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副業でのシステム開発には中小企業で依頼可能か?

お知り合いの会社で本当にあった怖いお話。

 

IT業界におられる方、受注側におられる方は、この話を聞くと「そんなことも知らずに発注する方が悪いよ」と思われるかもしれません。しかし、中小企業の経営者が特にSIに関する知識もなく、助言者もおらず、値段と相手の話のもっともらしさで方針を決めると、こういうことになるということは「ありがちなこと」だとも思います。今回は、その事例と対策をお話ししたいと思います。

 

【事例】

専門コンサルティング会社C社は、社長の人望と高い技能で創業3年目ですでに売上数億円を達成し、現在の領域周辺でサービスを拡大し、顧客を囲いこむ事業戦略を立てていました。C社では、大企業を中心とした顧客との間で1年にも及ぶ改善プロジェクトを展開しており、顧客の保有資産のリストに対する調査結果を随時顧客と共有しながら業務を進めていました。従来は、社内SNSで情報を随時更新したものを週に1回程度社員が1名プラスアルファ担当して手作業でEXCELの管理表を更新し顧客にメールで報告しフィードバックをメールでうけとっていました。その管理表の内容はかなり充実したものであり、文字数・作業量も多く、管理も煩雑で顧客からの返信をまた管理表に転記するなど転記転記もたくさん発生するということで、 1.社内SNSでの情報更新をスマホからの更新に変更 2.いくつかの管理帳票をEXCELからアプリに変更 3.同一システムのうち、いくつかのビューを顧客とも共有しそのままログインしたら確認してもらえ、判断とフィードバックもそのシステム上でしていただくようにする。 ということを構想しました。

社長はじめ社員の皆さんはシステム化の知識は特になく、社長のご人脈でお知り合いの方に発注し、その依頼先の(その時はそう思っていた)エンジニアの方がニーズのヒヤリングに何度か来られて構築に入られたということでした。私が社長さんからお話を伺ったのは、そのシステムの稼働が補助金や投資促進税制関連の期限を迎えているのに、完成が遅れているし高いし、そもそも制作担当との意思疎通がうまくいっていない、という悩み事としてでした。

 

私はその会社には、以前から業務上のお付き合いがありましたので、社長がおっしゃっている業務の内容はわかっているつもりでした。しかし、一番最初に社長がおっしゃっていたシステム化範囲と、実際社長が発注した、と言っている内容は大きく相違しており、後者の方がはるかに大きいものでした。社長がおっしゃっていた金額も、当初の社長のお話では高いかな?と思っていたのですが、実際発注したとおっしゃる範囲からすれば相当規模のデータベースアプリであり、妥当性があると思われるものでした。

まず、この時点で依頼主と受注側で金額と納期に対する「依頼範囲」の設定が相違しているのだろう、ということが想像できました。そこで、まずそこを確認してからご助言できれば、と思い「見積書やそれに付属していたシステム化範囲や条件を書いたものがあると思うのですが、それを見せていただけませんか?」とお話しすると、返事は、そんなものはない、ということでした。「今時のシステム開発の受託会社がそんな危ないことするのかなあ?」と思って不審に思いました。

そうこうしているうちに、プロトタイプが出来上がってきた、というのでテストユーザー権限のアカウントをいただいて拝見すると、Ruby on Railsで作成されたスマートなアプリで、社長が思っている構想の1/3程度が実装された、第一フェーズの大部分が動作するレベルのものがありました。ただ、社長は顧客と共有する画面については見た目のリッチさや日本語文言の充実が足りない、と不満な様子でした。もちろん、その原稿を提出した、というわけではなく、口で業務説明したから、それに必要な文言は追加してほしいし、デザインもそれに足るものにしてくれるものだと思っていた、ということでした。

 

ここに至って、そもそもの意思疎通が制作者と発注された社長との間で最初から図れていないことが明らかになり、社長の頭の中の構想を文章と図にして制作者に渡す通訳が必要だということがわかりました。そんな話をすると、社長から思わぬひとこと「メールとか送っても、夜とか週末とかしか返事が来なくてレスポンスが悪いんですよ」

これでピンときました。おそらくは社長のお知り合い、というその方はシステム屋でもなんでもなく、このシステム制作担当者とも普段の取引関係はなく、おそらくはクラウドワークス等のクラウドでのスポット業務依頼サービスで比較的安価で技術の確かそうな人を連れてきていて、その人は本業は別に企業内で忙しくシステム構築をされている方なのだろう、ということです。だから平日日中は連絡が取れない。そして、デザインやUIはいつもは別の担当が作成してくれるので、システムの動作部分を中心に担当している人なので、その周辺部は自分で想像を巡らせて親切かつ簡潔に作る、というような面倒ごとを忌避しているのだろう、ということです。それならば、事前の営業段階でのリスク回避のための「発注範囲の定義」や「見た目の完成イメージ」がない、ということも「そんな面倒ごとは自分の仕事ではない」という製作者の意思が働いている、あるいはそういうことを担当する人が必要ということも「社長のお知り合い」のほうも知らないで社長から仕事を請けた、と考えると納得がいきます。

