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「倒産情報」の楽しみ方

先週書いたマイカルの「巨額貸倒」事件。実はこれとほぼ時を同じくして、私がその少し前まで勤めていたも上場家電小売業も民事再生を申請し倒産しました。私がそこを脱出するときには、もう資金が非常に厳しい状況になっていたのでいつそうなってもおかしくない状況のなか、1年以上は生き永らえたのでした。「あ~あ、いっちゃった」という感慨の中で家に帰ってデスクトップPCで目にしたのが、帝国データバンクが提供している「倒産情報」でして、それ以降、ずっと月末になると楽しみにしています。

 

経営者にとっては、どうしたら売れるのか?が分かれば一番よいわけですがそれがそんなに簡単なことではありません。それならば、次には、「つぶれないようにする」ということが社員、取引先への責任として現実の目標になってきます。私が一時期は「経費削減」を専門にしていたのも、これが効果的だからというわけではなく、これが自社で完結して短期間に確実に効果がある施策だからです。特に歴史の長い中小企業の場合、「大きな失敗がなければ、当面はなんとかなる」という会社は多いですが、その「大きな失敗」は中小企業の場合、社長自身の提携、投資、出店等の決定に起因することが多いわけです。そんな、「間違ってしまった決定」をここではある程度具体的に知ることができます。

長く、この欄を見ていると時代の趨勢のようなものもあります。2011年ごろは私も苦しんだ「為替デリバティブ」による倒産というのを何度も目にしました。最近では、ゴルフ場の会員権の償還困難というのが毎月のように出現しています。また、一時期のブーム、たとえば健康食品ブームにのって生産設備をン億円かけて拡大したが、収益が追い付かなかった、というものも多い。数でいえば中小企業が大部分なのですが、その中でもギリギリの局面になって不正経理が発覚しそれがとどめを刺す、という事例もいくつも見られます。

この欄を見るたびに、経営者の決断の重さということを実感します。果断に決断して失敗することもあれば、決断しきれずタイミングを逸してじり貧になる会社もある。社会の変化に対応しようとしても倒産し、対応が遅れて倒産する。ネットや本には、「自分はこんなに成功した。これを使うとこんなにうまくいく」という情報があふれかえってきて、そのコンテンツがたくさんのお金を集めています。しかし、それが自分の会社でも再現性があるか、というとそこから周辺環境との中で自社でも生かせる要素を見つけて、それを実際やってみて成功するか、というと決して確率は高くありません。成功は、細かな観察と修正を繰り返しながらトライアンドエラーを繰り返す、というのが方法がリアルでもネットでも基本であり、何千、何万ものそのPDCAの繰り返しの結果である、というのが唯一再現性をもって言える真実であり、あとの要素は、「偶然」でしかない、と言っても良いと思います。私はよく経営者の方に言うのですが、「経営に魔法の杖はありません」

 

これに対して、この「失敗」の記録は、環境変化についてもある程度具体的に記載されていることもあり、「これを自社もやったら危険なんだ」ということが、自分の問題としてもわかる貴重なものです。もちろん、記載されていることがすべてではないこともあるでしょうが、それでもいろいろな「落とし穴」のパターンを知っていると、そのような局面があったときに、「こんなリスクはないか?」と自分で検討できるようになるものです。それを自社の経験以外にもたくさん知ることができるのでとても参考になる、と20年近く見てみて思っていて、経営にかかわる方にお勧めしています。

同じような視点のものに、日経ビジネスに連載の「敗軍の将兵を語る」というコラムがあります。今は定期購読をやめてしまったのですが、これもその時何が起こっていたのか?を当事者が語ってくれるのでずっと楽しみにしていましたが、本当の原因をわかっていないで愚痴を言っているようなものも時々あるので、調査員がデータに基づき面白味を排して書いている倒産情報はまた別の価値があると思っています。一つ一つは読み物ではなくニュース原稿的なものであり短いので、そんなに時間はかかりませんし、何よりも「タダ」ですので。

「他社の失敗の事例をたくさん知ることができる」というのは、本当にありがたいことです。野村克也さんはおっしゃってましたね。「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けはなし」(これ、実は平戸藩藩主の松浦静山が書いた剣術書の中の言葉だそうです。)というのは、経営でも同じだと思います。

 

 

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