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部長の知識セット~部長を創る③~

部長ってどうやって育てればよいのか?というのは経営者にとって永遠のテーマです。ということで始めたこのシリーズ「部長を創る」

しかし、私自身が普段、お付き合い先に何と言っているか?というと実は、「育て上げましょう」とはあまり言っていません。たとえば、中小企業で狙ったマーケットセグメントで3億のビジネスを作りたいならば、「類似セグメント向けに3億規模のビジネスチームを作り上げた経験者を探してお金を積んで連れてくる」というのが第一案として提案していることが多いのです。これは、成功の確率がより高いこと、そして時間を短縮できることが理由です。1回目よりも2回目の方が人ははるかに上手にできますので、その人は1回目の成功のプラス要因を再現し、マイナス要因を除去して仕事を進めることができるでしょう。それは多少お金を積んでも手に入れる価値のあるスキルです。

 

部長、あるいは事業リーダーというのは、知恵や人脈だけでなく、1回目(こちら)で見たような必ずやりとげるという意志の強さと大衆に流されない孤高というか、「偏屈さ」も必要でしょうし、2回目(こちら)で見たようにアジリティやフラットなものの見方といった「賢さ」も必要です。これらは決して一朝一夕に身につくものではないし、ましてはある程度のポジションで機会を得る中で実地で汗を流し、そのなかで気づきを得ないと誰でも手に入れられるものではなく、同時に40代、50代になって大企業でそれを手に入れても、中小企業では通用しにくいものです。つまり、1回目、2回目でご紹介した内容は、実際にハイパフォーマンスを発揮しているリーダーの方々を俯瞰してみた時の共通項ではありますし、そこを目指す人にとって留意すべきことではあるでしょうが、これをもって、再現性があるトレーニングができる事項である、ということは言えないわけです。

過去2回を読んで、「なるほど」「腹落ちした」という感想をいくつか頂戴し嬉しい限りなのですが、私の問題意識は、「それを持つ人をセレクトすることはできるが、それを持つ人を創ることは難しい」ということでもあります。もっとも、会社は教育機関ではありませんので、30人の候補者に同様の話をしたとしたら1名か2名、これに反応し成長し、出る釘となって経営者の目に留まり、早い時期に会社を担う人材になってくれればそれでよい、という見方もできます。どんなに自分が重要だと思ってノウハウを語っても、その重要性に気づいていない人にとっては眠たい話でしかありません。どんなセミナーを開いても、本当に聞くべき「知らない人」は人から強制されない限り参加しません。集まるのは、「そのことを重要だと感じている人」です。会社は同時に、時間と予算を限られたゲームでもありますので、私としても「外部から連れてくる」という選択肢も含めて実際には実用的であることを重視しているのです。

でも、なんとなく釈然としない部分は残ります。もっと何か、幹部候補を育成するためにやれることはあるのではないか?というのもありますし、そもそも中小企業では、30人も候補者いないし、外部から連れてくる、といってもお金を解決したとしてもそれでもなお、中小企業に進んで来てくれる人は極めて限られていて、より大きな会社へとみな転職したがります。つまり、ここまでの話は実現性が必ずしも高くないのです。

 

そこで、3回目(一応本シリーズはこれで一旦は完結のつもりなのですが)は、これだけがあれば、優れた部長になれる、というわけではなく、他の2回の内容と併せ持つ必要はあるのですが、「業務リーダーとして知っておくと、それだけで知らないよりはだいぶ役に立つ知識群」を私自身役に立った、あるいは私以外の人を見てこれが生きているんだな、と思った「知識」をいくつかご紹介します。

 

①プロジェクトマネジメント~PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)

プロジェクトマネジメントというと、SIerか建設業の知識と思われている方もいらっしゃいますが、現代ではすべての業務がプロジェクト性が高い業務となっています。つまり、常に変化し続けることを要求されており、その変化には前例がない、未知のものに向かって走っていかなければならない、ということです。別の言い方をすれば、現代に求められているリーダーは、「維持のリーダー」ではなく、「変化のリーダー」であるということです。

PMBOKは、その時に全体を俯瞰して計画を立て、プロセスを分解し、それぞれのプロセスで何をコントールする必要があるのか?どのような処理が標準的に考えられるか?を整理し、チーム内で共有することを可能にする知識体系です。「新規事業」「業務改善」あるいは、「経営統合」などのプロジェクトで、何を考えるべきかを考えるフレームワークを与えてくれます。

このことは、この知識を知らない人から見ると、「問題になりそうな個所をあらかじめ予測して先回りして考えることができる」技術として見えます。しかし、実際には、全体を比較的細かなプロセスに分解してそれぞれのプロセスでかかるコスト、発生するリスク、それへの今やるべき対処を用意し、あるいはクリティカルパスを如何に保護するかを考えているのです。

