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ランチェスターの法則 「全国の敵に地域で勝つ。地域を重ねて全国で勝つ。」

「ランチェスターの法則」って知ってますか?15年ぐらい前、経営関連でもかなり流行りましたが、若い方にとっては「シミュレーションゲームで二つの軍が対戦すると、どちらがどのくらい残存するかの基本公式」と言った方が分かりやすいかもしれません。たとえば、戦力が10のA軍と戦力が8のB軍が機関銃などの近代兵器をもって衝突したとき、結果はどうなるでしょうか?10-8でA軍が2残るでしょうか?

こういう戦略ゲーム(たとえば大戦略シリーズや信長の野望シリーズ)のアルゴリズムのベース(確率変動など他の要素を入れて単純に見えないようには作っていますが)はこうなっています。

A軍の残存兵力={(A軍の兵力)×(A軍の兵力)(B軍の兵力)×(B軍の兵力)}^0.5

この式に当てはまると、結果はA軍は6の兵が残り、B軍は全滅する。この経験則は硫黄島などの地上戦でも概ね正しかったことが検証されています。

(余談ですが、上の「近代兵器では」と記載したのは実は重要で、いわゆる1対1の白兵戦では、上の例ではAが10-8=2残るのです。広範囲を多頻度で攻撃できる兵器の出現が戦争のルールを変えたのです。日本ではその切り替わり時期は戊辰戦争から西南戦争にかけてであり、士気を含む戦力では自分たちが上と意気込んだ旧幕府、士族軍が白兵戦を挑みながらも、大砲、ライフルの物量の前に大差で屈したのは、このルールチェンジを知らなかったから、という一面もあるように思います。)

 

ここから得られることは、このようなことです。

1 少しの戦力さでも大きな結果の差になる。しかし、相手よりも少ない戦力をすこしづつつぎ足す(戦力の逐次投入)というやり方は愚策。(最初から相手よりも大きい戦力で戦う)

2 戦力を分散せず、重要な戦略目標に集中投下した方が、戦力の減耗を抑えることはできる。これを素早く転戦していく方がバラバラに多拠点で戦うよりも有利。(戦力を集中し、兵站をあらかじめ考える)

 

ではB軍はこの戦いに勝つ方法はないのでしょうか?なくはありません。

たとえば、A軍の10の戦力と5と5に分割し、B軍は自軍を7と1に分割して、それぞれの軍にあたることとします。すると、それぞれを上の式に当てはめるとちょうど互角の戦いができることになります。Bの1の軍は全滅しますが、Bの7の軍がAの5の軍を全滅させるまでの間、文字通り必死で時間を稼がなくてはなりません。同じ全滅するにせよ、そうそうに全滅されて、Aの残存兵がもう一方の兵に合流されては作戦は失敗です。同様に、もし、A軍を3つを4,3,3と分散させることができ、B軍は6,1,1と分割することができたならB軍が勝ちます。つまり、

3 相手の方が強ければ、相手の戦力をできるだけ分散させ、自軍はできるだけ集中する。(囮は全滅させる前提で、できるだけ小さくさせる)

という作戦が成立しうるわけです。こういう戦国時代の合戦の作戦シーン、時々ありますよね。

 

実際にはランチェスター理論は、さらにいろいろな要素があるので専門の解説書にこの先は譲ることとしますが、経営の分野においても、この法則は成り立つのではないか?と考えられ、応用が考えられています。完全に数値で検証することは難しいのですが、営業マンの投下、あるいはマーケティング上もこの考え方は応用できると考えられています。たしかに、各商品でそれぞれさえない戦いで競合の後塵を拝するぐらいならば、他商品は既存顧客の維持だけにとどめ、一番有望な一商品に戦力を集中して圧倒的優位を築いてから他商品をその周辺に展開する方が良い、というのは経営の実感ともあっています。

 

◆中小企業こそ、「部分で勝つ」

このブログは、中小企業のリーダーの参考になるように、という目的をもって書かれていますので、中小企業向けにランチェスター理論の応用を考えてみたいと思います。昔、私が会社に勤めていたとき、尊敬する先輩が同じ部の別の課におられて、その先輩の席の後ろにこう書いてあったのです。「全国の敵に地域で勝つ。地域を重ねて全国で勝つ。」ちなみにこの会社の部長以上への昇進のための社内資格試験には当時はこの「ランチェスター理論」が課題にありましたので、先輩もその中からこの言葉を考えたのだろうと思います。

