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営業の科学と幸福1 組織管理からの解法

 かつて私が勤めた日本を代表する営業会社では、社長の「君たちは営業会社に入って営業という仕事をすることができとても幸運だ。営業スキルさえ身に着ければ、時代が変わって商品が変わってもずっと仕事をすることができる。そして、営業は人と接する過程で人生を豊かにしてくれる」という言葉がポータルサイトに掲載されていました。それは半分は本当だと思っています。本格的に法人営業に取り組む中で知り合った方との信頼関係は、一生の財産となり、会社と同僚には今とても感謝しています。

 しかし、同時に、営業組織を今度はマネジメントする側としては、どんどん科学的にその方法論を突き詰めれば突き詰めるほどに「人が働きたいと思う動機」との乖離を感じ、最終的には私がその会社を辞める最大の原因になりました。先月、「圧倒的なコンテンツ力があればものは売れるのか?」というテーマで寄稿したら、通常の3倍以上のアクセスをいただき、また反響も大きかったので、今回はその続編として「営業の科学と幸福」と題して、3回に分けて手法と問題点をお話しします。

なお、本サイトは、経営的立場の方に向けて私が体験からの考えをお話するものですので、「営業組織をマネージメントする」という視点のものであり、「営業担当者個人」からの視点ではないことをあらかじめご承知おきください。また、ここでは「法人向け訪販」または「電話販売」等のアウトバウンド型の販売を想定しています。

 

【売れる人だけ採用できればよいのだが・・・営業力とは何か?】

訪問や電話での販売、特にToBの販売では売れる人は売れるし、売れない人は売れません。その差は10倍以上も開きます。しかも、長くやればうまくなるとか、知識をつければ売れる(ないとただのインチキですが)かというと全然そんなことはない。ましてや学校の成績は全く関係ない、というかむしろ反比例の傾向すらあります。(学校の成績のいい人の結構な割合の人は、「お金をもらうことが汚いこと」「無償奉仕が善」という家庭・学校での非明示的な道徳教育の影響を受けています。)また、販売力のベースになっているのは、相手のニーズへの洞察力、そして当意即妙の対応の語彙力と親しみやすい人間性、傾聴を優先する対人関係力(心の壁)というようなところがベースにあり、これらはその人の幼いころからの人間関係や読書量に決定づけられているものです。もともと潜在力のあった人が他社の事例や分析手法をトレースする過程で覚醒することはあっても大人になって短期に錬成できるものではありません。逆に売れる人は外車を売っても、コピー機売っても、業界がわかり人脈が構成されてくると売れるものです。ただし、そういう人はほんの一部でしかありません。ここが大事なところです。

私はかなりの数の面接を日本でも実施してきましたが、「こいつは売れないな」というのはほぼ面接で判断できます。でも、大丈夫そう、と思ってもいざ採用してみるとだめだったケースは実はたくさんあります。短時間の面接だけでは、心の中に潜むその人の心の中のハードルをすべて見切ることはできないのです。履歴書や職務経歴書も「社内で〇位だった。社長賞受賞した。」と書いてあるのですが、全然当てになりません。そして、「この人は絶対売れる、大丈夫だからお金を積んでも取るべき」と確信する人は、とても高くて社長の承認が得られないか、自分の会社に来てくれない(もっとお金を出す他社へ行く)、それが中小企業の現実です。

 

結局、「売れる人」を正確に判別するのは結構難しいし、それでもわかるような明らかに「売れる人」は引っ張りだこで、給与水準もそれほど高くなく有名でもない、あなたの会社には来てくれないのです。まず、その現実を受け入れる必要があります。つまり、中小企業の営業の課題は、「大して売れない人」を使ってなんとか売上を上げる、ということなのです。

 

【「売れる」を因数分解する】

家庭用洗剤のCMのようですが、社長さん、あなたは「売れる」「売れない」という一つの基準で判断し、「なぜ売れないんだ」「やるといっただろうが」と怒っていませんか?そして、その叱る相手から帰ってくる答えにならない答えに余計腹を立てていませんか?それがわかっているあなたの部下はもう思考停止して「謝って、その場を何とかやり過ごす」という思考に陥っています。謝っていても何も解決しておらず、翌月も同じ光景がまた繰り広げられます。これが日本の多くの中小企業の社長さんと営業部長の月末の風景です。

