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アポコスト~顧問は採算に合うか?

一昨日、中小企業の市場開拓の現実解は「リーチ重視」ということを書きましたが、そうは言っても、今までの知り合いにだけ営業していても市場もアイデアも広がりません。最初の突破口は見えているリーチであったとしても、狙う市場セグメント(=地域、業界)に対してはやはり新規の開拓をせざるを得ません。ここでは法人向け営業、それも比較的高額であったり、生産や提携など不定形な重要商談、中小企業で言えば社長が出向くような商談の機会をどのように獲得する方法があるのか?ということを整理してみたいと思います。

 

■アポのコスト

提案書やサンプルを作ること、契約書や権利処理に専門家の力を借りること、それぞれ大変ではありますがこうした営業でもっともコストがかかる、あるいは難易度が高いのは「決裁権のある人へのアポ」ということはご納得いただけるのではないでしょうか。あるいはコストが高い、という言い方よりも、「一番のボトルネック」という言い方の方が適切かもしれません。

世の中にはテレアポの代行会社(営業代行・営業支援)というのがありますが、私はこれでうまくいった経験がありません。お金をかけると確かにアポが入るのですが、1件3~5万円ぐらいはかかります。そして、実際やってみると一担当レベルの人にしか会えないことが多いし、しかも事前に設定したニーズ調査トークに全然合致していないようなものがたくさん含まれている、という経験をしてきました。逆にこうした会社から電話がかかってくることもたくさんある立場でした。今まであったことのない会社にはなるべくあってみる、というのを家電店バイヤーの時から心掛けてきたのですが、流れるようなアポ会社のトークのうまさに感心しつつもすぐ外注だとわかってしまって、訪問してきた社員にお会いしたあとに「とてもトーク上手でしたけど、どこの会社使ってるんですか?」と情報収集したりしていました。ただ、この方法では、私みたいなもの好きで暇な経営者に行き当たらない限り、決済権者には会えませんし、私も買う気は最初からない、情報収集目的とテレアポ担当にはお話していますが、先方はそんなことは依頼主には言っていないことでしょう。それでは「依頼条件外」でお金がもらえませんから。

もちろん、市販のリスト会社からリストを買ってきて、それを元に電話をかけるよりは効率的ではあるでしょう。この「手あたり次第かける」はもう最悪です。コストが合わないだけでなく、自社の評価も下げ、その上、アポ率は中小屋号も含めたとしても、だいたい0.5%程度なのでよほど精神的にタフな人でない限り社員はみんないやになってしまいます。(私もやりましたが、ホント嫌になりました。)なお、この「リスト」に関しては、昔よりも制限が厳しくなっていることに留意する必要があります。個人情報保護法の施行・2017年の強化に伴い、本人が意図するところなく公開されたようなリストを使って営業することはかなりのリスクがあります。昔は、「名簿図書館」なるものがあり、そこにいくと「団体名簿」や「同窓会名簿」が有料で閲覧、コピーできるというようなものがあり、結構大きな会社でも活用されていたのですが、今はこれらの利用は無理です。そうなると利用できるものは、タウンページやハローページ(電話帳)をベースにした情報群か、自社で公開されたwebサイトぐらいしかない状況になってきています。

自社で行うか他社に委託するかは別として、知らない会社に紹介の電話をする、という方法が確率が低い理由は、もちろん「知らない人から営業の電話されても基本、人は聞く耳がない」からです。仮に、この電話があったことを真面目な社員が課長に報告したとしても、課長は、「営業でしょ?忙しいから資料だけおくってもらっておいて。」「お前関係ありそう、と思うんだったら聞いておいて」というのがいい方な、あるいは業界団体や市町村の産業振興系のまとめサイトの情報ぐらいになるのではないでしょうか?これも相当電話しましたが、ほとんど意味ないですね。若さの浪費です。

 

