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「売ってもらえる」代販戦略②

前回から、部長級にはびこる「代販の誤った常識」を撃つ企画を連載しています。前回はこちら

その最後に、このように書いたのですが、この続きから始めましょう

そして、この「方法論」は代販の交渉上も決定的に重要です。「私たちは、この方法論でアプローチしたら、新規営業顧客でも〇%の確率で受注できています。貴社の様にすでに多数の顧客とリレーションがあれば、十分な売上見込みがたてられるはずです。」と根拠をもって主張できるからです。

扱えば、ちゃんと儲かることを約束する

代販の協力関係を成立させるには、もちろん、前回述べたような、営業戦略上整合するものとして、相手の社内に位置付けてもらう、という上層部での合意は必要なものの、現実的には、「協力先がちゃんと儲かること」と「相手の営業部内での営業マンの人事評価ポイントの一部にすること」が大きなポイントです。

このうち、後者は、「営業戦略上、整合しているもの」と認めてもらえば、粗利評価に加えてもらうことのできる会社は比較的多くあります。いわゆる「メーカー」で、「自社のプロダクツに磨きをかける、ということに集中する方針の会社では、なかなか振り向いてもらえないこともあります。しかし、企業規模が一定以上であって歴史のある会社になると、それも建前であって現実には営業の現場は、「売れるもの」「新しいもの」がない自社ラインアップに不満を持っている会社はたくさんあります。パートナー候補を選ぶときには、こうした会社の性質を見極めることも大事です。

一般には、ベンチャーよりも、伸びが停滞している中堅企業、ベンチャーとの協業志向を持つ大手の方が小規模なベンチャー企業の組む相手として適していることが多いです。ベンチャーは似た精神文化を持つベンチャーと組みたがりますが、これは概して「弱い者連合」となり失敗します。自社に商品はあるが、販路がないならば、販路はあるが、商品はない会社と組むのが勝ち筋なのです。

そういう販路はあるが商品がない会社との提携の際には、上層部で相手先での商品の戦略上の位置づけを利益以上に、顧客内シェアの拡大やバリューチェーンの拡大にあるという提携の目的を合意しておいて、実際実施する段になって、現場の課長とお会いした際にも、この目的の話を念押ししたうえで、それを保証するものとして営業の評価の一部に入っていることを確認することが重要なポイントです。

さて、前者の「儲かること」ですが、ここにも、若い経営リーダーが代販を考えるうえで大きな落とし穴があります。彼らは大抵、経営トップから厳しい目標を与えられ、とにかく自社の利益を伸ばすことに集中しています。そのため、できる限り安く代販先を働かせようとします。当然のことです。

しかし、そこに「経営の視点」を持ち込むと、見えてくる光景は少し異なります。経営では、その会社の提供するサービスに関わるセクターのうち、1社でも、損害を被るセクターがあると、その仕組みはとん挫してしまいます。循環がそこで途絶えるからです。

したがって、代販で事業を成長させようと思うならば、「もうからない代販協力会社を作ってはならない」のです。そのことは、単に事業計画をとん挫させるだけでなく、「あの商品、全然売れないし、顧客に響かない」という話が伝わることになり、会社の商品の評判をも落とします。

では、どうすれば、代販協力会社を儲かるようにすることができるのでしょうか?一つは1回目にご紹介したように、「自社の売れる方法論自体を移植する」ということです。しかし、もっと簡単で分かりやすいのは、①利益の分配率を変えて相手により多くを分配する。②販売価格をアップすることで、同じ分配率でも分配額を多くする。の2点です。

代販を利用して拡販しようとするならば、商品価格は直接競合する商品がない限りは高い方が売りやすいのです。それは、代販協力の営業担当が粗利評価のために、一生懸命持ち歩いてくれるからです。その状況を作ることが合意された提携の契約書になっていなければ、売れないのです。それが一回目の冒頭に、「契約書チェックして」と言われた時の私のボヤキの正体です。

コミッション設定の基準は何か?

コミッションの設定をどこに引くか?というのは明らかな解があるにもかかわらず、多くの会社で、なるべく自社に有利なよう、10%、15%と根拠のない数字が一人歩きしています。これでは全く本質的改善のない分配型交渉(河の上の丸木橋の上でお互い相手が下がれと言いあう交渉)になってしまいます。この対立構造を両社の間に持ち込んだ時点でこの事業提携はもはや失敗したも同然です。

コミッション設定の基準は、「相手のエース級社員が自社商品に十分な対応をしてくれても、金銭的にメリットのある(少なくとも少しは利益がでる)金額を提供し、相手も納得できる結果になる」、ということです。そして、その時に、「自社ならば、この方法で、このくらいのコストで1件が取れている」という基準が議論の出発点になり、「同様の方法を採用すれば、パスのある御社では十分な売上ができ、ちゃんと利益も残りますよね」というところがお互いの合意点になるのです。

