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5000円ちょうどなくなるレジ

20世紀末、家電小売業のお店に勤務していたころ、私の担当はパソコン、ワープロ(懐かしい…)、携帯電話や電話、電子辞書などだったのですが、同じフロアにCDコーナーとゲームコーナーがあり、平日の人が少ない時間帯は応援することがありました。超高額商品だったPC類を社員で対応するPC売り場と異なり、こちらはアルバイトの学生たちが喜々としながら仕事をしていてずいぶんと楽しそうな売り場でした。

ところがある晩20時過ぎ、レジ締めをしていると、そっちのレジから、アルバイトの男の子の声で「イサンでーす」。

違算がでると、原因調査し判明するまで帰れません。それでも1円単位で相違することは実は月に1,2回あるのが実情でして、原因をしらべてもわからないことがほとんどなわけです。

当時からほとんどの商品はJANコードをバーコードリーダーで読み取る方式でしたが、大型商品は社内コードを用いたり、あるいは価格交渉の結果値引いたものは価格を修正して入力することも機能上可能になっていました。そのため、「本当に1円多く渡した。」「5円玉と10円玉を間違えた」というようなミスのほか、電卓で計算した金額や釣銭と、実際入力した金額が相違している場合もありますので、全員で集まって、価格修正入力した顧客の記憶を検証し始めたりするのです。それでも大抵の場合は原因が不明なことが多く、また10円未満の違算がほとんどのため、過去多かった違算のお金をとっておいて不足したときに補充するような「秘密資金」が各売り場にあったりしてそれで違算をなくしていたのが実情でした。ちょうどそのころ、家電店は、朝10時開店夜8時閉店が主流になり早番遅番制度が敷かれるようになったため、早番の人で怪しい伝票があると、自宅に電話して究明したりもしていました。まだ、みんなが携帯電話を持っていなかった時代の話です。

 

その日のファミコン売り場の違算は、「5000円ちょうど不足」(5000円多く渡した。)でした。その売り場でそれが起きたのは私が知る限り初めてのことでした。その日の担当は、長くアルバイトをしてくれている男性と今年の新入社員の男性、それと数日前からアルバイトを始めた色白美人の女子大生でしたが、彼女はその日は早番で退勤していました。

当然、彼女が怪しい、ということになるわけですが証拠もないので、売り場責任者が店長に報告し、一旦報告書を作成し、次の彼女の出勤日に合わせて朝礼時に今でいう「1万円入りまーす」を1万円と5千円について実施することになりました。ただ、一旦入金したものをあとから人のすきを見計らってレジから抜けばこの対策は意味がないわけです。その日も彼女は早番で、売り場はみんなが彼女を見ていないようなふりをしつつ監視している嫌な雰囲気でした。

そして、彼女が18時過ぎに退勤後、作戦通り以後の売り上げはPC売り場のレジへ誘導することとしてそのレジを大急ぎでクローズし、残高チェックをしたところ、今度は「1万円ちょうど不足」の違算がでました。売り場責任者の想定(経験)通りでした。「金額は増える」「繰り返される」「たぶん早期に辞める」と彼は事前にみなに言い、対策を店長と立てていたのです。

事務室では店長が「入店1週間面談」とか理由をつけて彼女を引き留めていたところへ、売り場責任者と私が駆け付けました。(私がその前に自転車で逃走する万引き高校生を靴を脱いで追いかけて、自転車引き倒して捕まえたという事件があったためです。)そして、男3人で尋問すると、彼女は実にあっさりと白状しました。その様子がまるで悪いこととも思っていないかのような様子だったのを非常に鮮明に覚えています。もちろん、彼女は解雇となり、親が群馬県から呼び出されました。そのあとのことは店長と売り場責任者が処理していたのでよくわかりません。

その後、本社でPOSを更新する企画が持ち上がった時も、自動釣銭機という要望はバイヤー陣からも店舗からも強くあがりました。ただ、当時はまだ大型で高くて導入には至りませんでした。それだけ違算、それもこのような抜き取りの問題というのは深刻だったのです。店舗経営では万引き被害がよく問題になりますが、社員による金銭や商品の持ち帰りというのもその中にはどれだけかはわかりませんがかなり含まれています。

私はその後転職を繰り返し、各種システムを販売したことがあったのですが、2000年代にはハードディスクが普及したので長時間複数チャネル録画の監視カメラ、2010年代には本体も小さく、メモリーカードでネットワーク不要の防犯カメラが値下がりして使いやすくなったのでかなり売れました。その際もオーナーにご説明に伺うと、実は入り口や駐車場に向けるのではなく、「レジ手元」に向けたいという要望が実に多かった、というか投資額上1台しかつけられない、その一台をそこに使うというのが大半だったのです。

 

店長に「真面目そうな人でこんなとこにアルバイトに来る奴はなんか気を付けないといけないんだよ、お前とかもそうだったけど(Wwww)」に言われて、人間ってそんなものなのかなあ、と若かった私は思ったのでした。コンビニやスーパーでは最近は自動釣銭機が主流になってきました。こうしたハードウエアが性悪説に立って自動化されることに、この事件のことをあの美人のアルバイトの顔とともに思い出しながら人間の性の深さを思うのです。

 その売り場責任者の方は、それから少しして実家のお寺を継ぐべく頭を丸めて退職されました。修行にいく、とかいうことで送別会もなくお別れしたのですが、最後に指導されたのは、「違算には厳しく望まないと現場がルーズになる」ということでした。

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