そこでよく用いられる(私が独自に考えたものではないです。)のが、「売れる」をひと固まりにとらえるのではなく、要素の掛け算、足し算として分解してその要素ごとに怒る、じゃなかった、要素ごとに分析する、という考え方です。これができていない会社が実に多いと思います。

 

わかりやすい例を挙げてみましょう。ここでは、電話をかけて関心を持った人に、資料を提供してもらい試算を送って、お電話でOKそうならばご訪問してお申し込みをいただく、というような業務を想定します。この時、

売上=契約顧客数(1)×平均単価(2)は明らかでしょう。

平均単価は、お客様の経営規模や業種で区分することもできますが、ばらつきが小さかったりすれば、一旦一律でもよいので、過去のデータからいったん、50,000円/件だったとしましょう。では契約顧客数はどのように決まりますか?それは実務を担当している人の中には、明示されているかいないかは別として実は答えがあるものなのです。

例えば上の例だと次のように分解できます。

契約顧客数=訪問顧客数(3)×訪問時獲得確率(4)

訪問顧客数=明細提供・試算送付済み顧客数(5)×アポ獲得確率(6)

明細提供・試算送付済み顧客数=提供承諾顧客数(7)×明細提供実施確率(8)

提供承諾顧客数=お電話応答顧客数(9)×承諾確率(10)

お電話応答顧客数=架電件数(11)×通話に至る確率(12)

以上をあわせると

売上=(2)×(4)×(6)×(8)×(10)×(11)×(12)という形に「因数分解」されるわけです。

 

 一旦、素直な分解をしてみましたが、営業管理者によって、あるいは業務によっては重要な視点が相違する場合があり、その場合は、変数を設定する場合があります。分解方法に正解があるわけではなく、大事なのは、この次に説明する「何が重要な要素なのか?何が足りていないのか?」を構造的に取り組む、ということなのです。これは電話アポ訪問販売だけでなく、すべての営業業務のアウトプットとインプットをこのように分解できるはずなのです。この方法がうまくできない場合にもっとこれを深く考える方法については、(たぶん)次回ご紹介します。

ちなみに私のお付き合い先では、これを社内の複数業務で納得がいく形で作成するだけで1か月程度の時間を要しており、これは決して簡単なことではありません。ただ、これが最初から「正解」である必要はありません。いったん妥当そうな分解をして、次のフェーズに進んでください。その理由は後程ご説明します。

<私がこのブログでなんでもノウハウを無料で開示しているのは、「知っているのとやれるのとは大違い」であり、「見てなるほどと思ったが、やってみるとなかなかうまくいかない」という会社をお手伝いするのがお互い一番メリットがあると思っているからです。>

 

 

【変数を観測する】

ここまでできたら、次にやることはこの(2)~(12)の変数が実際にはどうなっているかを観測することです。売上と(2)平均単価は観測されているはずです。実際には、カウントする「観測変数」のは、(3)(5)(7)(9)(11)の5つで、(4)(6)(8)(10)(12)の5つはそこから計算で得られる変数です。これを担当者毎にEXCELで1週間集計させてください。もちろん、個人差があり、そこにも重要な情報が含まれているのですが難しいことは考えず一旦、その業務の全担当で集計してすべての変数がどうなっているかを確認してみてください。そうすると、現状での「売上=(2)×(4)×(6)×(8)×(10)×(11)×(12)」が可視化されます。

このうち、担当者が直接コントロールできるのは、(11)の「架電件数」だけで、他の偶数番はすべて「確率」であり、これらは「対応品質」を表す変数であると捉えます。一見、「お客さんが明細を提供してくれるかどうかの確率なんてこっちではどうにもできないよ」と思われるかもしれませんが、そういう管理者がどういう行動をとるか、というとその人にとっては、(11)の架電件数しかコントロールできないという世界が見えています。そうすると、意味もなく電話の件数をひたすら架けろ、と怒鳴り散らす、という頭の悪い営業責任者となるわけです。そうなると、質のいい人から辞めていき、他では通用しないか、よほどこの業務でいい成績を上げられる人しか残らないで補充に追われる、という営業部が出来上がります。

 

【変数を制御する】

短期的、今日できる制御としては、上の頭の悪い営業マネージャーではありませんが架電件数しかありません。しかし、架電件数はまじめにやってもたかが知れています。しかも、90%程度がでないか、無言ですぐ切られます。残りの半分ぐらいは法人相手だとむしろ怒られます。私の知る限りでは一日550件ぐらいかけたという猛者が大卒新人でいますが、大抵いやになります。これについては次回記載します。これを1000件にすることはそれこそ夜中まで缶詰にして受話器を手にガムテープで巻き付けさせでもしない限り(むかしそういう会社が東京の某所にあったそうですが)物理的に不可能であり、そんなことをしても今の時代人が辞めてしまって結局数字は上がりません。