そして、その合意に続けて、「だから、何人か専従に近いようなちゃんとやってくれるチームを投入していただけますよね」「教育はこちらで十分な対応をしますので」という合意を見ることです。

その時に最初は対象の自社の商品が市場の認知もないし、ブランド力もないので売りづらいならば、最初は支払う料率は高くても良いではありませんか。売りやすさが改善し獲得コストが低減すれば、料率を下げていけばよいのです。料率はずっと固定で下げられない、というのもよく見られる思い込みですが、商品のライフサイクルに合わせて、料率も価格も変わっていくべきものです。逆に、変えられるような合意内容にしておくからこそ、最初に大きな金銭面での譲歩ができるのに、もったいないことです。

ただし、これに似て非なるもので、「最初は習熟が必要」は交渉材料にさせてはいけません。「1週間合宿で研修すれば、十分売れる知識と能力が身に付く研修カリキュラムがありますから、その心配は不要です。」と言えることが当社として必要なことで、その意見には、「当社の研修と試験を受ければ問題ありません」と反論するのが正しい状況だからです。

代販という仕組みを採用する以上、自社と同様に協力会社でも利益がでて会社の発展につながるはずの仕組みでスタートさせなければなりません。私は、それは、大人のビジネスマナーだと思っています。そして、それを定期的にチェックし、教育、料率、マーケティング、商品改良などを共同で進めていくことで双方の金銭的利益が増大し、顧客の満足度が向上する、ということが目指すべきことです。

なぜ、1年もたたずに販売協力に関する業務提携の多くが形骸化するのか?の本質的理由は、双方のリーダーに双方の利益拡大を共同の目的とし、これを追求する具体的オペレーション技術が欠けていることが多くの場合、原因です。このような、「統合型交渉」の調整技術を持つことは関わるセクターが直販の2つ(自社と顧客)から、代販では3になる時に、とても重要になってきます。

協力会社の数を追求するべきか?

いっぱい協力会社を作ると、どれか当たるだろう?と思ってとにかく紹介店、取次店をたくさん作る、という指示をする経営者がいますが、これも大きな誤解でして、大抵失敗します。やる気とやる実力のどちらかがない会社を選んでも、無駄です。

代販を依頼して成果が上げられる相手の会社とはどのような会社でしょうか?それは通常は、営業専従がいないようなプロダクトアウトのベンチャー企業ではありません。多くの会社を顧客に既に有しており、リレーションが確立しているような、少なくともその地域、業種においてはNo1の会社であり、そこはそれなりに規模が大きく、古い会社であることが多いものです。ここを口説き落とすのは、経営リーダーの仕事で時間も準備も必要な作業です。

そのうえ、相手に利益が出るようにしようと思うと、その地域なり業種なりにおいては、こちらの希望するスピード感でアプローチが進む前提においては、その会社1社のみを協力会社とすることにより、その協力会社が対象企業を独占的に獲得できるため、相手の継続的利益には効果的です。そういう相手を選ぶべきなのです。現実、教育を行い、業界を研究し対策を協議する、ということ(これを代販をさせる側は、「推進」という言い方をします)は、とても手間がかかります。それをむやみ沢山作っても、到底サポートしきれないはずなのです。その意味では、特定の領域での一定期間の独占権を与えるという方法は、自社にとってもメリットがある方法です。

実際、多くの協力会社を抱える大手販売会社をみても、販売数の7割を上位5社の代理店が占め、まともに稼働しているのは、加えて30、残り300はほぼ不稼働でコストばかりかかる、という構造になっています。その「上位5社」と最初から組めればそれが一番よいのです。

協力会社をたくさん開拓するよりも、開拓したたくさん顧客を持つ協力会社の支援を行うことに重点を置いた方が正解です。

直販担当と代販担当は兼任できるか?

このようにみていくと、この直販と代販は担当者の資質に求められる性質が異なることがお分かりいただけるでしょう。直販が「ハンター」であるならば、代販は、「営業担当者の教育育成」担当としての色がかなり濃いですし、料率やその他の制度をもちいて強力会社を誘導するようなマネジメントスキルが要求されます。人的資源の限られた会社で分けることが絶対とは言い切れませんが、この二つに求められていることが相違することを知らない人が営業部長にいると、協力会社含めて不幸になります。また、「君には営業は無理だろう」という気弱型の営業担当でも、代販の推進担当だと上手にやることがあります。ただし、料率やプロモーションの交渉は直販と変わらない面がありますので、そこは気弱君は担当から外した方が正解です。

次回、最終回(のつもりです)は、代販先をどのように見つけるのか?そして、それでも代販がうまくいかない、そもそも方法論を形にできない(実はそういう会社は多い)時には、どのような対策方法が存在しうるかを補足編としてまとめてみたいと思います。

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