自社がシェア16%、競合がシェア20%だったとき、競合と同じエリアで同じように顧客の取り合いで衝突したとして、全員が粉骨砕身したら突破できるのか?昔の営業部長はそういって「突撃~」と号令をかけていた人が多かったのですが、それでも通用していたのは、実は顧客(市場)自体が年々増加していたから、シェアが多少減ったとしても売り上げが増えるということが起こりえたからです。そういう状況を除けば、突撃させられた社員は、最初の計算例で分かるようにみんな犬死しますし、需要が伸びなくなった今、起きているのはそういうことです。少しの戦力差が命取りになるということを忘れてはいけません。これは経営上の戦術にはなっていないわけです。

それでは相手の力を分散しつつ、自分はどこかに戦力を集中させ、その「部分で勝つ」ことを繰り返せばよいわけです。たとえば、地域で分けるならば、相手の方が自分よりも強い地域は退却し、相手の力がそうでもない、なんとかなりそうな地域に自分の力を集中するわけです。

 

◆部分で勝とうと思うと違うものが見えてくる。

全体ではなく、部分で戦うと決めたとき~それは地域別でも業種別でもいいわけですが、わかりやすいように以後は地域の話で整理します~今度は見えてくるものが少し違ってきます。

たとえば、ある特定の地域で競合に勝とうと思った時、全国で戦っていたのと同じ広告、同じ販売パートナー、同じ価格なのか?というと、そうではありません。そして、本来、それは小さな会社、弱い者の戦い方として当然の手法であるはずなのですが、小さい会社の経営者の方の「判断の幅が狭い」(知らないことをやってみることに対する畏れがその原因だと私は思うのですが)ことによりその実行がなかなかされず、「自前主義」、あるいは「全国規模の大手をお手本とする」まま変えられないでいる例が多いように見受けます。

 

たとえば、販路という点でいうと、全国的にはそれほど有名ではなくても、その地域ごとにその地域で古くから強いビジネスを展開されていて信頼を得ている会社というのがあるものです。そうした会社の販売網を利用させてもらう方法としては、代理店方式もありますし、以前のこの欄でも述べたように、その会社がマジョリティを持つ合弁会社を設立する、という方法もあります。古くから地域ごとに販社を合弁方式で設立して地域に密着した販売を行うことで、「地域で勝つ」に成功してきた会社はたくさんあります。たとえば複合機の富士ゼロックス(今は販社制度を見直しましたが)が代表的な例です。これには合弁設立の契約でどこに注意するべきかということや、合弁会社の運営をどうやって立ち上げるか、という経験がないとなかなか踏み切れない部分があるのだと思いますが、それは私たちがお手伝いします。

また、販促で言えば、全国紙に広告を出すことや全国ネットのテレビで取り上げてもらう、あるいは知名度の高いタレントを使う、ということはとてもお金がかかり中小企業にはなかなかできないことです。しかし、地域で絞れば地方紙にはかなりのシェアを持つものがまだたくさんありますし、「地域アイドル」のような存在もあちこちにあり、しかも数万人とはいきませんが、数百人の熱心なファンを抱えています。私の知る例では、こうした「地域アイドル」に「地域販社」のイメージキャラクターになってもらうだけで、そのファン数十人の契約を獲得した、という事例もあります。また、地方ローカル線の存続活動への貢献や地域のイベントでの露出など、値引き以外の方法で、大きなコストをかけないでも顧客を獲得する方法が地域を区切ればたくさんあるのです。

 

そして、ある地域で成功したパターン、そしてその地域を立ち上げるのに必要となりようやく苦労して身に着けたノウハウは、別の地域で同じようなことを調査し展開するのにかなり役立ちます。つまり2地域目への転戦は比較的容易である、ということです。

 

「全国の敵には地域で勝つ。地域を重ねて全国で勝つ」。ご一緒に初めて見ませんか?

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