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「銀行印」はいるの?

先日、印鑑業界が、政府手続きの電子化に「存亡の危機」とロビイングしているというニュースが話題になりました。迷惑な話です。しかも、そこには、「本人ではなくても押せる便利さが日本の経済の活性化に寄与してきた」と書いてあるのです。それは誰もが見て見ぬふりをしてきたハンコ最大の問題点です。ハンコは他人が捺印でき、偽造も容易です。そのために生じたのが、「複数のハンコを使い分ける必要性」。今日もそんな話です。

 中国では総経理がすべて自分で手書きサインしなければ契約も申し込みも何も発効しませんが、中国の方が何事もスピーディです。個人のサインは一種類です。

今日、お手伝いしている新設会社の方から「ハンコの3点セット、3万円ぐらいの買おうと思うんだけど、見解を教えて」と質問がありました。それを聞いてふと気づいたのですが、世の中のいろいろなサイトに書いてあることはすべて「売り手側から発信された売り手に都合のよい情報」であり、「21世紀の新設会社の実務を知らない」人が書いていて、不十分です。そこで「大事なお金を有効に使う」経営者の味方として、簡単に情報提供したいと思います。

開業3点セット

①よく、開業3点セットと称して、実印、銀行印、角印のセットが売られていますが、これから開業するような新設企業は、多くの場合銀行印は大して使いません。つまり、実印と角印だけでもよいのです。(法的には実印だけだが、角印も紙での見積もり、請求や通知文などへの押印がすぐにはなくならないだろうから角印もあった方がよい)
それでは、「銀行印」とは何なのでしょうか?

銀行印とは窓口での出入金や手形や小切手の手続きの際に「ハンコをその場で押す」手続きが発生するのですが、その際にいちいち経営者が同行せず経理担当が実印を持ち歩くと経営者は何が起きるか事故や不正が心配です。ハンコは他人が捺印したり偽造したりが可能だからこそです。だから、別にしたらよい、という性質のものです。
 実は、不都合な真実として…銀行自身、肝心の「口座開設」「融資申込書」は「実印」を要求します。そのため、できたてベンチャーには銀行が事務所まで来てくれるわけもなく、結局経営者やその代理の財務責任者が実印をもって銀行の店舗に行く、ということは銀行印の有無にかかわらず発生します。そうしないと、今度は申込書をもらって、会社で捺印して再度提出しに行く、というムダが生じます。日本ではそれでもよいから用紙だけ貰ってこい、という会社もたくさんありますし、それが「経理のハンコの掟」と私なんかの世代は教育されてきたのですが、そもそもこれは生産性の低い行動ですし、ベンチャーではそんな時間的余裕はない。そして、ベンチャーでは経営者が経理責任者という場合もあるでしょうし、実印と銀行印のどっちがいるか電話で説明聞いてもよくわからないから、結局手戻りを防ぐべく実印と銀行印2個銀行に持って行く、ということが現実に起きているのです。銀行と電話していて「この手続きは実印じゃなくて銀行印でいいんですね」と念のため確認すると、電話の向こうで銀行の若い担当者も間違えては大変なので、先輩に確認している様子が分かります。

ベンチャーじゃなくても、担当者に「実印がいると行ってから分かったので一旦用紙もって帰ってきました。」と部下に言われたことも私自身銀行との有価証券系取引で何度かあります。銀行印とはその程度の存在です。


 そして、出入金は最近は通常はネットバンキングで行いますし、手形や小切手を使う会社も最近の新設法人では少ないでしょう。つまり、銀行印を使う機会は限られているのです。

もちろん、会社が発展し、経理部門が数名の規模になり、様々な金融取引をおこなうようになればあった方が便利なこともあるでしょう。でも、そこまで行きつけるのはほんの一部の会社だけであり、しかもその時には取引銀行も変わっているし、社名も変わっているケースが多いのです。つまり、他のものと同じく、「必要だと感じるようになったら作ればよい」。これ、会社の買い物の鉄則です。あらかじめ「いるかもしれない」程度でお金を使うような会社は潰れますよ!

ちなみに私は個人ではメガバンク3つと証券2つと口座があり、いろんな経緯、というか管理が悪くてハンコは4つあります。うち、3つは真ん丸のハンコ、1つは楕円ですが、その3つはどれがどれだか分らなくなっています。
2年に1度ぐらいしかない手続き関係では、えいやっで押しますが、同じ丸型ならば一度も「印影不一致」で戻ってきたことがありません。これは(私がいい加減な人間だという以外に)何を意味するのでしょうか…

契約印についても同じことが言えます。これも「法務部門に業務を委任」(と言えば聞こえはいいが、要は代理捺印)する際に、「実印をいちいち取り出して渡さなくてもよい」というリスク軽減のために行うものです。しかし、これこそ、途中から変えられます。しかも大きくなれば代表取締役以外が契約の締結権を社内の決裁権限規定で持つようになるので、その役職の印を作るのです。最初のうちはいりません。

さらに、大手企業の一部は、時に新設ベンチャーと契約締結の際、「実印」での締結と印鑑証明の提出を要求してきます。現に私自身が企業勤務時に法務部からそれを要求されたことがあります。何か懸念があってのことなのでしょうが、結局「代表者が承諾している」ことを確実に示すものは、オーソドックスな日本の権力機構では「実印」だということなのです。

「耐久性に優れた」印鑑

21世紀の初め頃、昔いた会社で40年以上使った木製の角印というのを見たことがありますが、十分使えてはいましたが確かにやや摩耗していました。優れた材質を使うとその摩耗度は減らせるようです。しかし、その同じ会社の実印は昔のことなのでおそらく象牙と思われる良い材質で作成されていましたが、あろうことか、なんと、縁が欠けていました。

 「欠けた丸印」というのは過去20年の間に何度か見かけたことがあります。ハンコの様に縁が細い加工をしてあり、そこを何かの拍子にとがったものにぶつけてしまうと、良い材質でも欠けてしまうのです。つまり、耐久性に優れている、とは耐摩耗性に優れていることであり、欠けないことではないのです。(チタンなど金属製はこれも防げるようですが。)

 しかし、40年間社名も変えず(最初の頃に1回変えてはいるのですが)、月に100を超える見積書、請求書に同じ角印を押し続けた、というその会社の事例は実は珍しいことではないかと思います。見積書や請求書はかなり急速に電子化される流れにありますし、政府の届け出も電子化され、契約書もクラウド契約に変わっていく現代において、ハンコの耐久性っていりますか?角印は作り変えも自由ですので、5万円のものを1個作るより、5千円のもの壊れる都度10個作る方が持ちますよね?

私のアドバイスは、2本で4000円の丸印角印セットで、字も見やすいものというものです。ケースも2000円ぐらいからあり、いいのを買うときりがありませんが、実は100円ショップの印泥と代用可能なプラケースでも事足ります。悪用盗難を防ぐよう保管に気を付ける必要はありますが、それはケースの内側が和柄の生地でキレイなものであることとは関係ありません。

 開運?別に信じることを否定するつもりはありませんが、その「開運」にかける費用を事業案内や名刺のデザインに回した方が、よほど実があります。ベンチャーはそうするべきです。

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