
つい最近出会った話なので、多少事実を脚色してお話します。真偽のほども現時点ではわかりません。ただ、ここには一般の人が飛びつく前に注意しないといけない要素がたくさん詰まっていたのでご紹介するものです。
ある方が、中国で20億円の新規事業への投資を行いたく融資を募っている、ということをおしゃっていました。それを聞きつけた私、中国系ファンドや現地とのパイプの深いコンサルタント会社ともお付き合いがあるので、中国ネタは任せてください、と言わんばかりに首を突っ込んでお話を聞かせてもらいました。その方の行われる事業と最初は勘違いしていたのですが、概要はこんな感じでした。
(中国の会社の資金集め、というスキームだったのです)
結果からいうと、この案件については、ご相談先も私もお断りしました。もしかしたら大儲けのチャンスを逃したかもしれません。これをウソとかインチキとか断定しているわけではないのですが、事実を確認し制御することは短期間でこれから関係を構築してやるのはかなり難しい、というのが私の判断でした。
■私のチェックポイント
細かく突っ込むといろいろな指摘事項はあるのですが、たとえばこの話を聴いて私が作成したチェックリストは次のようなものです。日本とはだいぶ違っているのがわかっていただけると思います。
【事業を制御する方法】
以上のようなチェックポイントに対し、特に気になるのは、「なぜ日本なのか?」です。このことは相手が本音を言わない限り検証できませんが、中国では歴史的に事業資金として集めたお金を投機に流用してそれを溶かしてしまって逮捕される、夜逃げする、という事件がたくさん起きています。(とここまで書いて思ったのですが、これは日本でもありますね)そのうち、不動産や株式への投機はいろいろな規制があるものの、一定の資格を有するものには投資ができる余地があります。しかし、たとえば「仮想通貨」など、一切の扱いが禁じられているにもかかわらず地下化しているものもあります。(中国では仮想通貨関連は取引所も、マイニングも、保有物の換金も政府により禁止されています。)仮想通貨については、地下化したうえで相当広範囲で扱われているような噂も聞きます。
このような流用に対する疑いが上の事項を一個一個細かくチェックしていけば完全に払しょくできるならば、これらのチェックに私はとりかかったと思うのですが、私の中国感覚ではこれらの書類チェックをすべてクリアできたとしてもそれでもまだ、懸念は持たざるを得ない、と考えています。
これは中国人だからというのではありません。たとえばその事業家が長年の知り合いでどのような知識と人脈を持ち、どのようなビジネス行動をとってきた人物なのかを知っていればどの程度彼を信用していいかはわかりそうなものです。あるいは、この会社に合弁として参画し、その中で現地に役員と金庫番をきちんと確保し銀行印を自分で確保して定期的にチェックに行くようなことができれば、この「流用の可能性」を抑制することができると思います。しかし、話を聴く限り、「融資」スキームを希望しており、この「リスク抑制」を有効に機能させることはかなり難しい状況だろう、というのが私の判断でした。この部分を機能させるように事業を組み替えるためには相手方とのそもそもの信頼関係が必要であり、そこは短期で容易に構築できるものではありません。
今回は実際にあった、ある実例を一部事実を変えて秘匿してご説明しました。やっているチェックは実は日本向けの投資でも同じことなのですが、リスク判断の部分は中国の知識がある程度必要になる、ということはお分かりいただけると思います。中国は依然日本に比べてはるかに大きな成長をしており、投資により大きなリターンを得ている事業家がたくさんいる「チャレンジの国」です。中国に進出して大きな果実を得よう、というチャレンジは私もしたいし応援したいと思っています。しかし、その中には、「とんでも」ない事例が多くの事例の中に潜んでいて多くの中国人が騙されていることがニュースになるのもまた事実です。
一つ言えるのは、投資だけして監視抑制をせずに放置している、というような形での中国での事業展開はダメであり、やるならば営業ももちろん、お金の監視も自力でキチンとやれる体制でなければ思わぬ落とし穴がある、ということです。それは最初の段階で起きるかもしれないし、一年は通常に事業をしていたのに、信用して人員を引き上げるのを待って流用流出が起きることもあります。そのプロジェクトスパンの間、ずっと現地で対応しつづける覚悟がなければ中国にお金を投下するべきではない、と私は考えています。今回の例でいえば、限られた時間の中でご相談者様の中国関連のスキルとことである、と手先との関係性の中でリスクを除去した形で進めることは相当難易度が高いことである、というのが結論です。
大胆さの前には慎重な検討、チェックが必要です。