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人件費で簡単に減らせる部分は?

まもなく、10月。多くの3月決算の会社では半期を終えることとなります。このタイミングでの中途入社が多くなる季節でもあります。決算詰めや経営方針発表などもある中で、この新入社員研修は時間も取られ、成果が上がっているのかないのかわからない、という状況にあるように見えます。

タイトルの「人件費で簡単に減らせる部分は?」というのは、答えを書くと、この新規採用人員の戦力化までの所要時間、そして周囲の投下時間を指しています。会社によって違いがあるとは思いますが、この費用は思った以上に大きいものです。

たとえば、50人の成長過程の会社で、2部門で4月、7月、10月、1月に各1名ずつ、計8名を採用したとしましょう。

もちろん、ちゃんとした遂行力が担保された事業計画があり、金融機関に十分な説明力が発揮され借入が実現できれば、4月にこの8人を一気に採用すれば、かなりの部分を共通化できます。私もお客様に、「本当に一人ずつである必要があるのですか?一遍に採用した方が戦力化は効率的です。」ということを言います。しかし、中小企業においてこれはなかなか持って難しいことです。一番難しいことは条件に合致する人物が一気に複数名見つかることがめったにない、ということですし、一気に増やして本当に軌道に乗せきれるのか不安(そして、それは決して杞憂ではなく往々にして現実となる)なのが経営者のホンネでもあります。そのために、中小企業の採用は、特に時期の定めもなく、随時1,2名ずつになってしまいがちなのです。

とすると、仮に、この8人が戦力化して売上を自力で上げられるようになるための期間が仮に2か月、その指導役がこれも8人が労力の1か月目は30%、2か月目は15%必要を新人指導に投入するとすると、19.6人月のコストがここに投下されることになります。これは、50人→58人に成長するこの会社の人件費の3%に当たり、金額に換算すると、平均給与30万円と仮定すると、社会保険料や賞与引当なども含めると約800万円、一人当たり100万円(ちなみに採用経費もエージェント経由ですと100万円以上かかっているはずです。)

多くの会社では、「中途採用は即戦力」と言いながら、実際には最初の3か月ぐらいは、先輩についてトークの単語を覚え、業界の内情を知り、ユーザーの現場を知るという「知識を蓄える」こと、そしてそれがある程度たまってきたら、それをアウトプットすることに充てられます。また、営業担当で訪問先の開拓等も自分で行わなくてはならない場合は、そこからさらにあいさつ回りやら、慣れない開拓訪問が行われます。このような作業を、人事分野では、「オンボーディング」といい、最近になって、この戦力化プロセスを巧みにこなすことの重要性が注目されるようになりました。でも、いちいち意味がすぐに通じないカタカナにしなくてもいいじゃないかとは思うんです。早期戦力化策でいいじゃないですか。

さて、この「早期戦力化」策ですが、多くのケースで実は、かなりの大幅な短縮が可能です。ただし、それには相当の準備が必要です。それが出来れば苦労しないよ、という声も聞こえてきそうですが、私が実際に用いていた方法論も簡単ではありますが、ご紹介します。

1日目に何をしていますか?

新規で中途で入社した人を見ていると、周りが自分の仕事に忙しくしていて、面倒を見切れず、やることなくパソコンで関連資料を閲覧しながら待っている、という場面をどの会社でもよく見ます。口述伝承だとどうしてもこうなります。1日目に伝えることをまず明確化し、それを資料に落としましょう。

  • 会社全体の事業理念やミッション、人材方針など
  • 事業部のミッション
  • 会社と事業部の中期目標
  • 勤務制度と勤怠管理の具体策
  • 給与の支払
  • 人事評価制度の説明
  • 経費、交通費の事前、清算申請制度
  • 規程類のある場所
  • 情報管理・セキュリティルールと会社の情報サーバー
  • メールの設定方法とSNS規程類
  • その他の重要なコンプライアンス事項(業法、インサイダー等)

この辺まではできている会社もあるでしょう。この辺は一度作れば使い回しが聞きますし、それほど内容量が多くないものです。事業部のミッションや中期目標は、社員への説明が年に1,2度行われているはずであり(?)、その資料を流用すればよいのです。

問題はその次です。たとえば営業部門ではこのようなことが必要で、最初の数日をこれに投じていることが多いようです。

  • 商品概要(主たるターゲット市場、既存顧客、コスト構造、競合比較、顧客に与えることのできる便益の試算例…)
  • 商品を販売するにあたって、踏まえるべき法的規制、業界ルールや品質基準
  • 商品を販売するにあたって知っておくべき顧客の該当する業務内容や生活様式等顧客の情報
  • 商品を販売するにあたって知っておくべき、顧客の意思決定の構造や特徴
  • 商品説明の標準的なトークプランと、時間配分例
  • 商品の認知度と、実施、計画している認知向上施策
  • 商品の販売モデルの仮説と平均パラメーター
  • 現在使用している販促物、資料の場所
  • 顧客への標準提案書(テンプレート)

