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最低賃金の上昇は何を起こすのか?

 先週、最低賃金が今年も(昨年は例外として据え置きだったのですが)3%程度引き上げられる方針が発表になり、産業界の首脳が猛反発しているというニュースがありました。「産業界の首脳」というのが、なぜ存在するのか?もわかりませんが、私は、このニュースに強い違和感を持ちました。

 昨年来、コンテナ価格は急上昇しており、それに加えて今年は中国の景気回復に伴い鋼材価格が大幅に上昇するなど、すでに値上げ要因はたくさん存在しています。そもそも輸入品の価格は、日本以外の国での生産者物価指数の上昇に伴い、長期的に毎年上がり続けています。(ただし、石油・天然ガスの価格と為替相場はそうとは言えません。)
 最低賃金も毎年少しづつ上がり続けることは過去の政策から明らかであり、ここ数年は、そのスピードを早めるということも政権の公約になっていたのですから、当然予測できたことです。

 これに対して、「生産性向上は限界」というような議論もありますが、余地はもちろんそれなりにあります。いわゆる「働かないおじさん」を減らすだけでも随分と改善するはずです。しかし、それも徐々にしかできませんし、費用の上昇のすべてを吸収する必要などありません。
 というわけで費用の増加に対応して、毎年、少しずつ値上げするのが経営として正しい対応です。つまり、経済全体を見ると消費者の所得も増えるが、支出も増え、生活水準はそれほど変わらない、ただし値上げに伴う品質向上や技術革新で商品やサービスは変質(改善)していくという点が経済の均衡点になるわけです。

 これは、「閉じた国内市場」では正しいことはマクロ経済学で貨幣供給量との関係などでも示されていますが、その「境界条件」が過去30年あまりにおいて、「安い海外(主として中国)製品の流入」という形で実際には機能せず、物価が上昇しない状況が続いていました。しかし、中国の経済水準がとうとう日本に追いつきつつある中で、中国との一体的な経済圏という形で境界は変更になるものの、再びその境界条件が有効になりつつあるのではないでしょうか?そこらへんは経済学者の方にぜひ伺いたいです。

 理論はともかく、経営者としては、できるだけ値上げを抑えることは考えつつも、一方では値上げしても売れるように、製品自体、パッケージ、広告、販路などを変えていくことが必要な時代が再び来たということです。
 このことは、80年代までは当たり前のことでした。 そのために店舗は大型化し、流通は多重階層がどんどん簡略化され、加工はデザインを意識した難易度の高いものとなり、広告量は増加していき、それらの積み重ねとして産業構造が変化していきました。

 中小企業の経営を見ていると、この断続的な「値上げ」の勇気がないことが、経営の躓きの原因になっているケースが多くあります。利幅を一定以上確保しなければ、必要な広告宣伝費も確保できないし、一定確率で失敗する変更へのチャレンジのコストも出せません。そして、賃金も挙げられず良い人からやめていきます。値上げする、ということがまず前提で、そのためにやるべきことを考えることが必要です。
 長い長い停滞の時期が中国の日本へのキャッチアップとともに終わりつつある今、またすこしづつ変化の時代を迎えつつあります。そして、その変化を支えるのは、結局現場の創意工夫であり、知識や学習です。
 「首脳」たちは、その人材が社内に枯渇していて変化に耐ええないと言っているかのように私には見えました。

 その一方で最低賃金を上げることは、必ずしも労働者保護にはなりません。そのこともこのニュースで「労働界のこれまた、首脳」が歓迎しているとの発言を見て違和感を感じました。最低賃金を上げるということは、「それ以下の付加価値の業務は廃止する」ということです。廃止の仕方は、機械化自動化のような方法もあるし、単純にやめてしまうということもありますが、いずれにせよ、雇用数を減らす方向に働きます。実際、17世紀の産業革命以降、産業はずっとその歴史をたどってきて、生産量当たりの雇用量を減らし続けてきた、逆に言うと一人当たりの生産量を増やし続けてきたのです。これはサービス業でも同じことが言えます。
 生産量が増える、つまりシェアが拡大するところは雇用の総数は増えるかもしれませんが、労働者からしてみると、「今の仕事の内容のまま、賃金だけが増える」というわけではありませんで、労働の質的強化に帰結します。こちらも企業経営同様に、「しんどい変化」を強いられるのです。

 以上のように、最低賃金を上げる、ということは、実は歴史的に見ても労働福祉政策である以上に、その「産業構造の変化のスピードを調整する産業政策」ととらえることが適当であり、「変化を促す政策ツール」と理解するのが、経営者にとっても労働者にとっても適当です。
 そして、昔のように国内市場だけで判断できる時代ではなく、今は大勢は中国の巨大な財と労働力市場が市場の均衡点を決めていて、それに対応を取る形でしか政策を決めることができない状況になっています。


 賃金は上げ、仕組みを改善することで雇用量はそれ以上に減らし、多少値上げし、販促費を増やして販売量は増やす。それができたところが優秀な人材を集めて生き残り、できないところは疲弊して退場していく、それが歴史の示すところです。それを押しとどめようとするのが、「首脳」のやることなのか?と言うのが私の違和感の正体です。


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