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「予算」に習熟する①~予算といってもいろいろありますが~

全く個人的な感慨なのですが、お盆を終えたこの時期は、私にとっては「予算」の印象が強くあります。というのも20代半ばの家電店本社でパソコン関連のマーチャンダイザーに異動した最初の夏に、2日ぐらいかけて会議室で缶詰になり予算を作る作業に参加したことがとても印象深かったからです。

この時期の小売業は、夏のボーナス商戦とお盆商戦を終え、チラシも入れずに「夏枯れ」の時期を迎えます。当時は9月になると観光・運動会シーズンキャンペーンをムービーコーナーなどでは展開していましたが、今では運動会も過半数が5月ですので、それを変わってしまったのでしょう。とにかく当時も8月後半は売り場も本部も静観モードでした。そんな閑散期であること、そして、年末商戦の大量仕入れと、10月~11月の連続的な店舗改装時の売り場拡大とセールに向けて商品と人員の確保育成の作戦を練るのにちょうど良い時期でした。とはいっても、駆け出しの私は部長と先輩の議論を反芻しながら、暗算係をひたすらやっているだけだったのですが。

その後、20年以上の間に、「予算」と名の付くものは、10社以上で50回以上作っており、フォーマットを作り、制作スケジュールを誘導し、テキストを作るということを続けてきました。それでもやはり、「人にやらせる」のは難しいし、さらに「作った予算を理解させる」のはもっと難しいものです。詳細は後述するとして、現場で売る立場、作る立場の人にとっては、「限界まで売る」「限界まで経費削減する」ことは予算の有無に関わらず変わりがないことであり、予算があるから売れるようになるわけでもないし、お金が使えるようになるわけでもないからです。そんな彼らにどう理解させ、そして行動に反映させればよいのか?というのが今週のシリーズのテーマです。

最初になぜ、予算を作ること、運用することが難しいか?というところには、組織の根源的な問題があります。それは、「最も売る人が統制を好まない、嫌がる」、そして、「成績下位者は形だけ従うが意味は理解していない」という問題です。これに対しては、前者に対しては、「自分のやり方で売りまくっていただいて結構。でも教育には一部協力してね」という放任で臨むことが一般解です。賢めの管理者には、「ルールに従わないエースにイライラする」という事例が散見されますが、その「ルールに従わないエース」が全体の1割未満であれば、「数字しか言わない」という方が、「角を矯めて牛を殺す」になりにくいでしょう。でも、無視はダメです。全体としてうまく行き始めたら、彼も関心を持つはずですから、心の余裕をもって「彼は後回しでとりあえず、売るのに頑張ってもらう」とするのがお互いによいのです。

後者の「意味が理解できない」は必ず組織に2,3割はいます。気を付けなくてはならないのは、「若い人ほど理解できない」は傾向としては正しくなく一定以上の学力と集中力がある層は救い上げることができる可能性があります。むしろ、「今までの文化に馴れてしまった35歳以上がむしろ永遠に理解できない」ということを念頭に置いておく必要があります。この層は「いずれ代謝の対象」と思っていてよいので、あきらめて残りの過半数を対象に設定して語る方が効率がよいし、ストレスがありません。

会社は学校でも家庭でもありませんので、全体の数値が上がれば、落ちこぼれる個人を救済する必要はありません。そういう立場に立たないと経営管理なんて精神を病むばかりです。

それでは1回目の今日は、予算といってもいろいろな意味でつかわれている、その代表例の紹介とそれぞれの特徴、使いようを簡単にご紹介しようと思います。

1 数字だけ並べた予算に意味があるのか?

横軸は年月、縦軸は売上、仕入、売上総利益、人件費…と経費項目が並ぶ表をにらみ、数字を適当に埋める。適当に、が言いすぎならば前年度の試算表の値をトレンドと方針を加味して手直しする、という方が実態に近いかもしれません。ダメな作り方だと思われるかもしれませんが、中小企業を中心に世の中の「予算」と呼ばれるものの大半はこれです。もっと言えば、社内ではそんなものを運用しておらず、経理担当者が金融機関向けに一人でこうやって作った「予算」が世の中の大半です。

