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オープンイノベーションの現実と対策②リーダーはどこにいる?

前回から、オープンイノベーションの現実と対策と題して、連載しています。前回の記事はこちらで、大企業の「新規事業開発」がなぜうまくいかないのか?とその対策案を述べました。

その中で骨子にあったのが、「新規事業にチェレンジするリーダーを5年で100人育成しましょう」ということなのですが、具体的にはどんな人物が必要で、それはどうすれば得られるのでしょうか?というのが今回のテーマです。

贅沢を言うときりがありませんが、それでも、よくある、「最低限これが出来ないと困る」ということがいくつかあります。そして、それは知識で補える部分もなくはないのですが、大部分が書籍では身につかない、ある種の気質の人が実体験から得るという性質のものです。

こんな人は選んではいけない

こんなことができない人をリーダーに選任すると、選んだ側がおんぶにだっこで面倒を見されられることになります。

  • エクセルで事業計画を作り、収支とキャッシュフローの見込みをたて、実績と比較して差異分析をできる。…大企業に長く務める人は、意外にもやったことがない、という人が沢山います。また、知識としては知っていても、実際に自分が産み落としたデータとしてそれを見た経験がない、費用を減らす、他部に負担してもらう指示や交渉を具体的にしたことがないという人も多くいます。
  • 人に具体的に細かく指示をすること。…いつまでも話し合いをしていて、自主的行動を期待している、という態度を取る「賢い人」が意外なほど多いのですが、新規事業にそんな時間的余裕はありません。業績の責任者は自分であるのですから、意見は一通り聞いて考えても、比較的短時間で自分が信ずる道を決め、それをメンバーにもはっきり言明してやらせる。「やれ!」というということが悪いことであると思っている人が大企業の中で賢いが、業績責任を明確に追わず部下もそれほどいなかったという層を中心に沢山いるのです。
  • 一日、半日単位で行動を締め改善するせっかちさ…大企業では1週間、1か月の単位でPDCAが周ります。人事評価は実質1年に一度というところも多くあります。そのスピードでは新規事業は立ち上がりません。「一日一日が勝負」と毎日何かしらの前進をしなければ悔しがるような人でなければ新規事業には向きません。これは大企業でも主力部門のエース部長の部署ではこういう苛烈さがあるところもありますが、そうではない空気に馴れてしまった人もたくさんいるようです。
  • 外に出て人に会いに行く、を週に10は自主的にどんどん進める外交性…新規事業を突き詰めると、結局社内にある資源では不十分という箇所が出てきます。大企業の新規事業の悪いところはそこで、「社内であるもので間に合わせる」ということが正解視されるところです。昔はそれでも選ぶ側のリテラシーが低くブランドに盲従した傾向があり、売れてしまったのですが、今は大企業(そのサービスの多くは高い)であってもそれでは、百花繚乱で低価格サービスが沢山ある中では選ばれません。マーケットでターゲットにする層を明確にし、その「今、実際にそこにある具体的な問題」を直接解決するものであると納得してもらえないと、いかに御託を並べても売れないのです。そうなると、顧客か、サービスのパーツかが足りなくなりそれを補う必要があります。それを自社開発していた、あるいはそれが当然だと考えていたのが従来の大企業ですが、自社のコア(これについては次回詳しく述べます)以外は他から持ってくることでその場で解決してしまおう、というのが今の新規事業開発の基本です。そのためには、情報交換、商談をどんどん進める必要がありますが、アポ先にカタログを説明することはできても、これをできる人、というのは大企業では結構少ないように思います。

このように、事業家魂的なものを持っている人、とでもいえばよいのでしょうか?自分で自分の事業を何とか形にしてやろうと人の目を気にせず猪突猛進していしまうが、「社外に対して」社交的でもある人。そうでない人を選ぶと大変苦労します。

そんな人はどこにいるのか?

昔はそうでもなかったのだと思うのですが、今の大企業システムは、リスクを回避し、情報を制限し、失敗をしないことが得策、という組織になってしまっています。特にこの20年は、個人情報保護法、内部統制、コンプライアンス…と安全を重視する流れが強まってきました。これらは時代の要請でもあったわけですが、そこに日本特有の出る杭は打たれる論、異質なものを排除する体質が加わり、大企業の「内向き」「社内政治に終始」「何もしない方が安全」という体質がイノベーションを困難なものにしてしまったのだと私は考えています。

大企業は今やリーダーを輩出する、ということには向かない組織になってしまっているのです。逆に、こうしたリーダーに向いている人は、打たれないほどに飛び出て目立っているエースになっているか、大企業を辞めてチャレンジの場を自ら選んでいることが多くあります。

それでは、こうしたリーダー層はどこにいるのでしょうか?

一つは入って間もないころから特性を持つ人をピックアップして新規事業要員として育成するというバッチをつけてしまうということです。このような性質を持つ人は、適性検査でもある程度見えますし、新卒入社時にはそれなりの割合でいるものです。ただし、結婚、加齢などの要因でそうではなくなり安定志向に変化するという人もたくさんいます。

もう一つは、前回述べたようにこうしたことを専門に行う部署に投入して実地で鍛え、使えそうな人材を引き上げるということです。そして、一度目よりは二度目の方がはるかに上手にできるのですから、本人がへこたれない限り二度、三度とチャレンジさせることが必要です。それは、大組織のリーダーの選抜とはやや異なる性質が(本当は一致しているべきだとも思うのですが)あるという現実に対応する必要があるのだと考えます。

三番目は、社外でこのようなことに取り組んできた人、起業経験者や中小企業で事業全体を任された経験のある異分子を自社に取り込む、ということです。その取り込み方には、社員として取り込む、という方法のほかに、協業関係の中で取り込む、という方法もあります。というのも、大企業社員であることをさほど魅力と思わない層がこの層には多く、むしろ「対等な協業」を望むことが多くあるからです。

これらの方法を組み合わせつつ~つまり、社内で10年選手から選抜、ということはそれほど多くの期待をかけずに、それよりも若い層や社外からの登用も併用しつつ~100人の候補者を集めていく、ということが今、できる「リーダーの見つけ方」となってしまっているのだと思います。

リーダーが見つかったらどうやって立ち上げるのか?ということが次の課題になるわけですが、その辺は回を改めて述べたいと思います。やっと本題、コアコンピタンスとオープンイノベーションの話となります。

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