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「中国でだったら産んでもいいかな?」って言われた夫

そう言われました、30代だった私は妻に。

 

先週の中国の「女性活躍」に続いて今回は、中国の子育てについてご紹介します。私は深センで中国の中流階級が住むマンションに妻と二人で暮らしていました。日本ではタワーマンションというのでしょうが、中国では都市部の新興住宅街は30階建て80~120平米ばかりですので、そういう言い方はなく、これらが5棟ぐらいまとまって、区画内には公園、医院や理容店、スーパーなどがある「〇〇花園」と呼ばれるところに住んでいました。そこは主として、深センに地方から出てきて一定の成功を収めたホワイトカラーの家族が多く暮らしていました。(ちなみに今は駅から徒歩30分の50平米の賃貸アパート住まい)

中国では、マンションのドアは大抵木製で薄いのですが、その外側に金属製の柵でできた「防犯門」というのを自分で取り付けます。私も2999元で買いました。(約45,000円)そして、亜熱帯で一年の2/3は蒸し暑いので、ドアを開けて防犯門だけを閉めて風通しよく過ごすので、周囲の家庭のテレビや会話は丸聴こえです。建物は立派だけど、雰囲気は昔の日本の「文化」(関西では低層アパートを昔こういいました。)です。そんな暮らしの中で垣間見た中国の子育てについてご紹介します。

 

■幼児はうるさくて当たり前 のびのび でも、ちょっと困る~

深センは移民の街、若い人が圧倒的に多い街です。そのため、子供の数がやたらと多い。私が居たころは一人っ子政策がまだ堅持されていました。ただ、若い人が多いので、やたらと妊婦さんが街でも会社でも目に尽きます。ちなみに中国人はマナーが悪いと日本人は言いますが、例外なくどの若者も高齢者と妊婦にはどんなヤンキー少年でも瞬時に席を譲ります。小さい子にもかなりの割合で譲ります。赤ん坊は私も譲りますが、幼児は譲る必要あるんだっけ?という感じもあったのですが、その社会規範教育はかなり徹底しています。

マンションに暮らしていると、あちこちから子供の騒ぎ声、泣き声が聞こえてきます。特にお母さんが仕事から帰ってくる18時半以降ぐらいになるとテレビの大音響と子供の泣き声がシンフォニー。中国のお母さんは大声で容赦なく叱ります。忙しい暮らしの深センのワーキングママはイライラ気味のようです。ただし、手を挙げている光景は一度も見たことがありません。そして、ある程度の成功者である中流階級マンションの若夫婦の元には結構な割合でどちらか(多くの場合、夫)の両親を田舎から呼び寄せて暮らしています。おばあちゃんはいつも幼子に優しいので、子供はそういうときはおばあちゃんにしがみついて泣いています。日中もお母さんは仕事なので、マンションの敷地内でおばあちゃんと過ごしている様子を多く見かけます。深センは暑いんですが、なんだかほのぼの~としていています。

 

「尻割れパンツ」って知ってますか?その名の通り、半ズボンというかスウェットパンツみたいな子供のパンツなのですが、股間の部分に切れ目があります。ホックがあるわけでもなく、そのまんまです。おむつが取れる時期の「トイレトレーニング」用らしいのですが、立派なマンションの敷地のあちこちで子供がトイレに行きたくなるとおばあちゃんや両親が子供を後ろから抱きかかえて膝の下に手を入れて大小問わず用を足させるのです。その時、「脱がないでもできる」という優れもの。日本でも普及するとよい…わけないでしょ。特に大の方でも平気でその辺でさせるのには困ったもので、マンションの管理組合もあちこちに、「文明社会は子供にその辺で用を足させない」というような掲示をしています。 もっとも、これをよしとしない若い層もいるようで、私の秘書さんは(子供はいないのですが)「あれは恥ずかしい」と言っていました。

 

学齢期前の子供は、こんな感じで「子供はしょうがないでしょう」という周囲の目に見守られて、日本よりもはるかにのびのびしています。そして、お母さんも仕事は大変なのですが、周囲の目が「子供はわがままでうるさくて当然」という感じであるのと、日本のように、「よき母親像」を押し付けられるという空気があまりなく親の手助けを得ながら、あまり周囲から干渉されることなく子育てができるのです。いえ、この部分は私の感じ方、というより妻が日中に私以上に街の子供たちをたくさん見て、感じたことです。

私の妻は日本の「女なこうでなければならない」「妻は」「母は」という社会規範や同調圧力に不安や疑問を感じていたので、こうした中国の親子の関係を心地よいものと感じたようです。そして言われたのが、冒頭の「中国でだったら産んでもいいかな?」です。なお、間もなく結婚23年、私たち夫婦に子供は結局いません。

 

一人っ子政策は「ふたりっ子政策」に2016年から変わりました。これは、一人っ子政策が本格実施される1980年以前の世代が老齢に至る2050年以降に急激な高齢化と人口減少を迎えることが中国では予想されており、その影響を緩和することを目的としています。これまでの2年を見る限りでは二人目は160万人(日本のすべての出生数の倍!)生まれたのですが、一人目の生まれる数がこれを大きく上回る規模で減少しており、出生数自体は減少し続けています。つまり、中国でも非婚晩婚化が進んでいる、二人目はそれほど望まれていないということです。

二人目は無理、というのはよく理解できます。というのは…

 

