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きぼうパートナーのお仕事紹介③漁場ナビ

先週、宮崎県延岡市に出張し、近くの漁師さんにお話を聞いてきました。どんな頑固おやじが来てしまうかと思ったら…腕はさすがに鍛えられて太いし日に焼けているが、漁業の情報化に熱心な、私よりも若い、生態系に詳しい聡明な方でした。
昨日は銀座で近代的な漁業経営をされている経営者の方にも同様にお話を聞くことができました。この方は、毎日の勤務状況やかかった経費、漁の状況などを細かく記録されているだけでなく、加工との一体経営でのトータルでの付加価値追及を漁師にも意識付けする雇用・人事制度を運用しており、固定費コントロールも徹底しており、大変感心しました。

漁業=高齢化の進む技術革新の遅れた分野 という見方は非常に一面的な見方であり、こうしたイノベーターが産業としての漁業を牽引しているのもまた事実です。

私が伺ったのは、一年あまりお手伝いさせていただいている株式会社オーシャンアイズの「漁場ナビ」の実地でのβテストのご協力のお願いでした。

https://ocean-eyes.jp/

漁業の情報化を阻むもの

漁業は海で行うため、陸と異なり、中の様子が見えません。しかも非常に広く、遠くの漁場までは容易に行くこともできませんし、通信網も陸地の様に安価で大容量を使うこともできません。さらに、魚といっても魚種毎に生態は異なり、しかも長距離を移動します。水温、潮流が、漁場を決める重要な要素であることはわかっていますが、決して単純ではなく、魚種毎のメカニズムが解明されているわけではありません。しかも、日本近海は世界でもまれにみる様々な魚種に恵まれた海域なのです。船の上は振動や濡れにさらされ過酷な運用環境です。こうした環境が、陸地で行われる農業に比べて漁業でのIT活用を遅らせてきました。

お会いした漁師さんは、そうした限られた気象や水温の情報と漁船に積んだセンサー類から得られる情報を駆使して、過去の経験を元に水温にして0.2度、水平距離にして300メートルというような精度で漁場を推定し漁を行っていました。私も、この仕事に関わるまではもう少し漁場決定は大雑把なのかと思っていたのですが、ビジネスショーやこうしたインタビューの機会でお話を聞くと、この感覚の鋭敏さには本当に感心させられます。

しかし、もっと提供される水温や潮流のデータが新しかったら、あるいは精度が高かったりデータが豊富だったら、もう少し漁師の判断は精度があげられるはずです。また、漁師さんとの対話の中では、漁師さん自身がこうした精度の高いデータを参照することができ、自身の過去の好漁期や不漁期の状況、周囲の漁の状況と対比することにより、自分の中の漁場決定のアルゴリズムをアップデートすることができるという自信と渇望を見て取ることが出来ました。AIブーム全盛とはいえ、プロの向上心、学習能力というのはやはりすごいものです。


漁場ナビが目指すもの

株式会社オーシャンアイズは、会社としては今年4月に設立されたベンチャー企業ですが、実は研究開発自体は、すでに10年の歴史があります。この会社は京都大学学術情報メディアセンターで計算機科学、特に画像解析を研究する飯山准教授のグループの研究、そして国立研究開発機構海洋研究開発機構で海洋シミュレーションの研究開発を行ってきた同社代表の田中らのグループが、水産業を対象として開発してきた成果を社会に実装することを目指すものです。

彼らのプロダクツは2つのフェーズに分かれています。一つ目は漁業関係者が利用可能なよりリッチな情報を提供していく、というサービスのフェーズです。具体的には

  • 1時間前(現在3時間前まで実装済み)の最新の表面海水温情報を西太平洋全域で2キロメッシュの精度で、雲の影響除去した形で確認できる。(サービス名「漁場ナビ」)
  • 2週間先までの任意の深さの水温、海流、塩分濃度の予測情報を日本近海で2キロメッシュの精度で提供できる。(サービス名「SEAoME」)

の2つのサービスを提供可能です。また、これらの船舶への持ち込み可能なタブレットへの統合作業を進めています。

二つ目のフェーズは、これらのデータ解析技術と、過去の漁獲のデータを利用して「漁場そのものを予測する」サービスです。そんなことができるのか?と思われるかもしれませんが、過去に遠洋域での一部の魚種ではベテラン漁師に負けない予測精度を実証しています。ただし、このサービスの実現には、技術以外に大きな壁があります。それは、過去の漁獲に関して、比較的精度の良い漁場の位置の情報と漁獲の魚種と量を一定量提供していただく、ということです。