 上でも申し上げた通り、営業マネージャーが本当に制御すべきは、上の(2)からの偶数番の「品質」変数です。これらは掛け算で効いてきていますので、たとえばこの例では6個の品質変数がそれぞれ2割アップすれば、1.2の6乗で売り上げは3倍になります。3倍になれば担当者も少しは救われることでしょう。この品質変数に分解した時点ですでに、各変数をあげるために、できる工夫、というのが分解した当人たちにはいくつか思い浮かんでいるはずです。たとえば、同梱する資料の内容だったり、電話のトークだったり、訪問する際の粗品だったり、いろいろなアイデアがあり得ます。まずはそれを大雑把に列挙してみてください。そのうえで、どの変数はどのぐらいまで上げられそうか?そして、その結果、全体としてどこまで数字をあげられそうかの目標を設定する、というのがこの段階です。

 

そのうえで、割と早期に大きく上げられそうな変数「一つ」にまず着目し、それを上げることにしばらくの間は集中します。他の変数はしばらく現状維持でよいのです。(と言っても、このような取り組みを始めた時点で各担当者はそれぞれの内容を改善数ことを意識し始めているので自然と工夫していることが多いのですが、それはそれでそのままにしておいてよいです。)できれば、毎日、それがむりならば週に1回でも、みんなで決めたその変数を実施するための施策の実施状況と実際に各変数がどのようになったかを公開し、何が足りていないのか?あるいは、もっと他によい施策はないのか?をその変数についてのみ徹底的に議論します。そして、成果が上がった方法については、全員が実施するようルール化します。

ここでは、「成果のあがりそうな変数」から着手する、ということをお勧めしましたが、これは「成果が上がり始めるとみんなが協力し、みんな前向きになり知恵がでるようになる」という面と「分解して具体的に考える、ということを一度始めるとやっているうちに細かな点が色々見えてくるので、最初に後回しにしたものの問題の構造や対処方法があとから見えやすくなることが多い」という経験からそのようにお勧めしています。ただ、ものの本によると「経営的に重要な要素いくつか」に集中して対処することを指導している会社もあるようです。他部門と共通の変数を優先対処する、ということは大きい会社ではあるかもしれませんが、小さい会社ではそこまで気にすることもないと私は考えています。

 

やがてその変数があらかじめ決めておいた目標値を達成すれば、一旦その変数についてはその対処を固定します。マニュアルはいったん完成です。そして、次の変数へと対処を移行させます。これを1週~2週のタームで次々と変数を変えて取り組んでいくのです。いつまでも目標値に達しなかったら…その目標値は不適切なのかもしれません。その場合、最初の全体の式に戻って、他の部分で補えそうかどうかを見てみてください。おそらくは、その時点ですでに売上予算は、「目標を改善期間後に達成する」ことを前提に組んでしまっているのでしょうから、まずは代替策を考えるしかありません。

 

【それでも達成できない時】

もし、全体をやっても目標に大きく届かない状況が見えてきたら…その時はモデルが間違っていたか、目標値が間違っていたかです。モデルが間違っている、という場合他の分解方法に立ち戻ってみてもっとしっくりするものがないかを見直してみるのがよいのですが、一度そのチームでモデリングするとなかなか他の分解が思いつきません。そのような場合は、「一番若い人に考えてもらう」「他部門の人とディスカッションする」というようなことで視点を変えることをお勧めします。

 

それでも到達できなかったら…それが営業責任者の責任、という結論にいったんは至るのが組織の論理なのでしょう。ただし、それでも到達できないのは、実際には、「市場に商品があっていない」「価格があっていない」「プロモーションがあっていない」「販路があっていない」「人材の質がその商品の拡販には不足」という商品マーケティングの問題に原因があることが多いのです。今回は、「営業人員の日常管理」について説明を記載してきましたが、この上流が適切でないと営業担当は「犬死」します。それは営業責任者の業務分掌かもしれませんが、経営者の責任でもあると私は思っています。

 

すでに6千字に達していますので、今回はここまでにします。次回はこうした科学的アプローチをできる営業責任者をどう選ぶか、そして実際にやった場合に起きうる問題についてお話したいと思います。

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