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「新電力」のその後

昨夏のこちらの記事で、電気代を下げるのに、新電力を活用することが有効な方法であることをご説明しました。「経費削減講座8 電気代①」しかし、このあと、新電力業界は少し様相が変わってきました。注意事項も出てきました。その辺も含めて追加情報を整理したいと思います。

 

まず、前提として今、新電力をご利用の方は、現在の条件が継続される限り、ご利用し続けて問題はありません。ただし、請求書データやその他の案内で、何等かの制度変更の案内が記載されていたら、それは、「実質値上げ」の可能性があります。そういう不都合なことはわかりにくく書いてあるのが世の中の常ですので、注意しておいた方がよいでしょう。いくつかの会社ではそのような条件変更に不承諾の場合は解約金なしで解約できる、という対応を公式に、あるいはクレームとして通知すると非公式に行っている会社もあるようです。

また、高圧電力の方で、かなりの割引を享受されている方は多くのケースでは一年契約になっていると思いますがその際に、「値上げしないと継続できない」と電力会社側から言ってくる可能性があります。(実際、大ユーザーでそういう事例が出ています。)通常は契約期限の3か月前にお互い通知することになっている契約が多いと思いますが、言ってくるとしたらその1週間前など直前のはずです。その時になって慌てても対応する時間的余裕はありませんので、少し前から逆に自社から電力会社に問い合わせることや他社の見積もりを取得するなどの作業を進めることをお薦めします。

 

昨夏以来、安値で市場を席捲していたいくつかの新電力が事業を縮小したり、実質的に新電力市場からの退場を余儀なくされました。自社での電気販売から、表向きはわからないものの東京電力などの電力を販売する代理店に姿を変えたところもありました。高圧(主にビルや工場などの法人需要)はユーザーだけでなく、電力会社からも契約期限ごとに料金を見直し交渉することが可能なのですが、低圧(小型の商店や個人宅)は届け出した約款に基づく一度契約した料金が継続的に適用されるため、既存加入者はそのままとし、新規加入者については、プラン名を変更して新プランでは料金を値上げし、旧プランは新規受付停止している会社もあります。

 

エネルギー市場での市場競争を促進し、消費者のメリットを拡大するはずだった電力の全面自由化は3年目をまもなく迎えるのですが、いったいどうしてこのような状況になってしまったのでしょうか?一言で言えば、大手電力会社が自社の競争力を維持するための最適行動をとり、政府が市場性を確保するための強制力を発揮しなかったため、価格に応じて柔軟に需要と供給が変動することが前提の「市場が失敗」しつつあるからです。そして、その前提となる発送電の経営分離ということがこの市場成立の決め手と言われていましたが、その実現が2020年4月(あと一年)とかなり遅れたということもあります。まあ、週刊誌的な書き方をすれば電力会社の抵抗がうまくいった、ということです。しかし、電力会社側も国策として推進された原子力発電が膨大な投資、そして止まっていても費用が発生し続ける中で再稼働することも廃炉することもできないという足かせを填められた中で、片方では「競争」と言われても言いたいこともあるのでしょう。

 

この一年の新電力界隈で起きていた状況を簡単にご説明すると、一つ目は電力卸売市場の機能不全です。電力卸売市場に大手電力会社は「余剰の」(ここがポイント)電力を販売し、新電力各社はほとんどがここから電力を調達しています。しかし、電力卸売市場に地域電力会社が十分な電力を販売しないまま、夏の猛暑を迎えると市場での電力価格がピーク時(30分単位で売買するのですが)は、春秋の10倍に高騰する、という状況が18年冬に発生し、さらに18年夏の猛暑にはこれがかなりの頻度で発生しました。新電力各社は、部分的には、この際に大幅な逆ザヤを抱えて販売する状況に陥りました。電力会社は老朽化した火力等を廃止し、設備規模の適正化を進め、「余剰」を減らしました。これに対して経産省は卸市場に電力を販売を行うよう地域電力各社に強く指導を行いましたが、今度はおろした電力を地域電力会社は市場で自社が高値で入札することにより、実質流通量を制限し、相場を操縦するような行動に出て、市場性が失われてしまったのです。

もう一つ、電力市場は2022年に発電所の容量自体を新電力が予約するような「容量市場」が開設されます。しかし、これも電力会社が老朽化した(減価償却が終わった)発電所を次々休止し余剰容量を減らすことで始まる前から市場性が危ぶまれています。

こうした市場の失敗の結果起きる価格変動リスクを、体力のあまり大きくない新電力会社は、利益幅を確保する(値上げする)形でリスクヘッジするか、あるいは市場リスクを受けない形で大手電力の代理店という形をとるかという形を取ったのがこの半年ほどの間に起きた現象です。逆に言えば、経営方針の変更を行った各社は、この市場の不全は今の政府と地域電力会社の力関係や業界構造から容易に改善しないと判断した、ということです。

 

このような状況のため、昔ほどびっくりするような安値が見積もりで新電力から提出されることはなくなりました。実は、すでに1年ほど前から、電気代が年5000万円を超えるような大きな製造業などで価格の見積もりを依頼すると圧倒的に安いのは地域電力会社(東京電力など)、という状況になっています。また、新電力でも安値を提示できるのは、自社で発電所などの安定電源を保有し市場リスクを抑制できている会社(ガス会社、石油会社など数社しかありません。)、という状況になっています。

 同時に、新電力の販売会社というのは全国に400以上あるのですが、小規模なものはこの先数年で大手に集約されていく流れがすでに進みつつあります。これは新電力というビジネスが電力を調達するためには調達後2日で代金を市場に決済しなければならないのに、顧客から入ってくるのは少し先、という「資本が必要」なビジネスであり、拡大するには資本、資金の拡大が必要であり、その資金調達コストが規模の拡大に比例して必要なのに、利益率がこのような事情で圧迫されるとファイナンス面で苦しくなる、という特性がある事業だからです。

 

正常な市場性を確保しようという経産省関係者の努力は続いていますが、今のところは新電力で電気代がどんどん下がる、という時代にはならなかった。少し下がって終わりそう、そして今後会社を変更する場合には、ただ安いだけでなく会社自体も選ばなければならない時代になった。というのが半年前のレポートのアップデート情報です。将来を予見できると思っているわけでもありませんので、ここでの実名での評価は避けますが、今比較的安心して自分のお客様にお勧めできる会社は限られてきています。

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