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新年来~新年来♪ 春節前 春節中

中国の旧正月「春節」については、このシリーズで時々ご紹介してきましたが、今年は(旧暦のため毎年少しずつずれる)2月5日が旧暦のお正月。あと1週間となりました。そこで今週と来週は現地法人での春節の風景を2回に分けてお送りします。

 

春節の前日(大晦日)から1週間は中国では銀行も官公庁も皆お休みです。私が総経理をしていた会社はこの1週間だけだったのですが、実際には、その2週間前から「春運」と呼ばれる日本の10倍以上の規模での帰省ラッシュが始まっています。だんだん官公庁も係員が休んで用をなさなくなっていき、それが春節後にも交代で行われるので、春節を挟んで3,4週間は業務の手続き類は遅延必至です。特に官公庁や銀行員などの「エリート」、それも「偉い人」が長く安く傾向があり、いろいろな許認可や決済が止まります。

輸出通関も一応動いてはいるのですが、貨物量が集中することもあって遅れ気味となり、現地法人ではこの時期の発送は何度も情報を確認して問題が発生していないかを確認しながらひやひやしています。

 

◆春運

高速鉄道が日本の8倍以上の距離(最高速度はかなりの区間で時速300キロで日本よりも速い)になり主要都市間を網羅している中国ですが、この高速鉄道は一般の労働者にとってはまだちと高いのと、この時期は結局全然容量不足ということもあり、一般の列車、そして主要駅前の長距離バスターミナルは未明からものすごい人の波が押し寄せています。なぜか皆、派手なチェック柄のビニールのバックに手土産や荷物を満載しています。地方から都市に働きに出てきている人にとっては、実態はしがない労働者であっても、「大都会の大企業でリーダーとして活躍する自分」として故郷に錦を飾るときなのです。

列車は比較的安価な寝台列車があり、そこには、少しお金を出すといわゆるクシェットを利用することができます。クシェットは地方採用の時に私も何度か利用しましたが、ヨーロッパ並みに清潔ですし快適です。ただし、一般席は通路に鶏の足の骨(食べた後床に吐き出す)やピスタチオの殻が散乱していてひどいものです。これは新幹線でも同じでしてひどいものです。そして、新幹線、特急は全席指定のはずなのですが、地方出身者を中心にそれを守る必要がある、ということが分かっておらず、都市住民の良識派との間でもめ事になっている光景をよく見ます。中国でも、日本以上に都会人と地方人の意識の分断と衝突があるのです。

 

バスもこの時期は他省の都市行のバスを普段よりもたくさん見ます。大臨時増発されていて、四川省方面向けでは20時間以上かかるものもざらにあります。もっとも最近は非常に立派な高速道路が全国に整備されており(多くは110キロ制限で、道幅も日本よりも広く立派です。)初めて中国にいった20年前に比べて所要時間が半減した地域もたくさんあります。車両はそれほど立派ではないものも多いのですが、「寝台バス」という、2段に鉄パイプのベッドが進行方向向きに設置されているバスを時々見かけます。なんだかカーブで横に振られて落ちそうで怖いです。

「中国人は社会性がなく非常識」という非難を時々見ますが、都会で育った若者は意外にマナーが良い人が多いのです。だめなのは、文革世代(今でいう55歳以上)と地方住民であり、日本以上に都会と田舎の意識差が大きいのです。この時期に主要駅(私は広州東駅というこのメッカに春節前に言ったことがあるのですが)にいくと、「見渡す限り、びっしりと人に埋め尽くされている」という(誇張ではなく本当に)光景を見ることができます。

それにしても座席の予約があっても、なぜ何時間も前から駅に詰めるのでしょう?ダイヤはたしかにあまり当てにならないんですが、突然列車がなくなる、というわけでもないんです。ある同僚は、「皆鉄道会社を信用していないから」と言っていました。切符があっても乗れない、列車が変わる、2重発行・・・昔はそんなことがよくあったので、駅でできるだけ前に進んでおかないとリスクをヘッジできない、というのが彼らの言い分のようです。そして、座席予約があっても、改札は通過できますが、座席に座れるとは限らないのは先ほどの紹介の通りです。

 