社長に、「想像ではありますが・・・」とこの仮説をお話しすると、依頼した知人とその制作担当と最初に面会したときの両者の間のやり取りの言葉遣いに思い当たる節があるということでした。そして、そうだとすると連絡の不備、仕様書、仕様の定義の不備はどうやっても改善しないこと。依頼した会社も責任能力はないこと、そして、社長が不満に思っているUI部分の改善や、今後出てくるであろうドキュメント整備と追加開発等のメンテナンス作業についても大きな支障がでるであろう、ということを説明しました。

 

社長が考えるシステム化範囲を予算内に収めようとすると、たしかにクラウド上での副業エンジニアへの依頼ということは一旦は魅力的な選択肢でした。しかし、それは事前にこうしたSE部分が十分自社でできていて、その中のシステム構築というパーツを切り離して依頼出来て、他の要素は別に自社で補充できていることが必要でした。また、その場合でも、今後の追加開発がこうした業務システムでは必ず発生するわけでその場合にどうするか、ということは事前に対策できていなければ、この選択肢はリスクを抱えるものでした。

私は、社長に、最悪すでに構築した部分も含めて全部をそこそこちゃんとしたSIerに再度発注しなおすこと。その際に、発注範囲、メンテナンス、ドキュメントや運用指導、UIなどを事前に要望レベルを文書化することなどをご助言しましたが、同時に、「ちゃんとしたSI業者に依頼するとかなり高くなりますので、優先度が高い部分と、手作業で補うことにしてシステム統合をあきらめる部分を事前に考えてください。」というお話もしなければなりませんでした。

本当は、そのアドバイス(ディレクション)業務を私がお請けできれば私としても嬉しかったのですが、これまでの社長のお話からも分かる通り、社長はシステムには詳しくない中で、対面でお話しして意図を文書化て、含まれない部分をちゃんと説明して確認して、という作業をきちんとやろうと思うと、東京以外にあるその会社を相当頻度で訪問しなければならなくなるため、私としても断念した次第です。ただ、社長と信頼関係のある私だからこそ、「社長、それは次期に回しましょう」「それはすいませんが、手作業で残しましょう」と言ってあげられたのではないのかな?という残念さは感じています。

 

実は、このシステム化範囲ですが、主要な部分は「一般的な顧客管理データベースシステム」であり、それに対してテーブルやビューを追加し、カラムを拡張することで対応できる部分があるものでした。データ量はそれほど巨大なものではないので、RoRで構築されたものを新規に再構築しようとしたときに、たとえば、サイボウズのkintoneのようなもので構築し、改変の容易さや柔軟性を確保し、運用のトラブル回避をすることもご提案しました。(ユーザー数もそれほどおおくないため、金銭的にも、工数的にも大きな節約になる) しかし、「エンドユーザーに見せる」「エンドユーザーからのサービスへの支払い意思の一部になるような立派なものにしたい」というお考えが社長にあり、この方法は不採用になりました。見た目は自分で構築し、バックグラウンドだけこうした出来合いのシステムを使うという方法もあることはお話ししたのですが、社長が以前お勤めだった大きな会社で使用していて宣伝もされていた顧客データベースに比するものにしたい、というお気持ちが強かったようです。ただ、その一定の完成形に至るまでには試行錯誤がまだまだ発生し、通算すると結構な費用になってしまうのではないか?という心配は親しい方であるだけに心配しました。

 

私自身、一時期は顧客に出向いて仕様をヒヤリングし、あるいは過大な要求を抑え込みwebシステム化するということを仕事の中心にしていた時期もありましたので、中小企業でシステム化による業務工数の改善を図る、ということはもちろんこれからも検討していきたいのですが、知らないで発注すると思わぬ落とし穴があるし、そのことをまず社長にご理解いただいて「システム化の作法」をお教えしてから始めないとご迷惑をおかけするだけでなくこちらも大変だ、ということを目の当たりにした事例でした。そして、単価を安くするのではなく、既存のサービスや他社の流用的なものをうまく利用して工数を減らしつつ信頼性を高める、というようなことが中小企業では重要なのですが、そこをSIerもあまり好まないし、依頼する側も「恥」と思うところがあるようであり、人というのは難しいものだと思わされました。

弊社では業務改善の一貫としてこうしたお手伝いもしています。

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