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社内SNS 大活用作戦

今、お付き合い先で3社がSlackを活用されているため、私のPCのブラウザはいつもSlackが複数立ち上がっています。更新があると小さく合図音がするのですが、あの音が、「スットコドッコイ」と聞こえてしょうがない…そのうち、1社は全部のチャネルを見られるわけではない(私はインナーではないので)のですが、一日に何十もの情報が更新され、あるいは社内連絡はメールよりも社内SNSで行われるようになっています。

その前に勤めていた会社はセキュリティルールが非常に厳しく社内SNSの利用が子会社含めて禁じられていたため、一部の社員間でTalknoteをスマホで実験はしたものの、社内ルール化することができず、今回初めて本格的に使用しています。使うと確かに便利ですね。私のように筆、というかキーボードが進むタイプには向いています。

 

ご存じない方のためにご紹介すると、社内SNSとは、LINE、あるいは携帯電話のSMSのような仕組みを社内のメンバーに限定して運用するものです。そして、「チャネル」(違う呼び名のアプリもあります)という各議題、テーマごとにページを分ける形で、レポートしたり、コメントしたりするものです。いろいろなサービスが存在していて、先ほどのSlackというのはそのうちの大きなシェアを持つものの一つです。なお、Slackは今年中にもNASDAQへの上場が見込まれていて大型ユニコーンの上場と話題になっています。

メールとどこが違うのか?というと、「思想が違う」のです。メールはお手紙、電話であり、一対一のミーティングのような相手を限定してメッセージを送るものですが、社内SNSはむしろ部門の掲示板であり、給湯室のおしゃべり、あるいは会議に類するものです。社内SNSでは該当メンバー(それはチャネルごとに適切に限定することは可能なのですが、それがそこのメンバーだけに情報が留まるとは限らないのはリアル会議と同じです。)に、同じ文言が一斉に広まります。ただし、相手がそれに適切に反応するかどうか(見ているかどうかすら)はわかりません。ただし、反応をスタンプなどの形で0.5秒で簡単に意思表示することは可能ですし、意見や気づいたことがあれば元の発言に対してコメントすることも可能です。

 

先ほど、わざわざ「思想が違う」という書き方をしたのは、もう一つ理由があります。

その前に一つ体験談をします。今から15年ぐらい前、私は本社が地方都市にある上場企業の子会社の経営企画室長だったのですが、その時親会社からきた50代の役員2名にあることを言われました。それは要約すると「管理職は、すべての情報をみんなにさらけ出して知らせればよいというものではない。必要な情報を必要な形で一部の人にだけ知らせることで、初めて自分に従わせることができるのだ」ということでした。これには、「組織の階層構造を活用しながら」という一般論に加えて、「自分の腹心と、対抗勢力とを差別していく」という内容も含んでいました。たしかにその人のマネジメントの仕方は社長になっても、そうしたやり方で人身御供を使って他の人を従わせるようなことや、勤務時間外の夜の課外授業で一部の人とだけで物事が決まるようなやり方を行っていました。 それでも通用するような市場の競争環境、あるいは組織文化の時にはそれでも成果を発揮できたので、その人たちはそれが正しいと思っていたようでした。こうした会社では、意思伝達の方法も、口頭であり、上意下達と形式的な下の決意表明の朝礼であることが通例です。

 逆に私は、悪い数字も表に出して、皆に考えてもらう、というスタイルを志向していましたが、それは真っ向から否定されました。今でこそ、このスタイルはかなり「当たり前」になってきていますが、当時は「若気の至り」の類と一顧だにされないレベルのものでしかありませんでした。

 

悪くいうようですが、まだまだそういう会社は日本ではたくさんあります。その「ムラ社会」の同調圧力、あるいは同質性は日本の組織の特徴でもあり、政治、行政、あるいは文化的団体などで今でも深く根付いているやり方です。そして、多くを明文化しなくても比較的高い品質のサービスが提供できるのは、この特徴のおかげでもあります。労働市場も地方から都市部にでてきた若い男性というところを中心に均質化し、市場もまた、新しい製品群を所得の向上とともに買い増し、大型のものに買い替えていくという「均質な時代」であったので、そのようなやり方で得られる解でも需要の拡大の中では通用してきたし、上昇志向の強い労働者が集まる中では自分が選ばれることが収入格差となりえたので比較的機能したのです。そして、成果主義の影が忍び寄ってきた21世紀は、「自分のグループに成果をあげさせ、そうではないところには成果をあげさせない」という手段として成果主義評価も彼らには映っていました。

 

