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リモートワーク指令の遺したもの

安部総理大臣の「要請」から2週間がたちました。各種調査を総合すると「リモートワーク実施企業」は東京の大企業の事務職を中心に労働者数比2割未満にとどまったようです。弊社のお付き合い先でも1社は完全なリモートワークを実施しましたが、残りは通常営業でした。知人の中でもリモートワークを実施したという人は中央官庁と大企業のごく一部、それも一部の日程に留まっており、「やってました!」という人が意外に少ない(最初は面白さを追求しようとインタビューをリモートでしようとしたのですが、どうも手間の割に情報が集まらなそう)のが実情で、この記事を作成するためにSNSでいろいろな情報を拾って調べています。しかもこれらの「実施企業」の多くがオリンピックに向けて東京都との間で夏季のリモートワークの部分実施に向けて協力して準備していた大企業だったようです。そのような実態も踏まえつつ、この最大2割を少ないとみるか、大いなる変化とみるかは立場によるのかと思いますが、お客様や一般のSNSでの投稿などを見て、私は日本企業が大きく変わるきっかけになる事件になるだろうと捉えています。

手前味噌ですが、政府が動く9日前の2月17日(執筆したのはその前の週)にこんな記事を上げていました。

そして、いつまでもバラバラにしていられない、ということで通常の操業に各社が戻りつつある今、振り返ってみると、やはり、組織として、そして個人としてリモートワークで成果となるアウトプット(本来これは、「売上」「利益」といいたいところですが、短期でもあり。この場合それにつながるプロセスやドキュメントになってしまいます)を上げられるやり方と人とスキル、そうではないやり方と人がいる、ということが見えてきました。

①自宅は仕事できない!という訴え

この声は意外に多かったように見えます。家族の声や存在、テレビやその他の生活音、お子さんがいる(しかも休校休園)おうちは現実の問題として仕事どころではない、という状況もあったようです。「自室」「書斎」が小さくても欲しい、せめて机が欲しい、というのは日本のサラリーマンにとってはぜいたくな望みなのでしょう。(かく言う私も部屋も机もないままに週の半分は自宅勤務です。)上の記事でも述べたように、セキュリティを考えれば(電話の用事もそこそこあるので)、自宅が一番安全なのですが、オープンスペースの喫茶店を使うよりは、シェアオフィスの会員外のドロップインサービスを使うような方法も考えた方がよいのかもしれません。ただ、結構な金額(一日1500円前後のところが多い)がかかりますので、常用というわけにはいかなそうです。春秋ならば公園としゃれることもできるのですが、まだそれには寒かったですし。

私個人の助言としては、「15分以上静かに集中できることをあきらめ」て「15分単位で作業をする」を何度も積み重ねるということを心がけています。その15分だけは集中することを努力するということです。

②アウトプットが出てこない

そんなつまらない話は別として、やはり目にしたのは「指示しても出てこないまま、勝手に終業して完成しないので、結局上司が夜自分でやらざるを得ない」という話。出社していても同じと言えば同じなのですが、プレッシャーがかからないと余計に悪化するということを訴えているようです。これ、実際ありますね。相手が時間から時間までやればいいというような姿勢(だから本人はちゃんと一生懸命やったと思っている)の人で、しかも能力がさほど高くないケースで、プレッシャーが下がった状態になると、「やりやすいもの」「やりたいもの」から自分の判断で作業をして、時間が来たら業務を終わるので、難易度が高く、本人が苦手としているようなものが一向に着手されないのです。Slackで優先するよう指示しても、そもそもやれる能力が不足しているので、返事があったりなかったり…

マネージャーが普段「対面でいら立ちを見せつつ進捗を夕方前に確認する」代わりのものは、たとえば、「あなたは今日はこれをやりなさい」というリストと、できたかできていないかの〇×表を毎日始業終業時に交換するようなことでしょう。リモートワークに始まった話ではないのですが、組織内に弱点はどの組織にもあるわけで、マネージャーは文字ベースに起こさなくてはならない分、面倒というわけです。

③アウトプットがつながらない

リモートワークをしてよかった、という意見もたくさん目にしました。その多くは、「文字ベース(図や表のこともあるわけですが)で作業を明確に定義し、成果をアウトプットすることが求められたことにより、業務フローや成果が明らかになったし、できていない人、現状の問題点が明確になった。」というものでした。あえて言いますが、仕事って、会社って元からそういうもののはずです。手順書があり、成果物があり、それが現在、および将来の関係者に共有され、改訂されていくプロセスの中に集団で一つの事業を行う意味が存在しています。日本的な「あうんの呼吸」が意思疎通の低コスト化に意味があるという意見がありますが、外国人を含め価値観やバックグラウンドが多様化し、人口減が続く中でそれでは立ち行かないことが明らかになっています。その解がここにあったわけです。