■会えるアポ、聞いてもらえるアポとは

もし、これが、あなたの会社のことを良く知っていて、会社の発展を願っているとわかっている人~たとえば、惜しまれて退任された前社長、自社のために尽力してくれている地元金融機関の営業マン~からの紹介で「なんか、役に立ちそう」と一言添えて紹介されたものだったらどうでしょう?たぶんあなたの反応はちがうでしょう。「しょうがないなあ。あってみるか」という確率は高いでしょう。これだけネットで情報を公開して検索するという時代になっても実際には、「影響力、信用力のある人」というファクターの重要性は変わっていないのです。そして、多くの場合、会社の決済権者やその人への影響力のある人、というのは大してSNSやブログを一生懸命やっても見てもいない、リアルの交流の方に力点がある人です。若い方には残念なことですが、まだまだ決済権者、予算を動かせる人は40代、50代以上が多く、この層にはどれだけTwitterやFacebook上で発信してもなかなか届きません。よく、こうしたSNS上で業務に関する発信を一生けん命やっておられる若い経営者の方がおられますが、その対象が同じような若い新興企業の経営者や社員に向けてであるならばそれはある程度有効でしょうが、そのターゲットが日本を代表するような伝統的企業であるならば効果は期待できません。仲間内のいいね、の押し合いっこが、「社会に支持を受けている」との勘違いを起こしていたり、決済権に程遠いが意識高い若者が関心を持って接触してくれたのを、「〇〇商事とつながった」と喜んだりするのを見ると、大企業の保守性、硬直性を体感したことのない無邪気な若者たちを哀れに思います。馬鹿にしているわけではありません。世の中、特に伝統的大企業はまだまだその程度でしかないという現実を踏まえるべきだと思うのです。しかもその先には、大企業には、「慣行主義」や「系列優先」などがあり、本当に商品が良かったとしても普通に説明の機会を得ても自社にお鉢が回ってくることは実際には期待できません。影響力のある人から決済権者に紹介してもらう、そのことはとても重要なことだと思います。

それならば、どうやってそういう紹介を得ればよいのでしょうか?あるいはどうやってそのポイントを見つければよいのでしょうか?実は、中小企業にとって、この「紹介を得られるネットワークの整備」ということは営業体制、あるいは商品戦略を立案する上で決定的に重要な要素です。特に、ある業界を攻めようと思うとき、その「パス」を得る手段を用意することはとても重要であり、これがないと先日書いた私の失敗のように、「絵に描いた餅」になってしまいます。

そのパスを探す方法には、たとえばこんなものがあります。

・その会社や業界団体の中の人OB 前職で同じ会社だったなど

・その業界に物を販売している、その会社から買っている会社の役員、OB

・高校、大学の同窓ルートや大学の先生の紹介:慶応大学はこうした相互支援が皆さん熱心と聞いたことがあります。私の出身大学は私が専門外の分野にいるせいか全然ですが、もしその専門分野の仕事をしようとおもい、きちんと関係を大事にし続けていたならば相談ぐらいはできる相手はきっとたくさんいたと思います。

・取引先銀行・証券会社の紹介 :商品に差があるわけでもなければ、必要なわけでもないのに、金融商品にお付き合いしたり、営業担当と会食したりするのはこうした情報が欲しいから、というのが企業の金融機関のお付き合いの動機のかなりの部分を占めます。そういう目で見ていない若い経営者は多いように思います。

・趣味の会のつながり:代表的なのはゴルフですが、外車、ヨット、楽器、マラソンなど経営者が好む趣味の集まりというのがあり、意外に同じ業界でサークル化しているものもあります。もっともこれは私には敷居が高い。

・同郷つながり :こればっかりは変えられるものではありませんし、一人一人違うので業界を開拓する、というよりも個別のケースでのつながり探しの方法になりますが、話のつながりやルートを探すという点ではヒントになります。実際会った時の話題にもなります。

