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経営には失敗数が必要な理由

 企業の変化と前進を妨げているのは、一番大きいのは、経営者自身の「いつまでにこのように変えるという強い意志」が足りないことである。この弱さは、具体的には、①採用力の弱さ、と②属人的な業務管理を背景にした「社員の気分を害することへの懸念」があり、その解決策については、このブログでもいろいろな場面でご紹介している。

 しかし、もう一つ大きいのは、経営者、上司が思っている以上に、社員は失敗を恐れている、ということである。これは、経営者の失敗であることは免れ得ないものの、それ以上に日本の教育の失敗でもある。小学校の時から、正解しないことがペナルティの対象になっていて、失敗しない順に序列が与えられる。どんなに勉強しても、それでも知っていることなど世の中のほんの一部でしかなく、大半は知らないことばかりであり、知らないことの中でどう探索、試行錯誤するかのマインドの方が実務には大事であるのだが、そんなことを少なくとも私は家でも学校でも教わらなかった。

 そして、マネジメントや経営に対する体験を伴う知識が不足しているため、どこかで覚えた基礎的知識体系をそのまま援用しようとする応用力のなさであるともいえる。変革できる組織では、一定の失敗、それによる損失が常時存在することを前提に経営計画を立てることが必要である。逆に言うと、そのくらいの利益の余裕をみなければならない。

 今日は、中小企業の普通の会社が変革の過程で「失敗数が必要である」=失敗は必要数だけさせなければならない、ということについてご説明したいと思う。

①新しいことをやるときには、どんな天才でも大抵失敗する。

 どんなに優秀でも最初はうまくいかない。優秀な人間とは1勝0敗の人間ではなく、1勝9敗だが、その9敗がさほど大きくない失敗であり、1勝はそこそこ大きく、その10戦を1勝0敗の人の1戦よりもはるかに早く行う人である。

 したがって、新しいことで100万円の成果を上げようと思ったら、99万円まで(できれば50万円ぐらいにしておいて欲しいが)失敗して損させてもよい、と管理者は腹をくくる必要がある。それでもたまには、1000万円儲かる成功があるので、成り立つのである。

なぜならば、優秀と言われている人であっても世の中の事象のうち、知っていることはほんの一部であり、大半は知らないことである。対象分野の構造や開拓方法はその分野のついて、集中して考え、話を聞き調査し、データを見ていく中で徐々にわかっていくものである。

 もちろん、その分野の経験者を連れてくれば、そこの成功確率は高められる、あるいはそこまでの時間は短縮できるのだが、どの分野でも経験者をつれてくるという事も現実には見つけられないし、みつけても中小企業には来てくれないので、「やったことのないチャレンジ」で前に進まなければならないものの方が社内には大半である。

そして、一度の失敗でやめてはいけない。もう、自分たちではすぐには改良点が見つからなくなるまで、やめてはいけない。ただし、そのサイクルを今までより格段に短くすることが大事であり、それが管理者の役割である。

②計画はほぼ当たらない

 仮説を立てておくことは大事である。仮説のどこがずれているのかを知ることが,改良点を見つけ出すヒントになるからである。しかし、それをもとにした商品、価格、広告戦略、あるいは「売上予測」は、前例がないものについては大抵大きく外れている。だから賢い「非営業」「企画」の人はみな、無難な「前例のあること」をやりたがる。
 前例のないことをやるときには、外れていることを知る(=①失敗)ことで、素早く修正するしかない。だから、そこに時間をかけても無駄であり、原案を小さくやりながら改善して、大きく投入するための計画を作った方が正解に近づける。よく、「新規事業の市場調査だけお願いしたい(しかも締め切りが迫ってから言ってくる)」という要望を受けるのだが、全国のユーザー候補の数や分布、それにそれらの行動パターン別の分類などは知る必要があるのだが、そこから先、「いくら売れるか」は全く意味がない。市場が大きいか、小さいか、拡大傾向かどうか、だけわかれば、そこからやるかやらないかを経営者が決めるべきである。

③やり始めてからしばらくしてから必要な情報が集まってくる

 事業の開発に必要な情報は、どこか図書館にまとまって整理されているわけではなく、テレビやネット、あるいは顧客候補や既存流通経路の中の人に話を聞くことで集まってくるものであるが、その収集要領も最初はよくわかっていない。どの業界にもキーマンがいて、その人に出会うと世界が広がるという事がよくある。
 たとえその時点で情報を入手できていたとしても、その情報の重要性や活用の仕方を始める前ではわからない、という事が往々にしてある。これもまた、「始めてからわかってくる」という要素が多くある。

 そうした有益な情報を有益な情報であると感づいて、判断できるようになってみると、「今までなんと無駄なことをやっていたのか」と情けなくなるが、そういうものなのである。

④やり始めてから興味がある人、やる気がある人が見つかってくる。

やる前から文句をたらたらいう人の中にも、やり始めてみると意外に面白がって、自分でいろいろ調べてくるような人が一定割合いる。
 新規事業を始めるときに、中小企業で一番たりないのは、それを遂行するに足る有能な「人材」なわけだが、①~③で見てきたように、事業を始めるのに必要なのは、「頭のいいひと」ではなく、「執着心をもって、集中して取り組める人」である。しかし、「自分は新規事業をやりたいです」という人は日本では実際にはなかなかいない。

それでも始めて見ると、関心のある人、そして、「今のままでは会社も、そして自分自身もいけない」と思っている人が見つかってくる。あるいは、「社内には知っている人」が実はいるのである。そういう人は、「失敗した~」と楽しげに発表すると、「自分はこれ知っていますよ」と自尊心に駆られて教えてくれたりする。

というわけで、人と情報が集まるのは、そういう失敗したあとなのである。

⑤最初の狙いが外れていたり、最初に作ったものがやたらと手間がかかって利益がでない、という事が普通にある。

 これも困ったことなのだが、そうとう具体的に作って、受注も多少なりとも始まってから、「やっぱりこれではダメだ」と決心がつくという事が往々にしてある。というのも、完全に仕組みができてから売り始めることなど実際にはできることではなく、売りながら、バックの仕組みも同時並行で作っている、というのが新規事業では普通だからだ。

 そして、最初に作ったものは、「外れることもある」というのではなく、「大抵、ずれている」。そのズレているものをいつまでも引きずっていても事業はグロースしないし、利益もでず、作業に追われるばかりとなる。
 中小企業ではそうなっている小さな業務がたくさんある。 

 お客がいるからやめられないというのだが、遠慮なく早い時期にやめるべきである。そして、やめると言っても、その事業分野から撤退するのではなく、これまでの知見を活かして、そして、これまでの顧客のことを気にせず、もう一回0から新しく作ってみることを指示しなければならない。そこで、これまでのサービスに引っ張られて「多少の改変で済まそう」とすると、結局的外れなサービスのまま低空飛行で赤字の源となる。

 

 このように、「失敗しながら、徐々に当たるようになっていく」のが成功へのプロセスであり、その過程では、「失敗ばかり」が目につくものなのである。いや、むしろ、「失敗を失敗と発表する」ことにかなりの価値がある。

 失敗が月に1個ならば、注意するべきであるし、担当を変える必要があるかもしれない。それが週に数個のペースで失敗し、そして失敗した結果を生かして、手法を改善している(これをPDCAを回す、と言えば正しく聞こえるのですが)ならば、それは、全社の前で称賛されるべきことである。それは、「正しい結果に行きつくために必要な失敗を全速力でしている」と捉えるべきである。

 こんなことは誰も教えてくれない。それは、教える立場の人が、新規事業のプロではない「知識人」であるからである。

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