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資金がなくなりかけた時

 過去、3社で4度ほど、日次資金繰り表で「残り資金が数日分」が予想されるという事態に遭遇したことがある。そのうち、3回が「12月末の資金」だった(残りの1回は5月だった)。もう、1件入金が遅れるか支払の見落としがあるとアウトというレベルである。そのうち、1件は、独立起業してからのお客様である。
 今は、そうした危険のある会社のお手伝いはしていないので、とりあえず安心なのだが、それでも11月のこの時期になるとなんだか不安になって、何度も「見落としていないよな?」と考えを巡らすぐらいのトラウマである。

 もちろん、こういう事態が起きるのは、事業構造に根本の原因がある上に、金融機関の信頼が十分ではないような過去の積み重ねがあるからである。だが、こういう事態になってから、そんなことを言っても誰も聞く耳を持たないし、そんなことを言っている場合ではない。幸い、最近では債権を流動化させるファクタリング手法がいろいろ選べるようになってきているので、知ってさえいれば打ち手はかなり増えてきているのだが、知らないで立ち往生したまま、経営者にもそれを伝えられていない、もっと言えば、その危機的状況を精度よく予測できていないで自分でも認知していない出納担当というケースにもたびたび遭遇する。

 特に中小企業で、こうした危機に遭遇する会社は、資金量の割には口座数が多く、しかも十分な管理・可視化ができていないケースがある。あるいは、経理担当の中には、発生した金額を1円単位で正確に記録することには熱心だが、予測を記載することはなんだか間違っている、とおもっていて躊躇したり、無駄に時間をかけてタイムリミットが迫ったりするケースもある。だが、それはまだましな方である。資金残額管理が重要であること、それが自分の担当であること、あるいは自分の精度が悪いと会社に危機を及ぼすことを知らない、人柄はいいのかもしれないが能力や経験の不足している「事務員」に命綱を預けている、というケースが中小企業の危機では結構な割合である。そういう会社では営業も営業で突然大きな額の支払いがいると言い出し、それがないと困ると逆切れしたりする。しかもそういう経営のイロハをしらないまま、結構年齢も立場を上だったりする。
 こういう中でひどいケースだと「今週の支払いが数百万単位で足りない」と突然事務担当に言われた経営者も現に知っている。これなどは、経営者の経理事務の重要性に対する認識の不足が根本的な原因である。営業力に自信があって起業した経営者や学生起業の場合などで、しかも自分はそこそこ優秀な場合に多く、この「重要性の認識欠如」のケースがみられる。
 経営とは、「人」と「お金」、「売るもの」の3つの総合芸術であり、その3つの知識というか扱い技術が会社には必要なのだが、それがどのようなレベルで整備されているべきかを教えてくれる人はいないし、適当な検定試験があるわけでもない。企業に勤めたとしても、こうした全体管理に携わることは通常ないので、皆、根拠もなく「自分はなんとなく合格点」だと思い込んでいるのである。本当は、中小企業診断士試験の基礎版のような検定があるとよいのかもしれない。

 とはいえ、このような資金危機の状況になると、もう経営者はまともな思考はできなくなる。特に初めてだとパニック状態に近い。(そして何度も経験している私のような人は相当珍しい)私もそうだった。一日に何べんも計算し直し、営業に確認して回り、心配事を口にしてしまう。そして、心理的に追い詰められてだんだんと必要な具体的対策を取れなくなってしまう。そこからでもやれることはあるのだが、まじめな経営者に限って、そこでまた「道徳」に縛られた思考しかできず、じりじりと時間を失っていく。
<もし、そんな状況に陥っているケースがあったらご一報いただければ具体策はご相談に乗ります。>

ただ、過去に目にしたいくつかのケースも結局、社長の「経理担当の重要性認識の欠如」は治らず、予測可能性の改善、あるいは資金流動性の確保のための金融機関との信頼関係の醸成、といったところは改善していないように見える。営業と同様、資金管理も方法論と信頼の積み重ね以外に、魔法の杖はなく、営業同様にめんどくさいことこの上ない。そして、営業の不備は、じわじわと死地に至るのだが、経理の不備は、突然死を招く。

そんな記事を書いていたら…夜になって大規模なリスケとリストラに迫られたというご連絡を久しぶりの知己から受けた。12月はやっぱり鬼門である。

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