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利益額と利益率~理想の細マッチョはどこにいる?中小企業の価格論②

中小企業の価格論の2回目は、とある年商数十億の経営者と昼食中にぽつりと言われた一言「利益額か、利益率か?どっちがいいんだろ」というお話です。
もちろん、事業や商品のライフサイクルや企業の課題感に応じて、社員との間で用いるKPIは異なってくる、という事はこの経営者の方も分かっていて、その上でのボヤキです。

もう少し背景をご説明しましょう。この会社では、この経営者の下、最近になってようやく、「業務別の利益率、額」という集計を行うようになりました。そうすると、今まで売上が大きくて担当が大きな顔をしていた業務のうちいくつかが実は結構利益が薄くてあまり貢献していない、という事がわかってきました。しかも、その業務を立ち上げてきた60歳以上のベテラン勢が顧客とべったりで、改善に必死にならず、若い担当者をむしろ阻害しているというのです。
 業界自体は、さほど成長市場というわけではありませんが、そうは言ってもこの20年は成長してきて、これからも現状程度の規模は維持される中で、1社大きい上場企業を除けば、この会社と同程度の企業が数社、団栗の背比べ状態です。

この経営者の方は初めてお会いしたときから、「規模を縮小してでも社の利益体質を高める」という強い意志をお持ちでした。そのために、「率」の意識を管理者に強く持ち、顧客と交渉を進めるよう指示していたのです。しかし、この方針はもちろん両刃の刃です。価格にせよ、在庫引き取りにせよ、今まで見逃して自己負担していた部分を顧客に転嫁しようとすれば、大企業である顧客は、中小企業に対して、「最近生意気だ。あんな奴ら、鼻息で吹き飛ばせるし」という態度で他社に、「この値段にしろ」と声をかけるでしょう。そんなことはこの経営者も百も承知です。中小企業にとって、他社にまねできない独自の製品・サービスなんて夢のまた夢。価格、在庫、貿易、納期などの大きなリスクに対して、大企業のリスクを肩代わりさせられ、薄利の中でどこまで危ない橋を渡る決断をするかのチキンレースを競合と繰り広げているのが現実です。

私のこのことへの中期的な答えは、いつも言っているように「オペレーショナルエクセレンス」であるわけですが、そんなめんどくさいことを昼時に効きたいわけではないので、それは今日のところは置いておくこととして、冒頭の「「利益額か、利益率か?」の「利益額」の方は、そうした「他社に顧客内シェアを取られる立場」のこと、あるいは、これまで同様の忍従・リスク需要路線の是非についていつも不安を持ちながら決断していることが表れているものでした。

私の答えはあまりにも当たり前のものでした。いえ、それでよいのだと思っています。彼もわかっていないのではなく、整理したいだけだったのだと思います。

  • 率を追う業務と額を追う業務を区分してください。
  • 額を言う業務は、「規模の拡大により利益率が改善できる仕組みが既に完成しつつあると認められる業務」と責任者に説明してください。規模が拡大して、変わらず仕入と人件費が発生する仕組みのままでは「額を追う」モードに入れないことをわからせてください。また、「大きくなれば仕入が交渉できる」というような根拠のない「思惑」は認めないでください。
  • 率を追う業務では、売上額の減少は10%未満とし、縮小均衡ではなく「率の良い業務への組み換え、入れ替え」を方針としてください。縮小均衡路線では、「人員減らし」に陥ることを責任者にわからせてください。また、そのために、「このお客さんの専従担当」という考え方を廃止し、今までの業務を流用する形での多能工が当たり前というルールにしてください。

売上が拡大可能であるという見込みがあればアクセスを踏むというのが経営者の常識になっているようですが、これが”いきなりステーキ”に見られるような急拡大、急ブレーキの背景にあります。この「拡大できるから拡大する」は、市場が拡大する時代の遺産であり、現代においてはだいたい正しくありません。確かに拡大局面では今でも銀行は機嫌よく貸してくれますが、それが止まれば一気に貸しはがしてきて、急激な縮小を強要してきます。
 現代においては、同じ商品が何年もの間売れ続けることはないし、顧客はコンシューマーでもToBでも常に新しい刺激、より良い商品を要求してきます。しかし、売上の伸びはそういつまでも続きません。たまに業界で話題になる「ロングヒット」など例外中の例外であり、あなたの会社にはたとえ実力があったとしてもそんな幸運はめぐってこないのです。

その改善、要求への対応のための投資や人材獲得、あるいは場合によっては価格対応による競合対策などのコストは、規模が拡大すると多くの業種業態でその対売上率は増えてしまい、売り上げは拡大しているのに、赤字転落してしまい、立ち直れないで銀行に見放される、という事が起きるのです。実は、上の一番目の要件である、規模が拡大すると利益が改善する仕組み、というのはその増えるはずの利益はこの対応コストの原資に実際には消えてなくなってしまうことが通例で、利益率維持のために必要なのです。

というわけで、私の回答をまとめると「額が改善すると、率がそれ以上に改善する場合のみ、額を追う」です。

率が改善する額の改善とは?

では、「率が改善する額の改善」とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?大きく分けてこれには二つあります。

  1. 一度獲得した売り上げがその後もさほどコストを掛けずに継続できる見通しが十分ある(ストック収入)状態で、人員やコストを新規の獲得に振り向けることができる。
  2. 作業が個別の顧客、案件ごとに発生するのではなく、業務ごとにまとまっていて1件行うも、100件行うも回数、手順は同じである。

つまり、どちらも、従来のような個別顧客向けのノウハウも資源も人員も個別対応個別アサインする請負型では「額」への志向はできないということです。このような労働集約的な業務は、近年特に大企業はこれを排して中小企業が担う傾向が強くなってきていますが、これは大企業は賢いし、自らを変える力が中小企業に比べると大きいからであるとも言えます。そして、このことこそが、生産性格差、給与格差を生んでいる根源でもあります。

もちろん、請負を全部やめろ、と言っているのではありません。ただし、請負の体を取りつつも、実は内部では、プロセスの共通化、ツール利用化が大幅に進んでいる、という形態や、収益がストック的に積み重なる仕組みが組み込まれることが必要ということです。

ちなみにこれを現場の営業に言ってもまったくと言っていいほど進みません。だからこそ、「率が改善しないと額は追えない」という制約と、「率を追うことに注力する命令」を経営者が行う、具体的には明確な指示をして評価指標にすることが必要になるのです。

しかし、この経営者の方に、「赤字でも額を追ってください」と言った業務が一つあります。それについては次回、「赤字でもOK?」でご説明したいと思います。

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