■小学校から猛勉強

上の妻の感想は一面の真理なのですが、深センの子供が「のびのび」というのは小学校に上がる前までのことです。以前も書いたように中国は日本と比べ物にならないほどに学歴社会です。文系は北京大学、理系は清華大学をトップとした学歴順に初任給も昇進も大きく差がつきます。また、最近ではアメリカ西海岸のアイビーリーグへの留学もエリートコースとして目標とされており、今でも多くの中国人留学生がいます。一説によるとまともに0から入学試験をすると、大半が中国人留学生になってしまうとも言われています。

 

そして、そのためには、「地域の有力な中国・高校一貫校」に入れたい、と思い、そこへの入学試験はかなりの難関のため、その対策をしてくれる「教育実験校」と呼ばれるエリート小学校に子供を入学させたがります。

その教育実験校では、通常の授業のほかに、朝、夕に補修授業が行われます。そのため、子供たちは、日本の体操服のような制服で朝7時ごろには通学し、夕方6時前に帰ってくるということが多いです。補修は学校の先生が別料金でアルバイト的にやっているそうで、「月謝」がいるようでした。中国でも学校の先生は、「大変な割に給料が安い」職業と言われていて、実験校で受験教育の副業をすることは先生にとっても目標だそうです。実験校では、日本よりも2年ぐらい前倒しの教育が行われていて、小3ぐらいで英語の基礎的会話を教わり、小5ぐらいで連立方程式(日本のように小学校のうちは、つるかめ算、というような回りくどいことはしない)を習っていました。ちなみに学校の成績は順位付けされて公表され、競争意識を持つように教育されるところは日本と大きく違うところです。

その上、帰ってきてから塾、音楽(バイオリンかピアノが人気)、スポーツ(テニスが多い)のうち、1,2個行かせているという家庭が多いのです。勉強だけではなく、「情操教育」にも熱心なのが中国のエリート家庭です。以前もこのシリーズに登場した私を支えてくれたスタッフの一人る人事部長の劉燕さんは実は私が赴任する2年前に夫が急死され、母一人子一人で頑張っていました。彼女自身も武漢大学(コンピューター系を中心にかなりの名門大学)で図書館学をトップクラスの成績で卒業したエリートだったのですが、子供の将来に期待をかけ、自分で英語を教えるほか、バレエを習わせていました。私は彼女にいえにお邪魔したときに彼女の娘さんに、「あなた、英語の発音が正しくない!」と言われたことがあります。

 

こんな様子なので、学校の前を通ると校庭で休み時間にボール遊びをしている様子を見ることはあるのですが、帰って来てからマンションの敷地内で子供同士遊ぶ、という光景はほとんど見ることがありません。校庭といえば…朝8時半に校庭の前を通ると朝礼で国旗掲揚式をやっている光景を見ることがあります。中国では毎朝天安門広場にて人民解放軍トップエリートの兵士たちが国旗掲揚を行います。旗が上がり始めると、五星紅旗をさっと投げるように広げる所作が有名ですが、このミニ版が国歌とともに小学校から繰り広げられていることをみることができます。

 

中学に入るとさらに受験教育は熱を増していき、多くの子供は眼鏡をかけています。中国ではコンタクトレンズはまだまだ普及途上です。そのため、都市部ではどのスーパーにも眼鏡屋さんがテナントとして入っています。ちなみに、ゲーム熱は日本でも中国でも同じで、同僚が「ゲームのし過ぎで子供の目が悪くなって・・・」と嘆いているのを時々聞きました。ただ、成績の良い子供ばかりではありません。やっぱり勉強のできない子はいます。

そして、その学校入学については、試験の成績以外に、「コネ」が実情としてかなり重要であり、私のバディだった副総経理はとても実直な人でしたが、あまり娘さんが成績が良くなく、高校進学時も大学進学時も、彼は党員人脈でかなりあちこち当たって工作していました。高校はうまくいったのですが、大学は…一旦落ちて、中国では珍しい浪人と言っていたのですが、なんだかあとから「補欠合格」していました。あれれ?と言ったら、にやにやしながら、「聞かないで!(不要問!)」と言っていました。

 

■大学は基本は寮生活 軍事訓練授業も

一緒に食事に行くと大卒社員に大学時代のことを良く聞きました。彼らの「誇り」でもあるので、話すと気分が良いと知っているからです。彼らも同じ調子で「東京大学」の話を聴きたがりますが、私にとってはあまり良い思い出ではない歴史なので、適当にごまかしていました。中国の大学生、特に工学系の学生は日本に比べても非常に勉強しています。大学はほとんどが全寮制で、平日は基本朝から晩まで大学内で勉強しています。敷地は非常に広大で建物も立派です。中は見たことがないのですが、新興国という要素はあるものの、話を聴く限りは50年前の実験器具が当たり前だった東大とは大違いです。

ちなみに当時の社員たちは、大学で軍事訓練を受けていました。大学は「国家のエリートを育成する」という位置づけであり、そのための党に貢献するという教育はどこでも行われているのです。もっとも最近ではあちこちに「大学」を名乗る職業訓練校が乱立して大学進学率は急激に上昇しているため、変わってきているかもしれません。

 

妻は、「中国は人間が人間らしさをもって暮らせる社会」だと今でも懐かしみます。日本独特の社会の「同調圧力」「こうあるべき」「これはしてはならない」というようなものは確かにすくないので、それはそのとおりかもしれません。しかし、現代中国では日本の「村社会的文化」に変わるものは、「競争原理」です。競争上位は競争下位を支配し、裕福な暮らしができる、ということが日本以上に公然と語られ、実際大きな差が存在します。そして、その社会構造は、こんな風に小学校に上がるときから組み込まれているのです。

 

私は結局日本に戻ってきて、今でも夫婦二人ぐらしです。でも、「日本社会の呪縛」が女性を苦しめることには気を付けて暮らせるようになりました。

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