会社を改善する作業というのは、どことなく医療・保健に似ています。
①普段からチェックし初期段階で改善していれば大事には至りにくいです。だんだん年数を経ると劣化する箇所やスピードが追い付かない個所が出てきたりします。
→内部統制や内部監査。規程や制度の時代や規模に会った見直し。
②それでも、そういう状況がモニタリングされていれば、トレーニングを取り入れたり、栄養を改善したり、生活習慣を改善することで低下を抑制することができますが、
→商品ライフサイクルのリバイバルや戦略見直し、マーケティング見直し、人事評価制度や採用の見直し、財務的な統制ルールの見直し
③いよいよ状況が悪くなると投薬、手術ということも必要になり、それも急性の症状だとかなりの集中的な治療が必要になります。
→強力な経費削減や人員削減によるPLの改善、資本調達や借入、あるいは資本提携等によるBSの改善
私は実務的には事業会社の管理者としては、①②をやりつつも、⓷の非常事態対応を20年ほどの間に余儀なく数多くこなしてきました。その後、⓷の経費節減を専門にアドバイスするサービスの会社の責任者を務めていました。しかし、このサービスは対症療法としては比較的副作用も少なく即効性もあるといういい面もあるのですが、その分、効果もさほど大きくなく、しかも本質的な体質の改善にはつながらないのです。しかも、これに関心を示し試していただける会社様の多くは「健康体の会社」が多く、当初思い描いたような「会社を救う役に立つ」という目標にはやや遠いものとなってしまいました。(健康な人ほど、健康に留意するのと同じです。)
そういうわけで、起業してからは、どちらかというと⓷の対症療法というよりは、②の体質改善を中心にやっていきたいと思ってやってきました。
それでも時々は⓷の話も耳に入ります。というか…正直にいうと、一度味わってしまった「瀬戸際のスリル」「手に汗しながらロープを登る杜子春感」を時々懐かしく思うことがあるのです。その渦中にいる時には、泣きそうになりながら、係争対処や人員整理、資金融通に追われていたのに…
そういう「瀬戸際」になると、PLの改善よりも先に、BS、もっとはっきりいうと、「手元の動かせる現預金」の確保ということにめどを立てないと、他には何も考えられない、その心理的余裕がない、という状況になります。月に2,3億の支払があるのに、12月末の手元資金残予測が150万円!という局面に立ったことあるのですが、もうこんなのはっきり言って誤差の範囲です。「どっかから1000万円、いや500万円でいいから持ってこないと・・・」と4週間前から本当にそれだけ、いやそれすらも呪文のように唱えているだけで、もう合理的で具体的な行動が取れなくなってしまっているといった方が正確かもしれません。小売店の時には、おつり用資金を10店舗の店長にお願いしてすこしづつお借りして支払いしたこともあります。そういう「経営」のリアリティを身をもって体験してきて、そしてそれを防ぐすべを知っているというのが実は弊社の一番の希少性のある資源であるのかもしれません。
そうした「BSの危機」はなぜ起きるのか?というと、業績とその周辺の信頼性などの問題から銀行が「これ以上は貸せない」「少し貸し出しを縮小したい」と言い出すことが直接のトリガーになります。もちろん、伏線はその前にお互いにいろいろあり、信頼を損ねるような事態があってのことで財務担当は気づいているのですが、経営陣全般としてはリスクを過少評価する傾向にあります。それは、多くの場合取引銀行は複数あるので、「一つがだめならば他に当たればよい」と代替選択肢を確保しているつもりになっているからです。しかし、この目論見は多くの場合外れます。都銀、地銀の多くは、同じような判断基準、審査基準を持っている(それは一時期は金融庁が指導したことでもあるし、現在はデータ管理と分析手法が発達し同じような結論が得られるようになっているから)からです。信用金庫、信用組合ではそれでも実情を踏まえた判断をしてくれる場合もありますが、銀行の場合はもう一つ、「資金(融資)の使途」がかなり限られるという制約条件があります。基本的には、「一時的な運転資金」か「生産等の設備投資資金」またはそれに類するものの資金供与を行うのが銀行の役割であり、これ以外の臨時的、突発的な資金需要に柔軟対応する、という役割は実は銀行は最初から担う存在ではないのです。
それだけ「銀行」という存在は、厳格なもの、公的なものと社会的に見られていて、損失を発生しないようなルールが厳格に敷かれている、だからこそ比較的低利で比較的大きな金額を貸し出すことができるわけです。
しかし、実際に起きる問題はそれで済むものだけではありません。窮地に陥った企業が一時的に資金を必要とするが、銀行を頼れない状況(そう、こうなると銀行は「リスクがある」という判断をしがちですし、企業は通常使途ではない資金需要が発生しがち)は時々起こります。こ宇したときに利用できる方法としては、純粋な事業融資、動産担保融資、不動産担保融資などがあり、それぞれ「ノンバンク」と呼ばれる専門の金融機関が取り組みを行っています。そして、事業融資は担保がない分、利率は高くなりがちですし、動産担保は健全な在庫や売掛金等が十分にある状況でないと利用できませんし、その動産が動産であるが故に長期の資金とはなりえません。その点、今回は、不動産担保融資を行っている会社の幹部の方にお会いして特徴をいろいろ教わってきたのですが、不動産担保融資は、銀行ほどではないが、比較的低い利率で比較的長期の資金を調達することが可能という特徴があります。しかも、銀行ほど使途の制約は厳しくありません。(もちろん、融資先がコンプライアンス上の問題がないなどの当然の審査は存在しています。)
私は、このようなケースではすでに銀行は不動産を担保に取っているであろうから、不動産担保融資は有効に機能しないのではないか?と思っていました。しかし、銀行と専門会社とでは評価基準が相違し、専門会社の方が時価で評価する分より高く評価する場合があり融資が可能な場合もあるそうです。また、銀行融資を専門会社がその担保力の見極め力を生かして保証する形とし、専門会社から直接借りるより低利で借りる形をあっせんすることもできるということでしたできるということでした。審査についても銀行の稟議のような慎重(はっきり言うと遅い)な検討ではなく、かなりスピーディに判断が行われ、また、数年程度の長期融資が可能という特徴があります。また、対象の不動産の年次や建築基準法上の状況なども銀行では審査に影響しますが、専門会社では、「市場での流通可能性」を基準に評価を行うため、これらが理由で融資できないということはないということでした。
もちろん、通常時の借り入れ金利は銀行よりは高いので、長期の事業資金の借り入れという用途には向かないのですが、先ほどの例でいうと、「銀行とは異なる審査基準、行動パターンを持っている」が「担保力をきちんと見積もっているという点が確保できているので、金利は他のノンバンク融資よりも低く、長期的な活用が可能」です。私が今まで見てきた事案の中でも、銀行対策に苦慮してなんとか切り抜けてきたようなものもあるのですが、その際にこの方法を知っていたら、選択肢は広がったな、と思うものはあります。
資本金と銀行回りの実際の「しのぎ」には相当の経験を持っているつもりでしたし、ABL(動産担保)も知識を持っていたつもりでした。しかし、日本での「不動産」の信用力を考えれば、このような手法は、特定の局面において、企業が比較的安全に活用しうるものであるということがわかりました。そういうわけで、私もファイナンス手法の勉強になった、という感じがありましたのでこの方法の簡単なご紹介をさせていただきました。このブログは、アフィリエイト的なことはしない、という方針でやっていますので、ここでのサービス会社名の記載は行わないこととしますが、関心のある方は、ご紹介は可能です。
なお、企業、または経営者の方が不動産を正規に所有していないともちろん、この方法は使用できません。