ある会社の社長から「採用力」をつけることが急務、という相談がありました。
「採用力」、というのは最近言われる言葉ですが、うまい言い方でして、人事担当が、ハローワークやリクルートなどの人材会社に完結でキャッチ-な言葉を入れた求人票を出せば、面接応募が来て、人事と担当部門で面接すれば採用できる、という時代は少なくとも中小企業ではもう終わってしまっています。自社の必要なポジションにマッチした人材を採用できる「総合力」「全社的取り組み」が必要な時代になったのです。
「中小企業ではいい人材が取れない」という中小企業の悩みは私もそうした組織を率いていただけにとても深刻です。先ほどの「採用力」でいえば、「将来にわたって期待される給与水準と安定性」「仕事のやりがいとワークライフバランス」「仕事の中での自己の成長」というのが、この順に大きな「採用力」の3要素ではないか、と思っています。
特に若い男性の場合、一番目の要素は、結婚、住宅購入、子供の数といったライフイベントに直結するだけにかなりの重要度なのが現実だと私は捉えています。ただ、ベンチャー経営者の中には、この一番目の要素、二番目の要素を軽視されている方も多いようです。たしかにご自分は、その仕事に人生のすべてをかけていらっしゃるで、三番目が比重が大きいのでしょうが、周囲の人は決してそうではない、でも、創業メンバーはそれをトップには白状できないまま、疲弊している、あるいはそれが採用力が上がらない原因であることをトップが認めないというケースもあるようです。
私は、特に若い優秀な層を中小企業でも採用するためには、もっと1番目と2番目の要素をきちんとアピールするのがよいと思っています。
一番目の「将来にわたって期待される給与水準と安定性」については、中期計画やその進捗状況をきちんと説明できること。それから人事評価制度や報酬制度を整備することを通じ、中長期的に昇給の機会があり、長期的な勤務が可能なことが制度上も収益上も用意されていることをまず納得してもらえるようにすることが大切です。実は、このことは多くの会社ができていません。それは、古株社員のうち、働きが現時点では十分ではない社員の既得権益化したポジション、給与を流動化させることとセットでないと効果がないケースが多く、なかなかそこに踏み切ることができないために、「全員が安い」「全員が上がらない」という状況になっている、ということを実は若者たちはよくわかっている、ということへの対策でもあります。
2番目の「仕事のやりがいとワークライフバランス」という点については、タイムカード管理もない、残業代も払っていないような会社には誰も来てくれない。(そもそも違法ですし)ということです。若者たちは残業が0であればよいとは思っていません。成長意欲のある若者は多くいます。ただし、必要もない残業、あるいは終業後や土日の拘束、意味のない同調圧力ということには敏感です。敏感ですが、面と向かっては言ってくれません。
「残業代をまともに払ったらつぶれてしまう。」というのは、働いた人に払えず、働いていない人に払っている、ということですので、成果と報酬の間の関係が長年の間に歪んでしまっているのでしょう。そういう会社には、行きたくないよ、という見られ方をしている、ということだと理解するべきだと思うのです。
採用力を高める?ため、webサイトを刷新して楽しげにしたり、受付をカフェ風にしたり、といろいろな試みがされていますが、それだけでは若者は騙されてくれません。ネットを調べれば、その会社がどんな会社なのかはわかってしまう時代なのです。高収益で、豪華なオフィスで毎年昇給して安定した企業で、というようなことが現実には手に入らない現実も多くの若者はわかっています。
それならば、やれることは、「成果に見合った評価」「会社の見通しを明確にする」ことなのではないか、と思うのです。正直でないこと、うわっぺらで通り一遍のことを言ったり書いたりしていること、それは百戦錬磨の優秀な若者たちは見抜いている、というところからスタートするべきだと思うのです。