この方法が通用しやすいケースというのもあります。それは、事業の基本が、「既存事業・店舗は前年同月比プラスマイナス10%程度の推移で緩やかに推移」であるような事業です。高度成長期から安定成長期までの日本企業は、事業の構造や構成の変化速度もゆっくりでしたので、こうした「直線を引く」ような予算の立て方が当たり前でした。そのため、規模の大小を問わず、今でもこの方法が普通に通用してしまっているのです。逆に言えば、現状維持方針の既存安定事業はこの「直線を引く」方式で作成し、新規部分と撤廃部分だけを足し引きすればよい、という見方もできます。

このような方法を用いている会社では、なかなか実現できていないのが実情ですが、部門別の収支実績が集計できていれば、この予算立案を部門別に実施することもできます。そうすれば、部門別の成長率を反映することで「なんとなく」合っているような気のする予算が出来ます。(実際は社長の勘の方が当たったりするのですが)

私が家電店で作っているのを見ていた予算もこれでした。30年以上バイヤーとして活躍してきていた部長がこの作り方に馴れてしまっていたからです。けれども、その事業は「売り場も人員も毎年2倍以上の急拡大」を目指していましたし、パソコン関連商品の市場自体も急拡大していましたので、実際には前年数字を根拠にすることができず、「部長の思い」で線を引いていました。

このような予算に意味があるのか?と批判的に思われるかもしれませんが、経理担当が銀行向けにその場しのぎで作ることには何の意味もありません。しかし、経営者がコミットする形で作成され、その数字をやるために、「誰がいつまでに何をやる」を議論させている、その土台であるならば、ないよりもだいぶ増しだと思います。ゴールが明確になっていなければ、そこへ行く方法を考えることはできないからです。
そして、その「方法」をモデル・数値で表現することにはパターンを運用する知識・経験が必要であり、そうでなくて文章で記録しても、大部分が代用できるからです。

また、人件費や一部の経費の「構造」はこの方法でも理解が進みます。予算を作って運用する目的の一つは「事業のお金の仕組みをメンバーが理解する」ことにあり、その意味ではこの方法も一部意味があります。

2 積み上げ予算

私が次に勤務したシステム会社にも「予算」はありませんでした。それが上場会社の連結子会社になり、そうもいっていられなくなり、経理責任者が適当に1を作っていたところへ私が転職してしまい、彼と相談して作ったのが、「積み上げ予算」でした。

この会社の場合、売上の70%以上は長期継続の契約で固定していた(ただし、時々は終了や価格変更が生じる)ため、残りの30%のチャレンジと、経費の明確化、そしてそれを部門別、業務別に集計するということが課題となりました。また、慢性的な赤字体質に陥っていたため、何が減らせるのか?を管理でも、各部でも精査することが最初の課題でした。(そして、結論は技術的に無理とされた「汎用機・専用線での業務システムの撤廃」だったのです。)

そのため、過去2年分のすべての売上と経費を仕訳、さらには伝票に遡って取引先別、主要な品名別に手作業で集計しなおしました。EXCELでひたすら、会社名、品名と月別に数量と金額を記載していくという作業を20億円分(そのうち、12億ぐらいは人件費なので実際には、8億円)したわけです。

これに必要なのは、忍耐だけです。実は経理の元帳データに、主要な取引先に補助科目が付与されていれば、取引先別月別の金額は比較的容易に作成することができます。多くの経理部ではそれをもって、「積上予算のベースデータ」と称し、各部に配布しています。しかし、この元帳のデータには、「品名」「数量」「単価」の情報がありません。そのため、どの業務に紐づいている費用かも正確にわかりません。それでは、実際の行動には使えない!と主張し、そしてその責任を取って本業は別にある一方でこの作業を一時期かなりの時間をかけてやっていました。

「積み上げ予算」は「現場のビジネスモデルを知らない経理が押し付けるやり方」という言い方をする人がいますが、そのデータの分解能が「元帳レベル」ならばこれは当たっていると思います。現場の行動のトリガーにできないからです。しかし、伝票レベルにまで分解してから積み上げる、つまり、伝票から集計しなおすならばそこに、単価交渉、数量見直し、業務自体の採算性評価、というような行動の変容を促すことができます。

実際、この時の「40年間で初めての超手作業仕分け」は、その後、業者変更を含む調達改善を大規模に行うことを可能にし、逆ザヤ業務が10年来の大規模業務に多数潜んでいることを明らかにしました。そして、一度作ってしまうと次年度以降の経費計画を立てる際には何が増えるか、何を減らす施策を考えないといけないのか?を議論するのに大変役に立ちました。

