これをたくさん送りまして、それに気づいて取り上げてくれたメディアが少しだけあったのです。なお、その副作用で今、私の名前を検索すると(エゴサーチというんですか?)、普通の人は仕事の業績や趣味の集まりが出るんでしょうが、私はプレスリリースの問い合わせ先欄に記載された自分の名前ばかりがでてきてちょっと誤解を招いて困っています。私は広報担当だっただけです。
そういうわけで今回は、中小企業のための「初めてのプレスリリース」についてご紹介します。これは特定の分野でメディアとの交流が定常的にあるような会社や専門の広報担当が常に発信できているような「立派な会社」は対象外です。「プレスリリース?そんなのうち、やれる人いないし余力ないよ」という会社、組織は続きを見てください。
【プレスリリースとは】
「プレスリリース」は新聞・雑誌・テレビ・ラジオ、最近ではネットメディアなどの報道機関に向けて、「こんなニュースがありますよ」と情報を提供するものです。これらメディアも限られた人員、予算、時間の中で報道内容を取材し文面化し報道しています。その中で政治や社会、経済の大きなニュースは敏腕記者が独自取材と分析をして作成するわけですが、それだけというわけにはいかない。その時の「ネタ元」を提供すると使ってくれるかもしれない、というのが本来の意味です。
こうしたメディアの一つに訪問したことがあるのですが、(メールでネタを募集しているネットメディアも増えていますが)プレスリリースの多くはまだまだFAXで行われます。毎日2~3回の締め切りに追われるメディアで「メールを見てください」はほぼ不可能です。いまだに紙が重要な地位を占めます。見ていると立派なFAX専用機(複合機では他の機能がつかう余裕がないほど途絶えることなく届く)にほぼ途切れることなく、FAXが流れてきています。そこではあまりに量が多いので、受信音や終了音がならない設定にしてありました。大きなメディアだと○○部一つでこんな状況です。
原稿整理や電話の合間に係の人がFAXのところに来て両手でがさっと持ち上げて、その場で何やら仕分けていき蛍光ペンででっかい字で何やら書いているものもあり、使えそうなのは何人かに配分(たぶん得意分野や担当があるのだと思うのですが)、2/3ぐらいはFAX機の脇の段ボール にフリーフォールしていました。つまりその時点でこれらはボツ。
そこから先は、さらに担当者が取捨選択し記事にしたり、しなかったりです。私のケースでいうと、過去ほとんどのケースはこの段階で電話等の取材、確認もなく掲載されていました。掲載されたかどうかはプレスリリースを送った先の紙面、ネット等を当日、翌日ぐらい自分でチェックしないとわかりません。冒頭の渡部建のゴールドラッシュは係(制作会社)の人から「○月○日に放送に行きたい」と連絡がありました。事前の打ち合わせはなく、当日放送の1時間半前に集合して動作、セリフの確認やリポーターの服装(ラジオですがTwitterで写真があげられるので、リポーターにメイド服を着てもらった。)合わせなどが行われました。
メディアの人は言葉遣いや文字数、分かりやすさに厳しい基準があり、鍛錬を積んでいますので自分で数百字の原稿はその場で書いてしまうようでした。これが私が知る「プレスリリースを受け取る側」の実情です。
メディアが「報道」するかどうかの基準は、その事項が「社会的に関心を呼べるかどうか」です。したがって、その商品が「暮らしや仕事をどう変えるのか」「どんな未来につながるのか?」が知りたいわけで、しかもそれが「新しい」(世の中で普通にあるものならば報道する意味はない)ものである必要があります。この「暮らしや仕事をどう変えるのか」を伝える、ということはプレスリリースだけでなく結局プロモーションの上でユーザーへどのように伝えたいか?ともほぼ一致することです。
逆に気を付けなくてはならないのは、メディアの報道は、原則中立であり、特定の企業や集団の宣伝であることは建前上許されません。したがって、プレスリリースの視点は、「当社の宣伝」ではダメなのです。メディア側が視聴者読者に伝える視点と同じく、「いままでにないこんなすごいのが世の中に出ましたよ」である必要があります。そういう視点で記述する、というのがもっとも大事なことです。
また、ほとんどのケースでは、電話での確認や追加取材などなく、適当に引用編集されて掲載されます。そうされてもいい内容で作成する必要があります。
もちろん、新聞や雑誌には「製品紹介欄」があり、これらは大手企業やあるいは過去にそのメディアの広告出稿をしたことがあるとそこに掲載してもらいやすくなるのですが、この欄は、逆にいえば「広告主様や候補企業様接待欄」であり、読者を期待している枠でもないわけです。(皆さんもそんなに真剣にみないでしょう。)
【本当はどうすればよいか?】
