私がこの仕事を自分でやる大きな動機の一つが、自分が何度もM&Aの「買われた側」の調整係をやったがなかなかいい結果を生まなかった、ということです。
何とかうまくマージしようと持前の計画力でち密な計画を立て、「買った側」の現場の責任者の方に調整打ち合わせの依頼をするのに、「買った側」は今まで通りのやり方を続け、「買われた側」はいろんなことを買った側に禁止されるが、ではどうするかは何も指示されない。結局うまくいかず人が辞めていき、売上も1社の時と大して変わらない結果。後に残されるのは膨大な財務上の「のれん」。それを減損するかどうかめぐって、また「買われた側」に責任が押し付けられる。
そんな場面の当事者に何度もなっていると、本当に意思をもって買収したのか?疑わしくなったことすらあります。そのうち一度は敵対的買収だったため、買った側の偉い人に「生産現場以外は実は全部いらない」と言われて殴りかかりそうになったこともあります。買われた側の悲哀、というのは私の勤め人時代でも、今でも、「もっと組織全体の人と知識を生かしたい」という強い動機になっています。
買収慣れしている会社ならばまだましで人と技術と設備を有効活用する作戦をあらかじめ考えるのだと思うのですが(その場に居合わせたことはないので、期待だけですが)、私が見たケースはすべて、少なくともその当事者は初めてであり、しかも統合作業に時間や労力を投入できるような立場を用意された人ではありませんでした。その中で経営陣から買収するという結論が振ってくるが、何を準備すればよいかわからないまま期日が来て、そのあとも顔合わせをして、幹部同士飲みにケーションは図るが、仕事は通常業務に追われているだけ。何をしていいのかわからないので、下に指示も特にしない、というのがだいたいの失敗パターンでした。
しかも、その買った側の当事者は、買収の意図も、経営的にそれを生かしていくという視点もない「営業部長」的な視座で物事を考えるので、買われた側にも「収益が上がっていない」「やり方をこっちに合わせたほうがうまくいく」と特に考えもせずに言うのです。
私たちはこうした経験からこんな進め方をしています。
まず、双方の経営の意図、目指す完成像とその時期を明確化します。そんな当たり前のことを・・・と思うかもしれませんが、私が経験してきたすべてのプロジェクトにはこれがありませんでした。それが中小企業(といっても上場企業グループですが)の現実なのです。
そのうえで、私自身もプロジェクトの全体計画PERTをもちいて作成し、同時にそれを誰がいつまでにやるのか?を無理がない範囲で割り振ります。ただし、クリティカルパスについては、基本私がすべて作業して、当事者に確認する形をとります。
統合段階からできれば、先行チームは机を並べる方がよいです。そして、その近くには、「何のための合流なのか?」を掲示してもらい、息詰まったときにはそれを指さします。
「担当者をマージ作業に専従させてください」、はなかなか通らないのが中小企業の実情だと思っていますので、兼任でよいので毎日一定時間(それも30分~2時間)を強制的に割り振ってもらい毎日進捗を確認する形を特にスタート段階では取ります。
その中でだいたい、若い柔軟性のある人がリーダーとして頭角を現し、相手側からも信頼されて行き、やがては私もいらなくなる。
こんな形を私たちは描いています。