現状では、実際に漁業に携わる方のお考えを尊重し、その方からお預かりしたデータは、その方専用に推定しその方だけにお返しするカスタマイズサービスとしてご提供していこうと考えています。その中で成果をあげていくことで、この技術の有用性を実証していきたいと考えています。

「役に立つAI」

ここまでこれらの言葉を使わずに本文を書いてきましたが、実はオーシャンアイズは、雲の影響の除去、そして漁場の予測の部分で最新の画像を用いた深層学習の技術を用いています。

たとえば、漁場の予測の部分では、従来も、過去の水温や海流との類似度を用いて漁場を推定する仕組みは実は開発されてきましたがこれが良好なスコアを残しているかというとそうでもありません。実際、漁師さんもそんな思考はしていない。漁師さんは、水温や海流の分布を「面」としてとらえて複雑な判断を行っているわけです。それに近いことをAIが行い、候補を漁師さんに提案する、というのがこの技術の概要です。

2016年頃から世の中は大変なAIブームでした。ベンチャー界隈でも「AI技術」を売り物にする会社が沢山生まれ、多額の資金を集めました。しかし、最近でははっきり明暗が分かれてきているように見えます。私はそれは当然のことだと思っています。具体的に困っている業務があって、それがそのサービスを使えば便利になる、というものでなければ、研究としては最先端であっても、ビジネスとしては無価値であるからです。

そのことをわかって、漁師さんと同じ言葉と目線で理解を進めているスタッフがいるからこそ、このサービスは有望だと私は考えています。先日も漁師さんとお話ししていたら、こんなお話がありました。

「距離は海里、海流はノット単位で表記して。でも風速はメートル単位」

なるほど…と思いました。操業時にデータを見て瞬時に判断する肌感覚に親和するものでなくてはならない、ということなのです。

オーシャンアイズの事業分野は、ほかにも船舶搭載のセンサー類と計算機の連動という点では、IoTというキーワードに該当し、衛星情報の活用という点では、「宇宙ビジネス」、そしてビジネスとしては、「SaaSモデル」という今、はやりの投資キーワードに関連する最先端の要素が沢山あります。しかし、一番大事なのは、漁師さんたちが、海流や水温の変化で今までの判断パターンを使えなくなっている、あるいは漁師の高齢化にともない技術の若手への継承に困難が生じている、という今そこにある問題に対して、そこをサポートするサービスを提供できる、ということです。

もちろん、すべての海域、すべての魚種で精度よく予測できるか?というと、
沿岸に近い部分の一部の漁業では、まだまだ改良しながらの部分もあるのは事実です。しかし、近海~遠洋域ではすでに技術的には十分実用域にあります。関係する自治体行政の方、水産業に携わる方にぜひご紹介の機会をいただければと思っております。お問い合わせはこちらからお願いします。

きぼうパートナーは何をしているの?

弊社では会社発足前から市場調査、ビジネスモデル検討、ご説明資料の作成、事業計画の立案などをお手伝いしてきました。海外の市場調査では、Google翻訳の助けを借りて、各国の水産行政の統計資料(ノルウエー語、スペイン語!)を拾い読みしたということが本当に思い出深いです。

ただ、その時建てた仮説は、一部はあっていたが、大部分はずれていました。そんなものだと言っていたし、そんなものだと思います。漁師さんで技術にも詳しいし、ビジネスにも詳しい人であればもう少し精度よく仮説を立てられたかもしれませんが、多くの新規ビジネスというのはそうではないところから生まれるものであり、素早く行動と計画を修正していくしかないのです。

事業計画書もそれを前提に、パラメーターがやたらと多い(200ぐらい)のですが、汎用性があるものを作成していました。一般のベンチャーだと私もここまでやらないのですが、相手が数理モデルの専門家たちであるだけに分かりやすさを捨てることができたのです。

漁場は当たってくれないと困るのですが、そこは日本有数の技術者陣にお任せして、私は、当たらないビジネスモデルを確実に、できるだけ急速にゴールに近づけることを手伝っていきたいと思っています。

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