◆「紅包」お年玉

以前は大晦日は営業日でしたが、その日になると、日本でいうお年玉袋に相当する紅い紙袋を近くのスーパーでたくさん買ってきます。ここには、以前ご紹介の逆向きの福の時(福が到来する、と音が同じで「倒福」という)て、財務担当に一緒についてきてもらって、私財を2000千元(3万円!)10元、5元、2元、1元をそれぞれ300枚ほどに両替してもらいます。こういう便宜を支店長にはかってもらう関係性を維持するのも日頃の「外国人だけど時々挨拶に来て、日本茶くれる」というような関係性構築の賜物です。中国では老板(経営者、ご主人、というような意)が労働者にお年玉を上げる、という習慣があり、ボーナスも春節前に1か月分、2か月分というような形で既定されていることが多く、そのお金をものや現金で田舎の両親にもって帰って親孝行する、というのがこの時期の文化です。賞与は賞与でいくばくかは私の会社も出していたのですが、この落とし玉は別の理由があります。

実はこの時期私のいる会社は日本からの仕事をこの時期も請けざるを得ず、全社合わせて100人ほどは出勤してもらっていました。その人たちは時期をずらして帰省してもらうわけですが、これがなかなかに困難な人選作業でして、多くの人が断固拒否します。それほどまでにこの時期に帰って両親と正月を過ごす、ということは中国人の家族文化にとって重要なことなのです。しょうがないので、1:全期間3倍残業代(3が日は法定で3倍、他は土日の移動休みなので2倍が法定ですがそれを上回る)を出し、2:大晦日は私と副総経理が分担して同席して仕事後に近くのレストランで会食(費用は会社持ち)、3:その場でお年玉お渡し。という特典付きです。 お年玉はお金持ちは従業員に88元出すようですが(もっとお金持ちは188元)、私はそれは無理なので一人18元を100枚ぐらい袋に入れる作業をその前に会議室に籠ってしておいて渡します。なぜ8かというと、8は中国語で「バー」と言いますが、これが「発(ふぁー)」と音が近いことと形が末広がりで縁起がよい、とされているのです。そのため、お祝い事の金額は末尾が全部8です。

 

そういう苦労をして、その時期単体では会社としても赤字で操業しているし、日本側ではこうした風習に会社で支出することを良しとしてくれないため、個人的にも大変な負担をしています。そして、この時期、日本は普通に3月末の期末に向けた仕事のピーク期なので、無理ばかりを言ってきて、社員が少ないことを説明すると逆切れされます。

 

◆彼女が街に帰ってこない訳

私が総経理をしていた会社は外資系で製造業というわけでもない技能職だったのでそれほどひどくはないのですが、それでも年に2,3人は発生していたのが、春節が終わったあと連絡もなく深センに帰ってこない、という事態。工場系ではこれが昔は結構発生していまして、春節明けに大量に工員を追加採用する風景があちこちでみられました。会社に継続して安定して勤める、というような帰属意識が中国ではまだまだ希薄ですが、これは歴史的に改革開放路線の中で会社側も都合よく採用したり適当に解雇したり、ということが横行していて労働者との間で相互の信頼が損なわれている、ということが根底にあり一概に労働者のせいにはできない面があります。労働契約法が厳しく適用されるようになり、徐々に改善していくのだとは思います。

その「かえって来てくれなかった子」の理由を上司が電話して聞くと、実情は中国の家族感をとても強く感じるものが多くあります。多いのは、「親や兄弟から『地元で知り合いや偉い人の会社でいい仕事がある』と言われて、そこに勤めざるを得なくなった。」というものです。実情はともあれ、都会の外資系で、嘘でも「品質指導役をしている」とか言っているとこういうことになりがちです。また、親にしてみれば20前後の娘が都会で何をしているかわからない、というのは心配で手元に置いておきたくて、あらかじめ春節前に画策しているのでしょう。

また、何回かあったのが、「帰省したら、お見合いさせられて、結婚するように言われた」というもの。中国でも都会は「自由恋愛」が当たり前で、うちの社員もなんだか時々困った事態が起きていましたが、田舎に帰って、親にお見合いを勧められると、まだまだ「そういうもの」と思う人も多いのです。地方ではまだまだ20過ぎたら結婚して子供を産むもの、というような空気が根強くあります。ある時、「社員はそんなんで親の決めた相手といきなり結婚とか嫌じゃないのかな」と秘書さんに聞いたら、人それぞれとは思いますが、と前起きしつつ、「恋愛と違って結婚は、相手の家とか財産とかも重要な要素ですし、自分が知らない生活上の相性とか、経験のある親の意見を信頼する、という人もまだまだいるんですよ」ということを言っていました。ちなみに彼女は社内恋愛、社内結婚でした。

 

経済一辺倒の競争社会が繰り広げられる中国の大都会ですが、この時期には伝統的な儒教的家族感があちらこちらで顔を出します。

 

来週は、この時期の街中と観光地の様子などをご紹介しようと思います。

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