こうしたことは、OJTで1,2か月かけて習得する、というパターンが特に中小企業の場合多いようですが、本当にそれが最善でしょうか?おそらくは、なんとなく頭の中にある「知識・情報」をこのように箇条書きにできていないからこそ、口述伝承になっているのであり、その実、このように記載してみると実はかなりの部分が明文化できるものです。そして、これらを読んで一通り理解している状態で、補足説明をする時間を一日一時間設ければよいし、その前に質問事項をメールかSlackなどでまとめて投げさせておけばもっと効率化が可能です。そこそこちゃんとした人物を採用できていればここまで1日で勉強し、2日目にテスト、質疑応答に入れるはずです。

人間、勉強のできる出来ないは人によって違うよりも、むしろその時期によって大きな差があります。転職して最初の数日というのは、実はものすごく吸収能力が高まっている時期です。この時期に、「教科書丸暗記」的な勢いで全部を与えてしまえばよいです。

では、こんなものはどうでしょう?

  • 事業内会議体と準備すべきこと、終わったあとすべきこと
  • PDCAサイクルのチェックフォーマットとチェックサイクル
  • 成果確認の周期と報告に必要なこと(数値)、不要なこと

これも明文化できていない会社が多い。明文化し、固定しないから定着しないのです。現代においては、企業も人の出入りがかなり激しくなっており、3年もすると退職と異動で半分以上の人が入れ替わるという例も珍しくありません。入って来るタイミングで「事業部のルール」として「あるべき姿」を定義してそれを定期的にチェックする仕組みを組み込んでしまえば、3年で組織の体質は変えられるのです。

また、これらに対しては、定着度を確認する「テスト」を行うのも良い方法だと思います。本格的にやろうと思うとwebでやろうとか、問題パターンをたくさん用意するか、とか大変ですが、別にエクセルで印刷で良いと思います。答え丸覚えであったとしても、覚えていないよりはだいぶましであり、テストに85点以上取るまで現場に投入しない。猶予期間は1週間、というようなやり方で動機付け、というか強制力を働かせるほうが、必死になると思います。そうして、共通の知識基盤を構築していくのです。

関連の書籍がある場合、最初は必死に読みますが、3か月もすると同じ人でも読まなくなります。最初の1週間で読みなさい、という指示を具体的に与える方がよいのです。

項目とテキストは誰が作るのか?

そりゃそうだな?と思っていただけたら、実際これをどうやって実現するか?を考えましょう。具体的には、テキストの項目はどうやって決めるか?とその内容は誰が作るかという問題です。

まず、項目を決めるのは少し業務経験とセンスが必要です。うまくできるひととできない人がいます。ただ、今回示したサンプルは比較的汎用性があると思いますので、この辺で開始して、不足しているところがやっているうちに具体的にわかって来たらそれを追加していけばよいと思います。

ただし、このうち、いくつか、特に経営管理に関する部分(ビジョン、PDCA…)は新人に教える前に会社としてないよ、という中小企業もあることでしょう。これは新人に限らず、「効率的に人を走らせる」ために便利なツールです。そして、こういう時に、「あった方がいいな」という実感を持つものです。もちろん、担当者が付け焼刃的に作成できるものではありませんが、優先度は高いと弊社は考えていますし、この辺からお手伝いしていきたいと思っています。

項目が決まれば、テキストを作ることになりますが、これは最初に、「中小企業では五月雨的に人が入って来る」ということを逆に利用するのが良いと思います。つまり、最初に入ってきた人に、その人のオンボーディング課題として作ってもらうのです。もちろん、それを教えるのは、従来の口述伝承方式で先輩が行います。

2人目が入ってきたときにも、それをベースにしながらもさらに口述伝承で加筆してもらえばだいたい完成です。それぞれの過程で教える側も1,2人でレビューして加筆すればよいです。売り物にするわけではないので、文章ずらずらの必要もないし、図表も装飾が綺麗である必要もないです。ただし、その際も、内容はともかく、レジュメ、あるいは目次にあたる部分は教える側があらかじめ作って与えることが適当です。そして、この作業をやらせると、その人の頭の中がどの程度構造的に整理されているか、ということが如実に分かります。これが作成できる人は比較的早期にオンボーディングできる人であり、できない人は、なかなか上達しない人です。

というわけで今回は、中小企業でもできるオンボーディング改善で採用人員当たり100万円の経費節減を実現しよう、というお話でした。

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