この時の「仕訳データではなく、伝票に真実がある」という経験(経理担当にとってはこれは不都合なことなので、経理からこの発想は出てきません。)は、それから10年以上たち、経費削減コンサルティングサービスを行う原点となりました。でも、年商1000億円クラスになって来ると、伝票レベルでの総当たり・総整理はかなり大変なものでした。なかなかこれをやってくれる人は社外でも社内でもいないと思いますので、今でもお請けはしますが、費用はちゃんといただきます。

3 モデル化予算

KPIという言葉が一般に使われるようになったのは、10年ぐらい前からでしょうか?実際には、営業を生産と同じようにプロセスを分解し、数式として表し、そしてその各指標を管理する、という方法はキーエンス、そしてリクルートを代表格として、かなり以前から存在していました。そのやり方は、昨年大変なアクセスを集めたこちらの記事で簡単にご紹介しています。

つまり、「何人で営業し、一人当たり何件アタックしたら、これこれこういう具合の確率の掛け算できっと売り上げは〇〇円になるはずだ」というようなモデルをベースに、それに紐づいて発生する経費もすべて数式で表現し、予算とする、という方法です。

この方法は、表が非常に大きくなります。私が作ってきたものでは、縦300行ぐらいはざらにありました。印刷して打ち合わせに臨むと主要部分だけでもA3両面に小さく印刷されており、老眼の私は見えにくかったのですが、若い上司は、その予算と実績の対比から不足箇所を即座に指摘し、対策をその場で指示していきました。

この方法は、二つの大きな特徴があります。一つは、事業を変数を変えながらシミュレーションすることができるという点です。つまり、ある程度の妥当性が確認できたモデルがある場合、それに基づき人数を増やした場合や広告投下量を増やした場合にどのような状況が実現するかを再現することができます。特に創業して数年の、ビジネスモデルが見えてきて、規模の拡大を追及しようと転換する局面では、このようなシミュレーションを行い、何が成功要因なのか(多くの場合、実は退職率や新入社員の戦力化コストだったりするのですが)を把握し、そこへの対策を重点的に行いながら、事業をスケールアウトさせるということが求められますし、こうした検証済みモデルとグロースシナリオがあることが資金調達上重要となります。

もう一つは、このように、実績と対比し、原因箇所を共有し対策とその進捗を明らかにする、という本来企業が進めるべきPDCAの管理を数値で完全に行うことができる、という非常に大きな特徴を持っています。他の方法では計画と実績が乖離したときでも、その原因を知ることはできません。そして多くの場合は、適当で本質的ではない検討が行われ、「現場の頑張りが足りない」という結論で終わります。それではダメなのです。どの変数、どの確率が予定よりも低いのか?改善余地があるのか?それを具体的に知るためには、この方法を用いざるを得ないのです。

モデル化予算はなぜ運用できないのか?

現時点で、どの企業にとってもこの「モデル化予算」こそが事業管理の到達目標点である、と弊社は考えます。そして、そう思って、そこそこ優秀な人にこのノウハウを、弊社の最大の売り物として伝授するのですが、なかなか理解・浸透ができません。その一つの理由は、工業では当たり前のプロセスごとの数値管理による品質と生産量の管理ということがビジネスにも応用されるべきである、という「世界の常識」に対し、なぜか日本では若い人も含めて「仕事はハートでするもの」というような言霊信仰が根強くあるからです。この「言霊信仰」というのは、私は古いマネジメントを批判するのによく使う言葉なのですが、実は若い人でも結構これに侵食されている人はいます。たとえば、「やりがい」「個人の生き方の尊重」「個々人の成長」などの言葉を宣伝ではなく(宣伝では私も言います)無思考的に多用する人はこの傾向があります。

そして、もう一つの理由は、仕事をプロセスの組み合わさった(フローチャート)としてとらえる、ということがこれまでに経験がなく、言われてもなかなかできないということです。特に文系出身者はそのような訓練を今まで一度も受けていない、という人が若い人でも相当割合います。これは内部統制整備の時にも業務フロー記述ができる人が管理系で皆無で相当苦労しました。その意味では、最近の「若年層のプログラミング教育」はプロセスを分解して捉えて、定型化して記述する、というトレーニングを早期から行うという点でこの日本の遅れた状況を改善する可能性があると思っています。

では、次回は予算の運用に必要な知識や能力、それをどのように身に着けさせるのか、という「定着策」について弊社がやってきたことを中心にご説明したいとおもいます。

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