しかし、中小企業は違います。業務担当は分かれていても、あるいは便宜上役職名は分かれていても、実際の組織は基本的にかなり階層が少なく、となりの部門が何をやっているかを知らないでは済まされないのが通常です。最近では大きな会社でも階層が少なくフラットな組織運営が増えてきました。あるいは、以前もご紹介した、階層組織ではなく、プロジェクトごとにリーダーとメンバーをそれぞれ揃えていく「ホクラシー」型の組織運営を取り入れる(ホクラシーという言葉を知らなくても普通にそれに近づいている)という企業も増えてきました。

小さい組織はよほど強い競争力の商品でもない限り、きれいごとではなく売るものがなくて「全社一丸」にならざるを得ず、組織のセクショナリズムなど起こりえないことも多い。その上、最近では女性、外国人など多様なバックグラウンドを持つ人の能力を結集する「プロフェッショナル集団」を志向して特徴ある商品、サービスを構築しなければ適当に作ったものは簡単には売れないし、競争に巻き込まれて利益が上がらないという市場環境になっています。

さらに言えば、組織を動かすものが、「労働」「(いままでの)常識」「汎用性」「正解」と言ったものから変わってきていて「動機付け」「感性」「独自の面白さ」になってきている。そこに大組織はなかなかアジャストできないでいるのが今の状況です。

 

このような21世紀型の組織運営において、この社内SNSは大変便利なツールでしょう。しかし、ムラ社会型組織においては活用しえない、むしろ上のものにとっては自分の意図を阻害するものとなり、どんなに情報システム部が「生産性向上ツール」と銘打っても、結局社内SNS上でも週に1,2個朝礼と同じことが行われ、社内ポータルの掲示板とどこが違うのか?むしろ掲示板の方が便利ということになってしまいます。(現にそういう会社もある)

 

もう一つ、社内SNSが活用されるかどうかのポイントは、「共感」にあります。みんなそれぞれの仕事を頑張っているなあ、という職場の風景が前提にあり、そこで「困っています」「探しています」という質問が上がってきたときに、即座に助けてくれる仲間がいる。イベントの写真や報告をアップすると、そこにみんなが「いいね!」という意思表示でハートマークをスタンプしてくれる。そうした空気がある組織では、それをより醸成し高めるのにとても役立つツールです。ただし、この場合、社内SNSがなくてもたぶん彼らはそういう組織ではあったのであって、社内SNSがあるからそうなるのではないでしょう。そして、こうした意見や共感を素早く共有し交換することは、若い人、特に女性の方が圧倒的に能力が高い傾向があるように見えます。私のお付き合い先でも、情報提供してくれたり、意見を出してくれたり、それに対して素早くスタンプを押しているのは、圧倒的に若い女性陣であり、それが組織の共同体文化を型作る重要な要素になっています。

 

私も独立してからは、社外の方からLINE交換を要望される機会が増えたのですが、どうも苦手で、一生懸命考えて論理を揃えて長文を書く傾向にあります。社外の人だとLINEまで「いつも大変お世話になっております」から初めてしまっているのはメール世代の特徴でしょう。でも、そんなものを実は誰も望んではおらず、社内SNSにおいても同様に、短く要件を伝える技術が大事です。その「文化」は私の世代と若い世代とでは確実に相違しています。ここでもまた、「時代は変わってしまった」のです。

 

私は、よく「ツールを導入すれば組織が活性化するとか、生産性が上がるとかいうことはない」と各種ツールの相談を受けた際にいうのですが、この社内SNSにおいてもそれは同じです。旧来型の組織がいくら導入しても、このツールのおかげで組織が変わることはありません。むしろ、若い人に、自社組織の旧弊を一層意識させる結果に終わるでしょう。それを変えるには、まずトップが変わらなければなりません。ありがたい話なんてしなくてよいので、「探している」、「考えている」、そんな一言を社員に向かってSNS上で「相談」できますか?そして、新入社員や若い社員、あるいはパートさんに同じように何でもいいから、感じたことや困っていることを投稿してほしい、とお願いし、実際そういう投稿がされたら、がんばっているな!と思ったら何か適当なマークをスタンプし、助けてあげたいと思ったら、「××商事の〇〇さんに聞いてみ、電話しとくから」と一言書くよう、まずあなたが21世紀型に対応する努力をすることです。

もし、あなたの会社にアルバイトの学生の方やパートの女性、あるいはインターンの大学生がいたら、彼らは多分、こうしたことが社内で一番上手です。やっぱり組織を変え、時代を進める主役は、「よそ者、若者、バカモノ」であり、彼らの組織での居場所を位置づけるツールとし、トップが彼らの伸びやかさを守るツールとしてまず社内SNSを位置づけるとよいでしょう。

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