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こんな会社もありました その2 社長がおやじに殴られる

前回、意外に反応が良かったので、ちょっと変わった経営スタイルをご紹介する、新シリーズ2回目です。今回はやや問題あり…

 

もうだいぶ前の話なのですが、とある歴史ある健康食品メーカーのお話です。

この会社も20年余りで売り上げが半減し、というもののまだン十億円、社員は2/3になりつつも、全国10拠点余りを維持しており、輸入原材料を使用して自社工場が存在して…という情報を下調べしていくと、工場稼働率、為替変動への耐性、経費削減のポイント、あるいは代販ルートの活性度と言ったチェックポイントはわかるわけですが、どうも引っかかることが何点かあります。その辺の「気づく力」(推理力)はこの仕事をしていくうえでのコアコンピタンスではあるのですが、webサイトをみると創業者が昔は有名だったスポーツ選手と写真を撮り、メディア掲載情報は4年前で更新が止まり、オンラインショップがあるにはあるのですが他社と比べるとパッケージ写真も、人物写真も稚拙であり、値段も他社と比較して高い。それよりも何よりも、この健康食品花盛りの時代において、この会社の商品がかずあるアフィリエイトにも、比較サイトにも1か所も出てこない。ターゲティング広告にも出てこないし、メディア掲載もない。つまり、作ったはいいが、売る取り組みはしていない。それどころかほぼ放置されている。

今でこそ健康食品と言えば、通販とドラッグストアが中心的チャネルであり、きれいにパッケージの面を並べて見せること、あるいは若々しさのインプレッションを大量に広告投下をして行う、というようなビジネスが中心になっています。サントリー、アサヒ、DHCなど強豪ひしめく市場の中で、この会社はそうした試みに背を背けて、自社のチャネル~ネットワークビジネス~を守ろうとしていたのです。webでは創業者のご子息に事業を承継された、ということになっていましたが、ピンときたのは、操業者が自分の成功体験を社員に強要し方法を譲らないのだろう、ということでした。そして、それが単に販売手法だけでなく、宣伝の文言や方法、人事、製造、PRすべてに影響していて、わかっている人は「ダメだ、こりゃ」と思ってやめていき、残骸が放置されているのではないか?という疑いを感じながらお会いしてみました。

 

実際、役員の方にお会いすると、驚くほどにその通りでした。創業者が非常に強いこだわりを持って物事を決めておられて、事業を譲ると言っても、実際には社員を社外の自分の事務所に呼び出して叱責しており、社長すらも、その激しい叱責の対象になっている、ということでした。ですので、従来のネットワークビジネスのチャネルを阻害するやり方は一切許されないし、そこに支障があるような組織再編はできない。つまり、これは戦略の問題ではない、ということです。

 

組織の問題にしても、新しいことに取り組む意欲がある人はすでに失われてしまっていると思いますので、チャレンジを推奨するような目標設定や制度にしつつ、当面の出血を止め、ブランド価値を高く見せられるターゲットを選定してそこへの認知を高める、これと併せて採用を行い、それを担保するための経費削減のための支店網や車両等の縮小というようなことをやっていきたいわけですが、それには、この「偉大なる創業者」に3年ほど黙っておいていただく必要があるわけです。役員の方にそのお話をすると、「社長が創業者にそれを言うのは無理でしょう、社長もおやじに殴られる、と言うんですよ。」と諦めの境地でした。

 

その役員の方もそんな問題の構造は実は外部から私が「当ててやりましたぞ」と言わなくてもわかっておられるわけで、それでも会社を何とか立て直したいと思って、「特効薬」(ヒット商品)を生み出すことを考えておられたようで、私の話は期待外れであったようです。たしかに、健康食品業界というのは非常に原価率が低いので、一つヒット商品がでれば大逆転ができるという性質があり、これを見込んで銀行も与信を与えているのだと思います。(だから、健康食品業界は非常に多くの広告費用が投下される)しかし、以前のこの会社の公開資料を見る限りではそれもなかなかもって厳しく、コベナンツ条項を要求され、その線上をかなりさまよっておられる様子です。おそらくは経理データも信頼できるものか精査が必要でしょう。創業家への貸付(実際には公私混同)という項目もだいぶ減らしているとはいえ、まだ結構な規模がありましたし。

 

通常ならば、こういう場合、私は「まず、全体方針に影響を与えないような経費の削減から着手しましょう」と言って、作業に入り込み、その中で幹部の方との信頼関係を構築しつつその会社のビジネスの実態の理解を深める、ということをしたうえで、本丸に切り込むという手法をとります。ただし、それは経営者が「会社を時代に合わせて変化させ、発展させていきたい。従業員にいい会社を残していきたい」と心から願っているが、その具体的筋道が描き切れていない、という場合です。

確信をもって、会社も社員も息子さえも自分の人生の道具と思っているようなケースに対応するすべは私にはありませんでしたし、そういう凶器を使う気もこの会社に残っておられる方にはなかったようで、それっきりになりました。経営というものを考えていく仕事をしてきて思うのは、「会社は変えられるが人は変えられない。」ということです。たとえば、上司として、仕事の仕方を変えるように要求することはできます。しかし、それを生み出すその人の考え方の癖や性格はそれでも変えられませんし、変えようとすることは傲慢でもあると思います。その「変わらない人」を前提に方法を選び、説明方法を考えていく必要があるのです。しかし、それが会社のトップ、それも株も保有する絶対君主で、人の話を聞く耳を持たない、としたらどうでしょう。

こういう経営者は自分も社員として仕えたこともありますが、本当にどうしようもなくて、辞めるしかありません。(実際、辞めました)ただ、青年社長が「親父に殴られる」というのはちょっとびっくりです。これを変えることができるのはおそらく唯一取引先銀行だけです。

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