朝夕はめっきり秋らしくなりました。この風の涼しさに思い出したのは、税務調査のこと。税務署や国税庁はなぜか6月に人事異動があり、7~8月に調査の連絡がきて、9月~10月に調査がくるというパターンが多いのです。逆にこれ以外の時期に突然来るのは怪しまれているのかもしれません。
私は税務上の大企業のグループに勤めていた時期が長いので、資本金の関係で一定期間ごとに地域の税務署ではなく国税庁より調査が来ていました。一度は移転価格税制の関連で中国にまで「勉強」と称して来られたこともあります。数度の対応からだいたいの要領は得ているつもりなのですが、1度だけ、小さなぐちゃぐちゃの会社を分割吸収で買収した形でできた会社を担当していて、最初の検査を受けたときは大ピンチ(と最初から分かっていた)を迎えてしまいました。
説明力という観点からはもうないに等しく、しかも過去のことを分かる人がほぼいない状況で、調査に来られた4名ほどに首を差し出す形になりました。インチキしたというのではないのですが、上場企業はルール通り処理し、それを筋道立てて説明できるようにしてあるはず、という国税の方たちの普段の常識に背く事態に、ドアの向こうで検査官の興奮が手に取るようにわかりました。しどろもどろしてもしょうがないので、「こういうわけで過去の状況が現時点で十分わかっておりません。」と堂々と謝るしかない状態です。
そんなとき、助けてくださったのが、親会社の税務顧問をしていただいていた税理士の先生。その時点でもう60歳を超えていて税理士歴も15年になろうかという方でしたが、この方、税務署の出身でした、
税理士は、会計を勉強されて会計士事務所や税理士事務所で実務を積みながら多数の科目に合格した「理論家」の先生のほか、税務署に一定期間お勤めになった方が資格をとって開業される「実務派」の先生も多数おられます。このT先生に歌舞伎町や錦糸町のパブに連れていかれて朝までお付き合いさせていただいて先生の歌を手が痛くなるまで合いの手を打っていたのですが、具体的処理を相談すると、調べて後で回答する(考えてみれば、これで全然問題なかったわけですが)とのことばかりで、大した顧問料を支払えていなかったのですが、「大丈夫かなあ」と正直その時までは思っていました。
ところが、先生に調査立ち合いにお越しいただいて、起こっている状況について先生にご説明すると、先生はいつもの優しい感じで「うんうん、わかった。しょうがねいわ。まだ一緒になって間もないんだもん。これからちゃんとしていくんだから」と言ってくれたかと思うと、「お前ら、ちょっと席外してろ」と言って、税務署の方々に、結構大声(というのは控えめな言い方で、もっというと怒声)で「ダメな会社を救済合併して、これから大きくなろう、ってんだから過去の不手際はしょうがねえだろ~うんぬんかんぬん」と言ってくれたのです。もちろん、修正しなければならないものは修正しますし、不明点は調査するのですが落としどころは意地悪ではない、納得のいくところとなり、この時の先生の「親心」には大変助けられました。
最近、起業するにあたり、自分よりも若い税理士先生にご相談に伺いました。以前の会社でもお世話になっていたのですが、起業するかどうか迷いがある段階で先生にお会いしたら、先生自身も別に事業に取り組まれていてその体験談をお話しいただき、自分で事業を行う上での注意点とともに、「応援する」と言っていただきました。私が独立に踏み切れたのは、先生の言葉と先生自身が社会的意義のある事業の起業家の先輩として頑張られている姿を見てきて憧れがあったからです。
税務は理論も複雑で毎年制度が追加されたり変更されたりします。大まかなところは私も会社員時も今も追いかけていますが、いざ実務となるとわからないことも多く専門家に確認しないとわからない、ということも多いです。ただ、そうした理論だけでなく、会社のリスクテイクをこうして応援してくれる税理士さんに出会えたことは私の実務家としての人生でとても幸運なことでした。この先生は理論家でしたが、自信でも異業種を起業され、借入から雇用から宣伝まで自分でやられているので、推奨案にすべて裏付けがあるのです。
皆さんのお世話になっている先生はどうですか?情報提供や経営指導、あるいはメンターとして、そんな先生に出会えていますか?先生の大活躍のあと、先生と飲みに行った夕方の歓楽街を思い出しました。