 

②交渉アナリスト

これは、40代になってから私は勉強したのですが、営業でも社内交渉でも大変役に立ちました。このブログでも何回かご紹介しましたが、交渉アナリストは、一本の丸太橋の上で相手に銃を突き付けてあとずさりさせる「ハードな交渉」を志向するものではなりません。自分と相手の複数の変数の優先度の差異を分析し、その差異を利用してよりお互いの満足度の高い妥結点を見出す技術です。この交渉アナリストも、「交渉」というものをいくつかのプロセスに分解し、そのプロセスを個別に品質コントロールする、というアプローチが取られます。そして、私自身が一番良かったと思うのは、それを知り援用するようになり、相手が「自分の要求を具体的にきちんと理解して、何とか取り入れようと努力してくれている」と思ってくれるようになった、ということです。

この知識はもちろん、営業職を中心に一般の方でも役に立つのですが、特に重要性の高い社内、社外の調整を担う時には、あまり世間に重要性が認識されておらず、かつ日常的に発揮することができる、他者と差別化できるスキルであると私は考えています。

 

③クリティカルシンキング

私はこれを大学で教えられたあと、さらにグロービスマネジメントスクールで学んだのですが、グロービスのクリティカルシンキングのクラスは本では手に入れられない素晴らしいコンテンツでした。これは特に考えるだけでなく、論理的に説明する準備をするという点で、「具体的にこうやればよい」というスキルを提供してくれるものでした。また、部長という点でいえば、「今取り組んでいる問題を部としてどのような構造ととらえているのか?」や「どのように購買を説得する構造にするのか?」といったことをプロジェクトチーム内で簡明に共有し可視化することを可能にする技術でもあります。

 

ほかにも

④アプリケーションエンジニアは、ITの活用が欠かせない中で発注側であっても提案依頼書や要求仕様の策定段階でとても役に立ちますし、業務の仕組みを考えることとそれをシステムに置き換えていくという思考を求められる中では大変役に立つ知識体系だと思っています。

⑤アカウンティングは部長として、お金をマネジメントする際の基礎知識になります。実は有名大卒のたくさん集まる大手企業の部課長クラスでも、損益計算書、貸借対照表を理解できていないという人はたくさんいます。それで「部門利益の責任者」なのですから困ったものです。役に立つ、というよりは、こんなことも知らずに役職者にしていいんですか?というレベルだと思っています。

そういったものはいくつかありますが、今回は特に上の3つをお薦めさせていただきたいと思います。

 


 

ただし、これらの知識を幹部に習得させればよいのか?というと、そこには落とし穴があります。もし、中小企業でこれを最も優秀な一人だけに習得させても、かえってその人は悩んでしまうでしょう。彼は、自分の会社を変えていきたい、と思い企画を立てても、その意味を理解してくれるひとが社内におらず、孤立してしまうからです。

これらは社内の幹部の中で、半分に近い人の共通言語となって初めて会社を変えていく力となります。それが一人だけでは、他の人、特に年上の人は、「めんどくさい奴」とその人を排除する動きをすることが良くあるからです。それも含めて説得するのが仕事だろう、という人もいますがそんなことをこの先延々、学ばない高齢者相手に彼は続けていかなくてはならないのでしょうか?そして、そうなると最悪な事態が訪れます。覚醒した若きリーダーは、「この会社は変われない」と落胆し、自分と同じような認識をもち議論できる仲間がそろっている組織を社外に求めるようになり、去っていくのです。

 

これはよくあるマネジメントの失敗です。社会全体でみると変化は徐々に起きているように見えます。しかし、ある個人、会社が変化するとき、それは徐々にではなく、一気に起きるのです。それが経済や政治、技術などの抗い得ない環境のような外部要因にとって引き起こされるときもありますし、自社で自律的に変化しようとした場合には、大きな力が必要になります。そして、変化が起きる時、人もまた不連続です。残念ながら、すべての人が変化を受け入れ、積極的に対応するわけではなく、一定数、それも少なからぬ割合の、それもいままでの中心にいた「幹部」がそれを受け入れようとしません。これはいくら理屈で言ってもダメです。本当に経営者であるあなたが組織を変えるつもりがあるならば、その守旧派は幹部から、あるいは社内から排除し、新たな「変えうる」多数派をあなたが形成するしかないでしょう。それは部長ではなく、あなたの仕事です。

 

これがこのシリーズの最後に言いたかったことです。部長とは、あるいは経営者とは…必要とわかった変化に対し、それができる人を過半数にするよう組織の足し引きを迅速にできる苛烈を自分に、そして組織に強いることができる人だと私は考えています。

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