まず、「本来は」の話をすると、何か新商品やリニューアルなどの企画を練る段階で出来上がる前に、価格、商流と合わせて宣伝広告を計画するべき(これをマーケティングの4Pといいますが、実際にはこれをキチンとやれているケースはそんなにないのが実情)です。その際の宣伝広告の一部で、発売時にメディアに取り上げてもらうことを計画します。そのために「新規性」や「ニュース性」が見えやすい打ち出し方を工夫します。
そのうえで、先ほども言いましたようにほとんどのプレスリリースは1秒程度の検討ののち、ボツになります。その中でもメディアが取り上げてくれたり取材に来てくれたりということに対してその関係を大事にしメディアに常に自分たちの理念や目指すものを理解してもらい、時には食事をし(これが大事だという方も)ながらミーティングをして理解を深めてくれているメディアを作る、ということが広報のメディアリレーションの基本です。
なお、この流れの先、あるいは別口で番組のコーナーで取り上げてもらうための活動をする、あるいは番組(制作会社)に企画を持ち込みする(というのは丁寧な言い方で取り扱ってと頼む)、というようなやり方もあります。ここまでやれるようになると立派なものです。先日もZOZO(旧 スタートトゥデイ)が社名変更にあわせてテレビ東京系列「ガイアの夜明け」で取り上げられて話題になりました。これと前澤社長の月旅行の発表、それに話題になった10月1日の「拝啓 前澤社長」の新聞全面広告はすべて時間をかけて事前に練られた、この時期に集中して発表する一貫した流れだったはずで、それを企画し、面白い映像やネタがある、と番組に話を持ち込んだ敏腕広報チームが同社にはいたからできたことです。
なかなかそれも難しいので「お金をもらって番組で取り上げてもらうよう調整提案を代行します。」という業者もいます、がこれも玉石混交ですしそもそも、その人の腕だけでなくその会社の切り口の見せ方の巧拙も関わってくるので、成功率はまちまちです。きちんと背景や実情を説明して見せ方自体から提案してくれるようなところはある程度信用できるのですが、前金をとって「メディアと親密なので大丈夫」としか言わないようなケースは成功率は結構低いので気を付ける必要があります。
【プレスリリースはどうやる?】
そんな立派な会社の真似はしようと思っても普通の中小企業はできません。そういう会社のために弊社はあります。そういう会社がやれること、をこれからご説明します。
まず、連絡先ですが、「マスコミ電話帳」というものがあります。(私は使っていなかったのですが、「広報・マスコミハンドブック」というのもあります。)アフィリエイトサイトではないので、ご自分でAmazonで検索してください。これを見て、関係のありそうな、取り上げてもらいたいメディアに、ご自分で作ったプレスリリースをFAXするというのが基本です。大手新聞社から始まって、専門紙や専門雑誌までこれらには網羅されています。当然大手新聞社やテレビは取り上げられる確率は低いです(冒頭のように無数にFAXが届いています)ので、その内容に関連する専門性や地域性のあるメディアを活用する、ということはとても大事です。FAXしたあと、ご丁寧に電話する、という指導をされる方にもあったことがありますが、ほとんど意味ないしむしろ迷惑だと思っています。相手にはたくさん届いていていちいち確認できませんので。
その前に(当然)、プレスリリースを作成します。基本はA4 1枚です。なぜかは冒頭の大手メディアの担当者の行動を見ればお判りでしょう。1秒で判断されることをまず前提にするのです。書式は立派な会社の事例を見ればよいと思いますが、細かい内容よりも、「具体的だがキャッチーな見出し」「最終読者の目を引く絵柄」が大事です。末尾には、自社の担当者と連絡先を記載し、冒頭の見出しはやや大きめ(やたら大きくしても無駄です)に記載します。同じものをWEBサイトにも掲載するのが通常ですし、ネットメディアでの活用、メールでの活用も考慮するとカラーで作成したほうが良いのですが、主力はFAXでモノクロになりますので、写真やロゴはFAXで送ったら真っ黒にならないようにする必要があります。運が良ければ「カラーの高精細の画像を送ってください。」という電話がかかってきます。
ただし、地域メディアや専門メディアの場合は、先述のようなFAX洪水は多少は緩く、これに伴いこの「瞬間判断」の制約はすこしは緩いようなので、きちんと説明しても、読んでもらえる可能性は大手よりも高まります。ここに重点を置く、と決めてかかって少し内容を増やす方法もあります。
【代行業者 支援業者】
