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一つ一つの動作の正確さ

中小企業、特に若い企業・それも大企業の経験が経営者にない企業の経営をみると、チャレンジ精神は旺盛で内部では大変な情熱で夜遅くまで取り組んでいるのに、外部から見ると全然前進していない、むしろ退職が出て後退している、というような事例を目にします。

大企業の方がプロダクツの改良や販促施策をスケジュール通り着実に進めることができるのは間違いありません。それは一つは持っているリソースが違うから、という理由はあるでしょう。しかし、それだけではありません。むしろ、違う理由の方が原因としては大きいのではないか?と思います。それは、「一人一人の一つ一つの割り当てられたジョブの時間と品質に関する正確さが少しづつ大企業に劣る」ということです。

0.9^10=0.34

日本では製造業には伝統的に工程を分解し、その工程ごとの所要時間、歩留まりや手戻りを数値化し、これにより品質と製造コストを目標値に近づけていこうというアプローチが取られます。この時、生産量という観点では実は全箇所対処しなくてもボトルネックだけに対処することが効率的なのですが(制約条件理論)、歩留まり率という点では、各プロセスの歩留まりの掛け算で工程全体の歩留まりは決まります。したがって、10工程のそれぞれで1わりづつ不良がでると、上の式のように良品は投入量の34%しか得られません。これでは経営など成り立つはずがありません。各工程の歩留まりは製造業では極めて高く、ものによりますが、0.1%というような数字でも高いと言われるような産業がほとんどです。

システム開発はもちろん、経営のほかのプロセス、営業、企画、総務や経理などの管理系業務においても実はこれは同じです。多くの業務では部門から部門へ、担当から担当へ情報と作業が引き継がれていき意味付けや加工を行い最終的には社内外で用いる成果物となり、あるいは売上対価の入金と費用の支払という形で収束します。

そして、経営工学、あるいは広い意味での社会学はこうした現象を製造業にアプローチするときと同様にプロセスを分解し、その個々のパーツの品質とコストの改善、リスクの低減を行うことにより全体を改善するというアプローチをとります。海外の教育を受けたエリートはこの基本手法がきちんと身についていて、社内の管理層で共通言語化しています。ところが、日本においては、「勘と経験」によるマネジメントが製造以外のプロセスでは今に至るまでまかり通ってきています。この科学的な目の有無がホワイトカラー生産性の差異の大きな要因ではないか、と中国での大卒エリートの取り組みを見ていて私は気付きました。

余談ですが、最近、子供のうちからプログラミング教育を使用、という動きがありますが、私は優れたプログラマーを要請するのには大して役に立たないと思います。優れたプログラマーが持つ洞察力はプログラムの経験値というよりも現象に対する数学的な理解力が関係しています。しかし、ビジネスプロセスへの分解的アプローチという点では大変役に立ちます。そして、その点では日本の現状を大きく改善するのではないか、と考えています。

さて、その「勘と経験によるマネジメント」でも、同じプロセスが長期継続し、同じメンバーが習熟し、しかもメンバーが一定以上の理解力で揃っている、という同質性の高い集団で変化が緩やかであれば、品質を一定以上に保つことが可能です。口述伝承と個人の創意工夫による成熟がメンバーの交代、製品のライフサイクルに追いつけるからです。大企業は、一定の製品ラインアップを持ちその改良を業務の大部分とし、有名大学卒を中心とした地頭のいい層をセレクションすることができますので、これでもなんとかやってこれました。しかし、一旦変化が激しくなると、とたんに追いつかない部分が出てきます。それが今の状況です。経営者は新聞に載るような「訓示」で「変化への積極的対応を」と言いますが、私に言わせれば、対応していないのは経営者自身です。マネジメントスタイル自体が職人工房スタイルのところに、欧米型の分業流れ作業ジョブシステムを乗せようとしても、「OSのversionが対応していません。」エラーがでているのが現状の大企業だと私は考えます。

そして、それが中小企業になると、しかも若い経営者になるとさらに状況は悲惨を極めます。

チャレンジングな中小企業の漕ぐ自転車が前に進まないわけ

若い中小企業、わかりやすくここでは「ベンチャー」ということにしましょう。ベンチャー企業に集まる社員は、「新しいことに挑む」「自分の力で地平線を切り開く」というようなマインドセットをもち、ハードワークを厭わない勇者タイプが多いように思います。しかし、勇者がかならずしも優秀というわけではなく、見ているとこの勇者たちの一個一個の動作の精度がそんなに良くありません。

なぜかというと、「初めてやること」は概して精度が悪く、納期もコストも超過しがちである、自分たちはそこまで賢くない、という事実を前提とした謙虚さを持ち、それを経営システムに反映するということをしていないからです。

そして、全社全部門で新しいことに挑もうとします。自分たちは「勇者だ」という誤ったヒロイズムがそうさせるのです。しかし、その新しく導入しようとするたくさんのプロセスの一つ一つが精度が低く、それがプロセスを合わせると先ほどの式のように、期待したアウトプットの3割しか得られない、という状況を生みます。それでも、こういう会社の経営者はいうのです。

「立ち向かえ」

立ち往生がその先には待っています。一生懸命漕いだ自転車は前には進んでいないでなぜか汗びっしょり。ふと振り返るといつも坂道の下から三分の一ぐらいのところにいる自分が歯がゆくてしょうがない、坂の上には光輝く太陽があるのに。

全社のバランスを見直そう。そして流用できる品質レベルの汎用プロセスを創ろう

高々と戦略を掲げれば、みんながそこに向けて自走してくれる、というのは幻想です。戦略の合理性は必要ですが、どうやってそこに行くかの現実的オペレーションの方がはるかに重要である、というのが私の持論です。

そして、とくに人材の質を揃えることが難しく、中途人材や業務委託などの外部人材に頼らざるを得ない中小企業だからこそ、その時のバランスが大事です。具体的には、こんなイメージです。

  • 既存のプロセスを改良しながら、品質を安定させ、キャッシュを安定して継続して稼ぐようにする作戦に70%
  • 上で稼いだキャッシュをベースに既存の安定化済プロセスを6~7割流用しながら残りを新規開発して早期の市場投入を目指す作戦に20%
  • 全くの新規の事業、研究的事業に10%、ただし、ここへのキャッシュの投入は上のプロセスに昇格できる水準まで小さくしか行わない。

実は、これは工業製品の開発、販売という日本が依然として比較的強い部分では当たり前の資源配分です。大手家電メーカーが毎年「斬新な新商品」を作っていたら、不良だらけ、発売遅延だらけになるはずです。エンジニアもデザイナーもみな、新しいもの、美しいものをやりたいのは大手だって同じです。そうならないように上のような資源配分を行いマネジメントしている経営の力があってこそ成り立っているのです。

製造業以外、製造プロセス以外でも実は同じです。優秀と言われて経営者になったあなたが思うほど、人は賢くも柔軟でもありません。それでも、会社を前に進めるために必要なのは、「できること」を中心にした堅実な経営方針です。

そして、ベンチャーが銀行や大企業からなぜ信頼されないのか?はこうした「確実にできること」をベースにして99%の確実性の重要性を十分理解していないで、6~70%の商品、サービスを出したり、経営指標の達成確率が6~70%しかないことが言葉の端々に透けて見えるからです。

では、リソースが限られていて、売り上げもあげなきゃいけない。そういう中小企業の現実の中で、具体的に何をどうすればよいのか?ということについては、来週改めて事例含めてご紹介したいとおもいます。

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