一方で、これも今に始まったことではないのですが、完成物を複数人で分担した場合に、その間でずれがあって論理がつながらないで、結局マネージャーが大幅に手を入れる、というようなケースが多くあったようです。これはマネージャーにとって決して簡単ではない問題です。解決するには、分担する前に、マネージャーが設計とスケルトン的なものを事前に用意してそれに基づいて作業指示するような準備が必要になります。その手間をかけて準備するだけの時間もないし、深い分析もないままに着手してしまって、発生した問題を後追いしているのが起きている現象です。

このことは、今年から本格化する学校での「プログラム教育」にもつながる部分があります。全体をパーツに上手に分け、パーツを定義し、それを分担しながら構築・品質改善するというシステム思考がまだまだ管理者の中でも十分ではないのです。そして、このような「段取り」こそが管理者の仕事であり、これにより部門の成果が大きく左右される、という認識も弱く、「自分も含めて分担していきなり作業にかかる」ことが正しい(自分はプレイイングマネージャーだ、と経営にも言われているし自分もそう思っている)と思っているのです。こうした「勝ち筋を事前に用意する」ことは決して簡単なことでもないし、時間もかかることです。それを知る限り、「プレイイングマネージャー」という言葉はとても安易な考えであり、まともにそれをやろうと思うと、人の2倍労働時間が必要になるのではないか?と私は考えています。

実名を用いるFacebookでは、以上のような課題と対策を多くの方が述べていて、私も大変参考になりました。やってみて、たりないことが明確にして、それを速やかに補う対策すればよいのであって、①~③のような内容は組織を改善する良いきっかけになることだと思います。しかし、匿名式のSNS(Twitter)では、内情の暴露がいろいろあったようでして…

④ダメな人はやっぱりいたみたい

  • PCアプリや作業の操作を「電話で」聞いてくるおじさんがいた。(普段はどうしていたんでしょう?)
  • 上司が珍しくメールを送ってきたが、散文調でポエム、そして意味不明(口で適当しゃべっていて仕事した気になっていたが、論理的、具体的に言語化することができない)
  • 結局会社に行った。(それ、会社として、いいのか?)
  • 結局飲みに行った。(終業後は好きにすればよいが、こんなときぐらい違う過ごし方にチャレンジすれば?

と主としてダメおじさんが世間の嘲笑に晒されておりました。いままで数十年染み付いた生き方を変えるのはそんなに簡単なことではありませんが、当人も「時代に置いて行かれている感」を強く持たれたことでしょう。そして、それは周囲にも経営者にも明らかになってしまったわけで、定年・年金支給までの生き残りに黄色信号が灯ったということです。

一方で私のお客様でもやられていたのですが、この機会にリモートランチ、リモート飲み会なるものを開催されていた事例を多く見ました。ZOOM上で、中にはお子さんを紹介したりと、この機会ならではの交流を図っていたようです。いざ、ピンチに急遽リモート勤務をやってみるとなると新しい知恵と楽しみがドンドン湧いてくるのは、若い人が時代をけん引していくんだなあ、とほほえましく見ていました。

そして、多く見られたのは、「なんだ、全然リモートでもできるじゃない」「通勤時間ってなんて無駄だったんだろう」「朝礼っているの?」という意見。私も、独立して最初に思ったのは、「あの暑さと体力消耗の22年×250日/年×2回/日×1.5時間/回=16500時間は一体何だったんだ」ということでした。(その分、毎日7時~8時半は私の1回目の集中タイムです)

ちなみに、この声の多くは、一般のワーカーの意見であり、それをつなぎ合わせて成果として、最終的には利益の値にimpactさせなくてはならないマネージャーの意見はほとんど反映されていません。マネージャーには、「良い段取り(上でも述べました)」ということのほかに、問題の予兆や初期段階での素早く力強い対処、ということも重要です。その「察知」は部下から「言語」として十分に上がってくればよいのですが、実際には上司も部下もそこまでの言語化能力を有しているわけではなく、顔色や挙動を参考に言動を決めている要素は特に「良い上司」であればあるほど多いはずです。会社をシステムとしてとらえれば、確かに良きシステムを作ればリモートワークでも十分な機能を発揮することが期待できますし、そのような楽観が今はSNS上には溢れています。しかし、会社は同時に「人というあいまいで不正確なものの考えの集合体」でもあるわけです。その側面をどう補うか?は今回はあまり見えてこない問題の側面であったように思います。

ともあれ、アウトプット主義、そして集合勤務が必須ではないという事実、この二つのパンドラの箱を開けてしまった2週間は、この先の日本を大きく変えるきっかけとなったように思います。しかし、それはマネジメントにとっては技量の差を問われる時代にますますなったということだと思います。

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