最近のインターネットのニュースサイトを見ていると、プレスリリースの記事をPR TIMESというサービスが配信しているのを見たことがあると思います。ここが最大手なのですが、こうした「送付先メディアを選んで、FAXダイヤルして」という作業を代行してくれる業者があります。最近ではこれらを使う方法が多くの場合用いられています。これらの代行業者はメディアを選ぶと数百のメディアに配信してくれますので自分でやるよりもはるかに効率的です。ただし、このような代行業者の存在がメディアでのプレスリリースが氾濫して埋没することを促進している面もあります。サービス料金については各サービスのwebサイトを確認してください。小さな会社にとっては意外に高いです。ただ、よほどの専門性の高いメディアでない限り、目指すところに数個自分でダイヤルしてFAXしても、そこには配信業者から同じようなFAXが大量に届いており、もはやここまでくると「確率論」に頼らないと埋没してしまう状況になっているので自分も数を打たざるを得なくなっている側面もあるのです。
そこを乗り越えるのは、もう丁寧にサンプルを送る、映像を送る、といったプラスアルファの対応を行う必要がでてきます。
代行業者はたくさんあります。無料で行うwebサイトもありますが、もちろん限界もあります。私は(もう4年以上前の話ですが)@PRESSというサービスを20回ほど利用していました。なぜ、ここを使っていたかというと、文章の書き方の添削やメディアの選び方の助言を初心者の私に担当者が手取り足取り教えてくれたからです。ただ、時には記載のニュアンスで意見が対立し自分の意見を押し通したこともありました。また、メディアで取り上げてもらうための工夫やこれは実施しなかったのですが番組コーナーへの企画持ち込みなど、今回ここに記載した内容の基礎になることを教えてくれたのがこのサービスの担当者だったのです。
今webサイトをみるとPR TIMESはじめ他の会社もこうした支援サービスを開始しているようです。お金を払ってこうしたところに指導を受ける、という方法もあります。
サービスのいいところだけでなく注意点も忖度なく書かせてもらいます。代行業者を使う際に気を付けることがあります。代行業者は掲載調査を(オプションの場合もありますが)してくれ、「こんなに掲載されました。効果があったでしょう。またうちを使ってね。」と宣伝してきます。ただ、そんなに有名な会社でもない普通のプレスリリースの場合、この掲載実績の大半は、彼らが発信したプレスリリースをそのまま転載する提携先のプレスリリース掲載サイト(言い方は違いますが)なのです。確かに掲載されているには違いないし、ドメインパワーのあるサイトに掲載されると検索に引っかかる率が高まる、という彼らの言い分にも理はありますが、社長さんが思っていた「メディアに取り上げてもらう」という意図とは違っているものが実績として報告されるのです。普通にやって取り上げてもらえる一般メディアはうまくいって10個、悪くて0個です。私はある人気アニメコンテンツに関連するプレスリリースで140個という実績がありますが、これは完全にそのコンテンツの力(そのコンテンツを引っ張ってきて企画を実現した営業の力)です。
また、FAXやメールを送る曜日や時間によって採用確率が異なる、という話は多くのプレスリリース支援業者がします。一般的には、「月、金は外す」「できるだけ午前で、夕方は外す」という意見の方が多いようです。これはできるだけ繁忙時間帯を避ける、という意味です。でも、その見解のせいか、火水木の午前のプレスリリースが多い傾向にあるそうです。それでは逆に埋没しますね。ただ、ある経済紙の地方面担当記者にこの話が本当か?と聞いたら、全然そんなことはない、自分は机に帰って夜しか見ないのでその時机にあるものを目を通す、とその人個人は言っていましたので、傾向程度に理解したほうがよさそうです。
【プレスリリースの活用】
せっかく作ったプレスリリースはwebにも掲載しましょう。この時、検索に引っかかるようPDFリンクではなく、webページとしてください。また、プリンターで印刷して社長や営業に持たせて、訪問先で一言話して置いて来ましょう。また、一度でだめでもある程度は継続することが必要です。また、そうしていると社長の名刺の中、あるいは社員の知り合いに地元紙で仕事をしている方や業界紙の関係者が見えてくるはずです。そうしたらその人に話をしてみましょう。
記念パーティがあればその方をお招きしたりして、冒頭の「立派な会社」もそういう地道な努力を無数に積み重ねてきたのが基本なのです。代行業者を使うのは便利ですが、小さな会社は年に何十万円もプレスリリースに使えるわけではないのが実情です。でも、最初の何回かでその分野の様子はわかるはずです。そのあとは作戦を自分で建てられるはずですし、そこはお手伝いできます。代行業者の利用はそのゴールに向けた最初の一歩、ほんの一部でしかありません。結局は社長と社員みんなが一個一個知らせる努力をし、アンテナを張る、というのが一番大事です。