よく、「需要予測が当たらない」という相談を受けます。私もたくさんやってきましたが、当たったことはありません。(すいません。)そんなことを言いながら、ある新設ベンチャーの需要予測の仕事をお請けしています。
大きな会社になると需要予測が商品化の過程で義務付けられているケースもあるようですが、電話やレトルトカレーなど、コモディティ化した商品・サービスならまだやり方が市場になんとなく共有されているのですが、そうではない、ニッチであり、比較的高額で、あるいはBtoBの新市場を開くような商品、だったりするとうまい説明ができないということが多いようです。
ただ、そもそも需要予測、という言葉自体に疑問を感じませんか?
【市場はあるか?】
市場はどんな大きな会社でも変えることのできない所与条件です。どんな大企業であってもそれをしようとした途端痛いしっぺかえしに会うという事例は歴史上たくさんあります。しかし、潜在的需要が顕在化することを「市場を作る」とも言いますが、これはあり得ます。
多くの需要予測手法は、最初に「市場規模を推計する」という作業をします。
私は、市場があるかどうかは、一部の商品については、ある程度合理的に説明できると思っています。それは、その商品により、なんらかのコストが下がる人がいて、そのコストがある程度定量化できる場合です。例えば、時間が節約になる、お金が節約になるなどの効果が得られる場合は、その効用の総和と商品への支払いは経済原理上は均衡するはずですし、そこまでいかなくても、そのうち一部を回収することはできるはずです。私はコンシューマー向け商品の経験は薄いので、コンシューマー向けについては省かせていただきますが、法人向けの場合は定量的なメリットを相手に示せるか?ということが販売上も重要な要件になってきますので、まずここを押さえるようにしています。でも、この方法では、「センスがいい」(例えば、iPhone)や「自己顕示したい」(例えばFacebook)という欲求を満たす商品には対応できません。これをすべてに適用し要求していては、その会社はiPhoneやFacebookを生むことはできないでしょう。
【リーチできるか?】
よくある需要予測理論では、市場規模を予測したあと、そのあとそのうち、どれだけの割合の人に、きちんと商品を認知してもらえるか?を考慮します。この考え方はプロセスを分解するという意味では分かりやすいやり方です。しかし、ここから先は、需要予測ではなく、「販売戦略」であり、会社の意思だと私は思うのです。大量の宣伝広告費・販促費を投下すれば当然、認知は上がります。どこまでそれを行うのか?どのような方法で行うのか?その場合、どの程度の認知の実現が可能であるかはある程度予測が可能です。
ただし、優れた商品はすぐに追随されます。早い場合には数か月でより大きな販促費を投下できる競合から同等品が販売され、その時点で販売数量は大きく下がるか、あるいは価格を切り下げてその大手が開拓した市場でシェアを目指すことになります。その時間の経過を現実を見据えて保守的にとらえるということも、組織としてはなかなかできないことであったりします。
先ほど、会社の意思の問題、といいましたが、それは逆に、「発売したい」という結果ありきで、データをそれに合わせていくことを担当に暗に強要する組織の圧力にもなります。そういう事例は数多く見受けられます。本来は取締役会がこれをチェックする機能を有さなければならないのですが、日本の取締役会は、執行機能と分離がされておらず、監査役も機能が弱くこれらをチェックできないことが多いように思います。
結局、需要予測が当たらないのではないのです。当初の想定通りの販売戦略、広告宣伝戦略をきちんと実現することは難しいことであるし、あるいは、その場の承認を切り抜けるためのしのぎの結果ありきのデータ作成であったりすることも多い、ということだと思うのです。そのうえで、再度、計画段階で、単に商品の設計だけでなく、価格、流通、宣伝などのマーケティング要素(マーケティングの4P)を事前にある程度決めておいて、商品の収支計画を立てる、という王道としての需要予測ならば、十分存在価値があることだと思っていますし、そういう立場でお手伝いしています。
それはでも、「需要予測」ではないですよね。マーケティングそのものです。