このうち、下の4つについては、簡単な説明を付与しておきます。業界調査などによりリストアップした「会いたい人リスト」に対して、こうした視点からアポが入らないかを調査するのです。相手が社長であるならば、webサイト、有価証券報告書、会社四季報、帝国データバンクの会社調査などでこの4つについては状況を調べることができます。ちなみに、一昨日、町工場に電気を販売する企画をしようとして、業界団体や地域団体を何百もあたって大いに空振りした、という話を書きましたが、その時、唯一町工場が話を聴いてくれる影響力があることが顕著にあったのは、「地域金融機関」でした。ただ、そこには私の会社はネットワークを張っておらず、そのネットワーク作りから始めなくてはならない、というところまではわかったものでした。

 

■「顧問」を探す。

しかし、もっと効率の良い方法はないものか?と思ったとき、ある「業界」を絞り込めていた際には、その業界に顔の効く人を探し出して、「顧問」として協力してもらう、という方法があります。私は過去3社で50人以上の「顧問」の方にお世話になったのですが、こちらのニーズと相手の持っている情報がはまった時にはとても大きな力を発揮しました。たとえば、以前の会社で「大型店を多店舗展開する会社へのアポを入れたい」、と思った時、家庭用品メーカー大手の営業担当役員だった方にかつてその方が開拓したお取引先である全国のホームセンター数十をご紹介いただき、時には雪の青森まで社長との面談にご動向をいただき導入の促進を図っていただきました。自分で一からDMを送ってお電話していては一個もアポを得ることはできなかったかもしれません。

「顧問」というと社長が会長になり、相談役になったあとになるもの、と思われるかもしれませんが、この場合はそうではなく、社外の協力者に対する呼称であり、若くてもよいです。この顧問を探す方法については、これらを紹介するサービスを行っている会社というのがいくつかあるのですが、私も使ったことがありますがぴったりの人はなかなか見つかりませんし、当然間に入った会社が料金を抜いていますので、割高です。できれば自分で探したいものです。ここから先はケースにより相違するので一般的な話は難しいですが、たとえば、先ほどの例でいうと「ホームセンター」にたくさんアポが欲しいと思った時に、ホームpセンターの業界の人を探そうと思うと、多くの会社は社長であっても他社とは賀詞交歓会で挨拶した程度という人脈しか出てこず、「業界団体の専務理事(監督官庁等の出身者のことも多く、その場合はあまり役立たない)、理事長(これは結構顔が利くことが多い)」というところをまず調査してみることになります。理事長にお話を聴いて、その業界に役に立つ、と思ってもらえれば、会合の際にご説明させていただく、というような機会を得ることもあります。一方、その業界への販売側、先ほどの例でいうと商品のメーカーの営業部長級、ですと一人でたくさんの会社の幹部の方と関係性を有していることが期待できます。ただし、この人脈は多くの場合、「商品部長や商品担当役員」というところから、力がある会社の方だと社長までお会いしている、という形になり、管理部管掌役員とは縁が遠かったりします。この辺を調査しながら、適当な方がいらっしゃらないかをお願いするのです。

 

ただし、ここで気を付けなくてはならないのは、「人脈を売ってください」という態度では大抵うまくいかない、ということです。(まず失礼で怒られます。)その業界の近代化・合理化に役に立つということを納得していただいたうえで、普及させるプロジェクトメンバーになっていただき、その一部がアポの協力り、あるいは業界への様々な形の貢献をその人を通じてする、という形でないとその方の人脈にも傷をつけてしまいます。

顧問を探すのにはかなり時間がかかります。しかし、いい方がいれば相当の力になりますし、一人見つかるとその方の周辺にさらに何人かいらっしゃるというケースも多くあります。顧問にお支払いする報酬も必要ですし社員同様に顧問とのきちんとしたリレーションの確立も必要ですが、質の高いアポをきちんと入れることができる、という意味ではとても価値がある方法論であると思っています。

また、今の世の中では、役職定年や定年を過ぎた営業系の方が活躍する場、というのが限られています。上場企業の管理系や技術系、企画系の方がその技能を生かせる、という評価を受ける傾向があります。しかし、この「顧問」については営業系で活躍されきちんとした人間関係を構築された方の価値は非常に高いものですので、これらの方の活躍の場を作るという社会的観点からも価値があると思っています。

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