質問です。
たとえば、初期投資なしで、年間10万円経費が削減できる施策があったとします。効果は確実です。あなたはこの施策を実施しますか?
直観的には「しなければならない」と考える方が多いはずです。 わかりやすいので、経費の削減診断という例で話していますが、取締役がこれを知っていてやらないのは、ある種の「善管注意義務違反」でもあると思うのです。 そして、私が相談に入る前の段階では、多くの経営者が「もちろんやる」というのですが、実際に調査の結果を報告した後に、その施策をやるかというと、平均すると実施率は半分にも満たないのです。 その半分というのも全平均の話であって、実際には ・小さいものを除いて概ね実施する会社が2割 ・目立ったものだけやる会社 4割 ・ほとんどやらない会社 4割 という分布になっています。そもそも「ほとんどやらない」を契約上許している、あるいはそういう状況を改善できないコンサル力に問題があるというのも間違いないでしょうが、それはさておき、この「ほとんどやらない会社」には一定のパターンがあります。
【ほとんどやらない会社はこんなパターン】
① 社長が「やれ」と部長に言わない。下に検討させる、と言ってそのままになる。
このパターンの会社では「現場」が検討すると、かなりの確立で「この案は不適当です」と答申します。その現場は「利益改善」に明示的責任を有していないので、現状のまま何もトラブルが起きない方がよいし、今までの顔見知りの会社とギスギスしたくないことが優先するのです。特に、この傾向は、若い人よりも中高年、女性よりも男性に顕著に強く現れます。 総務部も気の毒な面はあり、普段からトラブルなく機会が動き、ものが準備されていて当然だと社内から思われていてちょっと何かがうまくいかないだけで営業部から口汚く罵られるような目にあうことが繰り返されるとこうした防御的な姿勢に組織全体がなっているようなケースも目にします。だんだんと、「逃げ切ること」が仕事になってしまうのです。その点、若い女性の方が正しいと思うことをきちんと口にする、着実に実行する、ということができる人が多いように見受けます。 もちろん、トラブルは事前に予測し大きなものはあらかじめ手を打っておくわけですが、「利益改善のため変えろ」という方向性は社長がださなければなりません。そして、改善した成果を総務部など管理部門の「成果」として評価し公表してあげることも組織を活性化するためには欠かせません。時々、すごい勢いで改善が進む会社に出会いますが、大抵は総務部長が部下の当期の評価指標に私たちの提案の遂行を盛り込んでくれているケースです。
②社長は指示するが、総務部長が何もしないことを強く意思を持っている。
このパターンも意外なほど多いです。上に類似してトラブル回避という思考の場合もあるのですが、そうではない、「社長に従いたくない」というようなケースも見受けられます。それでも人事権を行使せず使い続けているのもすごく日本的だと思うのですが、大抵このパターンは総務部長が60歳前後です。変えずにやってこれた時代を生きてきたので、「自分が変えなかったことが正しい」という考えが染みついてしまっているケースが多いです。そこに、「もう人口も減り、需要も増えない時代になって、強い会社が弱い会社を打倒して大きくなって生き延びる時代なんですよ。」とか言った暁には、口にはしないものの「そんな時代にお前らがしたんだ。この資本主義の亡者が」と言われんばかりの憤怒をたたえておられたりします。それを分かっていながら言う方も言う方なんですが。
【管理部門に改善のミッションを】
財務体質や経費の問題は目に見えやすいですし、短期で施策まで提案しやすいので大変やりやすい営業メニューなのですが、実は、そうしたものがうまく実現するには、「組織の問題」は不可避、不可分の課題です。 今までのやり方を変える、そもそも会社は継続的に変わり続けていかなければならず、管理部門はその手綱を握っている、という認識をもっていただき日常の維持業務だけでなく改善業務をミッションとして持っていただくことが欠かせないと思っています。また、昔は営業で目が出なかった人が総務に行く、というような人事が日本ではよく行われていましたが、そのような改善の企画と遂行ができる人材を配置するべきであるし、教育していくべきとも思っています。
そして、成果に応じた報酬制度もまた敷かれるべきだと思っていますし、その根底には、「会社を常に進化させ続けるために管理部門はとても重要である」という認識を社内で共有していただくことが必要だと考えております。
ちなみに上では、高齢層を使えない、と受け取られかねない書き方をしましたが、実はまったく歯が立たないほど自社ですでに取り組んでおられるようなケースも、また高齢の非常に強い総務部長がおられるようなケースです。わたしたちにも社長にも、営業にも、自分たちの改善を貫くために「戦う姿勢」を丸出しにして向かってくるような総務部長にたまに会います。この欄でそのうち、紹介したいと思って出演交渉を始めています。